ダートトラックライディングの基本原理はスライディングブレーキ走法 = 後輪の物理ブレーキを使わずして車速を落としつつ、ターン出口を目がけてマシンをいち早く旋回させる・・・のが "はじまりの第一歩" だと、こちらのコラムでは度々ご紹介しています。がしかし! だからってこの競技の取り組み全般で、一切ブレーキ使うべからず! なんてこと、実は筆者は一度も言ってませんからね。今回はマニュアル社会の申し子で、応用とか融通の効かない "従順な教えて君" ? な皆さんに、明日から早速取り組みたい "その先の二歩目" を改めて考えていただくことにしましょう。

"〇〇しないのが基本"てのと、"〇〇してはいけない"は根本から違います

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。今年に入って春から夏あたり、数人の方から言われたんです。"ハヤシさんのコラムには後ブレーキはいらないって書いてあるけど、世界のオーモリさんとか他の上級ライダー達、頻繁に使ってませんか? どっちが正しいんですか???" いやいや久しぶりにビックリ。アゴ外れかけコシ抜かしかけ。

えー、あー、どちらも正しいんです。
まずはこちらの基礎教典をご覧ください。

毎週続けて本日86本目となる当コラム、開始早々第3話で掲載したのがこちらの回なんですが、想像を超えた反響を各方面から頂戴しまして、似た内容で某雑誌にカラー数ページ特集していただいたり、このスポーツの基本を広く知っていただく、ひとつのきっかけとなったように感じています。

今読んでもなかなか巧いこと纏まってますね、と自賛。
で、最後にはちゃんと書いてあります。

というわけで、このノーブレーキで横向きにマシンを走らせる走法が、ダートトラックでのオーバル周回のための "もっとも基本的なテクニック" ですが、実際のレースではライダーはリアブレーキをそこここで使っています。上記の原理原則は維持しつつ、ライバルを出し抜くための細やかなラインコントロールに、滑る路面とタレるタイヤを、チェッカーフラッグを受けるその瞬間まで仲良くさせ続けるための"トラクション・コントロール装置"として。またあるいは、前走者が不意に転倒した際の緊急避難のために。

我が国の実際のレース現場で皆さんが目にすることのできる、最大で400m級の "ショートトラック" と、本場の "2気筒750cc以上でのマイル / ハーフマイル" ではもちろんその仕事量の差はありますが、上の文章のあと続けて紹介している "真っ赤に焼けたリアブレーキローター" の一例、今日のコラムのトップ写真として使ってみました。マシンはXR750 / ライダーはGNC5 ジェイク・ジョンソン / チューナーは現在インディアンファクトリーチームを率いるデイヴィッド・ザノッティです。

ご存知かどうか、ハーレーダビッドソン・XR750やROTAXは右チェーン / 左ブレーキローターのレイアウト。それらが主流で活躍していたかつてのレースシーンでは、こういった様子が数多くの写真に収められています。では現代は? 日本製450ccモトクロスバイク = DTXや、近年シェアを増やすカワサキやヤマハなどのプロダクションツイン、そしてレース専用車であるハーレーXG750やインディアンFTR750もすべて "左チェーン / 右ブレーキローター" のため、このようなターン内側からの写真で赤く焼けたローターを捉えるチャンスはほぼありません。そしてターン外側からだと遠すぎて確認できないのです。もちろん赤く光って見えるのは薄暗がりのナイトレースの時だけですし。

図像として目に見えないことはなかなかイメージできない、ってのももしかしてあるんでしょうか。とにかく必要に応じ = つまり競争の中で他者を出し抜くために、ただの減速とか停止なんてのとは比べものにならない、チョー繊細な高い次元で "ダートトラックではリアブレーキを使います・・・ただし! 使わず周回できるようになったその先で" 、というのがより正確な表現かもしれません。

画像: リアブレーキ使用中の図

リアブレーキ使用中の図

画像: リアブレーキ不使用の図

リアブレーキ不使用の図

こちらの2枚の写真、スペイン・バルセロナでのプラクティスの同一セッション中で、当地のレースレギュレーションに合わせた特殊な "17インチDTX" を駆るアメリカ代表のGNC6 ブラッド・ベイカーですが、進入バンク角やカウンターステア量や体幹の傾きなどはちょっと傍において、右足のみに注目すればリアブレーキを使ってるか否かは一目瞭然です。膝〜つま先の向きで大雑把に判別可能。

リアブレーキ使用の有無は、トラクションを左右するタイヤの接地圧などにも確実に大きな影響を与えます。実際比べるとブレーキ使っている写真は前タイヤ潰れ気味?後タイヤ浮き気味の様子です。また余談の情報ですが、彼のように最近のダートトラックライダーがクラッチレバーに人指し指一本をかけるのは、本場のほぼすべてのPROマシンに装着される "スリッパー / オートクラッチ" の持つ、旋回中にどうしても対応しきれない一瞬のネガを手動で補うため、と本人申しておりました。

やっていることは単調至極でずーっと50年、一見さんには進化も変化もまるでなさそうに思われがちなこのスポーツですが、留まる事を知らない細やかな深化については目を見張るばかりです。

"どうしたいから" ・ "どのくらい" ・ "どうやって" 使うのか?

という事なのでリアブレーキは状況に応じて可能なら使うべし、という前提で話を進めましょう。
どうやって・どのくらい使うイメージか、それについてはこちらの回にヒントがあります。

スピードを "削る" ために "絞るように" 操るのが良いとのこと。筆者ハヤシの思いつきや思い込みじゃないですよ。本場AFTライダーがビギナー向けに説いた図解からの受け売りですからね。カチっと効いて瞬時に後輪がロックするような神経質なブレーキタッチは、このスポーツには全く向いていないでしょう。

様々なライダーのマシンにちょっとだけ乗らせてもらう機会、筆者はしばしばあるんですが、このブレーキの調整までキッチリと済んでいるマシン、正直ほとんどお目にかかりません。一応ついてて踏めばブレーキ掛かる・・・とか全然NGです。もちろん好みのフィーリングは個人差あると思いますけど。使え (るように考えられて) ないのばっかり。まだまだだな・・・。

使い方を理解したら正しい方向へ近づけるセットアップを探求。

現代の "吊るしのマシン" で言うならば、市販450ccモトクロッサーのリアブレーキはそのままのセットアップでは "効きすぎます" 。モトクロス競技のタイトコーナー手前でプロライダーたちがリアブレーキをガーンと踏む様子を観察していると、マシン直立状態でパタタタタっとほぼロック状態に持ち込んでいることがわかります。これに対しダートトラックでは、よりルーズに・ロックしない範囲での微細なコントロールレンジが要求されるのです。しかも使いたいのはマシンがベタっとフルバンクしている状態で、です。

また例えば2ストローク85cc / 4ストローク150cc級の各社水冷ミニモトクロッサークラスでは、リアブレーキに頼らない開け開けの走らせ方が設計の基本思想となるのかとも想像しますが、これをダートトラックマシンに転用した場合、上級ライダーがグイグイとブレーキを多用してレースモードで乗ってみると、わずか10数周でフェード現象を起こし使い物にならなくなるケースを度々目にします。本来想定される使い方でない以上、大容量化などの工夫・対策も必要になってくるでしょう。

画像: 年代物のKTM 2ストロークダートトラッカー。K・ロバーツフレームのこちらは今や古色蒼然たる銀色BOX形状の "ハースト・エアハート" 製マスターシリンダーを選択。多分効きは悪いけれど種目に必要なのは"その"特性。

年代物のKTM 2ストロークダートトラッカー。K・ロバーツフレームのこちらは今や古色蒼然たる銀色BOX形状の "ハースト・エアハート" 製マスターシリンダーを選択。多分効きは悪いけれど種目に必要なのは"その"特性。

画像: 現代の450ccモトクロッサーから作る "DTXマシン" では、リアブレーキペダルを中間部で切断し角度を変えて再溶接するモディファイも一般的。モトクロスではスタンディングで走る場面が多いためステップとブレーキペダルの位置関係は "ほぼ水平" だが、ダートトラックでは着座でフルバンク時に使いたいのでレバー位置を低くしたい。元々強力な制動力を弱めるためブレーキパッドの "当たり面積" を半分に減らすなどの工夫も有効。

現代の450ccモトクロッサーから作る "DTXマシン" では、リアブレーキペダルを中間部で切断し角度を変えて再溶接するモディファイも一般的。モトクロスではスタンディングで走る場面が多いためステップとブレーキペダルの位置関係は "ほぼ水平" だが、ダートトラックでは着座でフルバンク時に使いたいのでレバー位置を低くしたい。元々強力な制動力を弱めるためブレーキパッドの "当たり面積" を半分に減らすなどの工夫も有効。

画像: 2つ上の70年代的マシンと大差ない構成だが、こちらは2000年代初期のC&Jフレームのマシン。このいかにも効かなそうなグリメカ製マスターシリンダーと激しく効率の悪いロッド・リンク形状、踏むとちょっとしなる華奢な細い丸棒のブレーキペダルの組み合わせは現代でもダートトラック界でのベストコンビネーションのひとつ。

2つ上の70年代的マシンと大差ない構成だが、こちらは2000年代初期のC&Jフレームのマシン。このいかにも効かなそうなグリメカ製マスターシリンダーと激しく効率の悪いロッド・リンク形状、踏むとちょっとしなる華奢な細い丸棒のブレーキペダルの組み合わせは現代でもダートトラック界でのベストコンビネーションのひとつ。

画像: こちらはDTXのノーマルブレーキユニットを捨て、ステップ位置を大幅に下げたのち伝統的なグリメカ・マスターと長大なリンクで "効かないブレーキ" を追求した個体。ちなみにスイングアームもノーマルのアルミでなくC&J製クロモリタイプ。サスペンション形式もよりダートトラッカー (フレーマー) に近づける工夫が見られる。

こちらはDTXのノーマルブレーキユニットを捨て、ステップ位置を大幅に下げたのち伝統的なグリメカ・マスターと長大なリンクで "効かないブレーキ" を追求した個体。ちなみにスイングアームもノーマルのアルミでなくC&J製クロモリタイプ。サスペンション形式もよりダートトラッカー (フレーマー) に近づける工夫が見られる。

画像: 現代版EFI仕様の450ccフレーマーでもブレーキレバーは細い鉄丸棒がお好みらしい。マスターシリンダーとキャリパーは見るからに日本製の純正部品だが、ピストン径を変えて効かなくするなどやはり工夫はてんこ盛り。

現代版EFI仕様の450ccフレーマーでもブレーキレバーは細い鉄丸棒がお好みらしい。マスターシリンダーとキャリパーは見るからに日本製の純正部品だが、ピストン径を変えて効かなくするなどやはり工夫はてんこ盛り。

画像: ナイトフレーム + FTR223エンジン車に筆者デザインで製作した "それっぽく効く" ドラムブレーキ用ペダル。

ナイトフレーム + FTR223エンジン車に筆者デザインで製作した "それっぽく効く" ドラムブレーキ用ペダル。

ディスクブレーキに比べて一般的に制動力に劣るドラムブレーキは、ダートトラックに優しいタッチを比較的容易に作り出せますが、それでもやはり一般公道を走るストリートバイクではありえないほどルーズかつ繊細なセットアップができているか否かでそのパフォーマンスは雲泥の差となります。

書いてあること聞いた話のその先は、"闘技場"で自ら発見してください

とまあ驚きのあまり今回は長々書いてしまいましたが、筆者のコラムはあくまで知識や情報の泉。考えるヒントとして使ってください。ガブガブ鵜呑みにして知恵熱やらお腹を下しても・・・走って転んだり勝ったり負けたりする当事者は、筆者でなく皆さんご自身ですから。整理して、使える部分、ビビっと来たポイントだけ有効に掘り下げていただけると良いかと思います。

特に先週書いたように、もうレースで負けたくないのならば。

そういえば筆者自身、スキルは教わって身につけた気が一切しない・・・

しかし教わったり学んだりって、本当に難しいですよね。モーターサイクルのスポーツライディング、しかも競争する分野においては、教わることより自ら悩んで探求した過程で得られることの方が絶対多いはず。無駄もあるけれど課題は端から順番に、淡々と自ら攻略していくしかないようです。

教わって即ダートトラッカーになれるなら、簡単に競技人口どんどん増えていいだろうなぁ。
なんて。
習うより慣れろ、ですからね。
ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

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