1970年代から80年代初頭まで、本場アメリカのプロ・ショートトラック戦、あるいはアマチュアレーサー向けのダートトラックマシンといえば、軽量ハイパワーで構造がシンプル・比較的安価でチューニングの方向性も定めやすい "空冷2ストローク250cc" が最良の選択肢でした。完成車ブルタコ・アストロや、ヤマハYZ250エンジンはその筆頭ですが、調べを進めると、数年後に名車RS500D / 600D をこの舞台へ送り込むホンダも、他社と同様にメイカー主導でのエンジンチューニングや、2ストローク・ショートトラッカーのコンプリート車両販売を模索していたことがわかってきました。

名匠グリフィス作のプロトタイプを進化させ、一般ユーザーへ販売を企画!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。古来より、最も安価にモータースポーツ / レースを楽しむ方法とは、テレビの前で (今ならPCやスマートフォンで) 観ること、次善の策は会場まで足を運んで見物すること・・・などといった冗談があるように、競技参加型のモータースポーツ活動はプロアマ問わず、大なり小なり資本力が必要です。

道具を使うスポーツのひとつであるダートトラックも当然、感性やライディング技術だけでなく、練習と実戦での経験の質と量・正しいチューニングの理解と追求・周囲からの手厚い援助、そして活動資金・・・様々な条件の総量掛け合わせでこそ勝敗は決まるものだと考えて差し支えないでしょう。もし、ろくに準備も練習もないまま、調子の悪そうなオンボロのノーマル車で易々と勝てるレースを走るライダーを見かけたら、それは残念ながら本人が出場するクラスを間違えているだけです。

画像1: 名匠グリフィス作のプロトタイプを進化させ、一般ユーザーへ販売を企画!

さて本題。ホンダが手掛けた "市販ダートトラッカー" は、1983年シーズンから登場した2気筒のRS750D・単気筒のRS500D / 600D が有名ですが (いずれも専用設計・チューニングの方向付けがなされたエンジン単体での販売) 実際にはその5年ほど前からチャレンジは始まっていました。

未知のカテゴリーへの挑戦にホンダが選んだパートナー、マシンビルダー・チューナーとしてこの世界ではよく知られたジェリー・グリフィスは、初代2気筒マシン・NS750 "サイドワインダー" ・・・直線でもトラクション不良で横を向いて走ってしまう姿をガラガラヘビに例えた陰口・・・と並行して、TT・ショートトラック戦のための単気筒マシン開発を、4ストローク500ccの XL / XR500 と空冷2ストローク250ccの CR250 "レッドロケット・エンジン" の2つの方向から探ります。

画像2: 名匠グリフィス作のプロトタイプを進化させ、一般ユーザーへ販売を企画!

このマシンは、グリフィスが1980年型CR250エンジンをオリジナル・フレームと組み合わせて造り上げた "プロトタイプ" で、初期のファクトリーチームライダー、ジェフ・ヘイニー (11E) とミッキー・フェイ (59) のために用意されたうちの1台です。

1977〜80年というごく短期間だけ採用された赤エンジン・右側チェーン (左側キックスタート) のモトクロス用エンジン・CR250は、グリフィスの手によって吸気ポート形状変更・フライホイールの重量増・キャブレターチューニング・マフラーの排気管長と膨張室デザイン変更など、このスポーツに欠かせない低中速回転域の強化と最高出力向上 (ノーマル比110%) が図られ、メイカーの販売するモトクロッサーより10kg軽く仕立てたダートトラックレース専用設計の車体に搭載されました。

ここまでなら、名チューナーの独創的アイディアで新たな活躍の場を与えられたプライベート・スペシャルの誕生、現代のダートトラックレースシーンでもよくある成功譚ですが・・・当コラム名物!知られざるシンデレラ・ストーリーはひと味違います。

アメリカンホンダはこのプロトタイプを日本へと送り、点火時期変更などさらに研究・改良を加え、一般ユーザー向けの市販を目的として、日本側に40機の "グリフィス・コピーエンジン" の製作を要請。40mmレクトロン・キャブレターと専用排気システムを合わせたパッケージで発売されるや、初期ロットは瞬く間に完売し、さらに増産して対応することになったと言われています。

オーバル競技に特化した仕様として、シフトペダルはリンケージを介して車体右側のブレーキペダル上方に移設。コンプレッション・リリース (手元レバーの操作でエンジン燃焼室の内圧を解放し強制的に失火→ターン進入時に強力なエンジンブレーキの代用とするシステム) が備えられています。なかなか貴重な作動時の車載映像はこちらの記事からどうぞ。

手元にある1981年3月号の北米モーターサイクル雑誌 "MOTORCYCLIST" には、このCR250 "グリフィス・スペシャル" のジャーナリスト試乗記事が載ってるんですが、ただでさえハイパワーな2ストローク250ccモトクロッサーに、10kg軽くて10%出力向上という "魔改造" を加えたにもかかわらず、慣性マスと低中速トルクの増大によって、非常に乗りやすい (意外と怖くない、という意味で) と書かれていて、うーんどんなモンなのか実際に体験したくなっちゃいますね! (なにかの布石か?)

画像: 当時有力なホンダ・ディーラーから市販されたコンプリート車両?とおぼしき個体。グリフィス・スペシャルとはタンク・シートなど各部仕様が違う様子。このフレームはC&J製という解説だが詳細は不明。誰か教えて!

当時有力なホンダ・ディーラーから市販されたコンプリート車両?とおぼしき個体。グリフィス・スペシャルとはタンク・シートなど各部仕様が違う様子。このフレームはC&J製という解説だが詳細は不明。誰か教えて!

2ストローク vs 4ストロークの幻のTTテスト映像を合わせてご覧ください!

続いて、ホンダ・2ストローク・ショートトラックつながりで、昨年末からひっそりと始めた筆者のYouTubeチャンネルより最新のクリップ、アスコットTTレイアウトでのホンダファクトリーチーム・プライベートテストの模様をご紹介しましょう。

画像: American HONDA factory flattrack team's private test 2: Ascot "SuperBikers" TT 1983 youtu.be

American HONDA factory flattrack team's private test 2: Ascot "SuperBikers" TT 1983

youtu.be

以前にもショートトラック・パートをご紹介した、松澤正和氏撮影のテスト風景ですが、前半で2ストロークのスーパーバイカーズ仕様CR450改を駆るリッキー・グラハムと、RS600Dのテストに専念するババ・ショバートとのライディングの対比が鮮やかです。いやーいいな2ストローク。ん?

前段までの貴重なダートトラック・クリップはこちらの記事からもご覧ください。まだまだ続々と (ただしのんびりと) 公開していく予定です。お、おや?

画像1: 2ストローク vs 4ストロークの幻のTTテスト映像を合わせてご覧ください!

こんな時間に我が家へなにかお届けものが来たようだ?ほほう鈍いニッケルメッキですね。今日のコラムでなんだか盛り上がってきたし、やっぱり積むのは空冷2ストロークエンジンがいいのかなー?

このお話は、また今度。
ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

画像2: 2ストローク vs 4ストロークの幻のTTテスト映像を合わせてご覧ください!
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