インディアンvsその他、ベテランと若手、海外からの挑戦など・・・。
WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。昨年までのインディアン圧勝の勢力図をコントロールする目的で、ルールに新たにいくつかの変更が加えられつつ開幕した2019シーズンのAFT。"アメリカン・フラットトラック"という単純明快な名称となって3年目、前身のGNC: グランドナショナルチャンピオンシップとしては1954年スタート、さらに元を辿ればモーターサイクルそのものの誕生とほぼ同時期の1900年代初頭から脈々と続く、アメリカで最も由緒ある初源的なモーターサイクルスポーツ = ダートトラックレーシングの最高峰シリーズです。
デイトナ・インターナショナルスピードウェイのホームストレッチエリアを使用するTTレイアウト (前ブレーキ装備・シンプルなジャンプと右ターン "ライトハンダー" を有する非オーバル形式) で行われた本戦、450cc単気筒DTXで競われるサポートクラス・AFTシングルスの上位16位 + 1の17台による決勝の模様をご覧下さい。レースアナウンサーは元プロ選手のスコッティ・デュブラー、解説は大クラッシュからの復帰を目指し、目下懸命にリハビリ中のブラッド・ベイカー。この顔ぶれも当地で "昔ながらのファミリービジネス" と謳われるダートトラックカテゴリーならではでしょう。
サポートクラス・AFTシングルスへの総エントリー台数は64台。先日57歳からのAFT初チャレンジをご紹介したレジェンドMXライダー、ジェフ・ワードは準決勝まで常に上位30%内に入る快走を見せ、予選ヒートを2位で終えるなど善戦しましたが、ギリギリ惜しくも17台による決勝レースには進出することができませんでした。
また近年ダートトラックレーシングが徐々に盛んになってきた欧州スペインやイギリス、あるいはカナダ、オーストラリアからの若いライダーのエントリーも少しずつ増える傾向で、うち数人は決勝までコマを進めています。当地で手厚いサポートを受けることができるか否かが、遠く異国から挑戦するライダーにとっては、自身の実力を発揮するための重要な鍵となるようですね。
レッドブルKTM・モンスターヤマハ・ホンダセミファクトリーが登場!
引き続きサポートクラス・AFTシングルスを中心とした華やかなトピックとして、他の様々なモータースポーツカテゴリーでおなじみのビッグカンパニーがアメリカ起源のエクストリームスポーツ最高峰であるAFTに目を向け始め、有力チームの筆頭スポンサーとなるケースが見受けられます。
AFTシングルスの2018王者、今シーズンは1番プレートを掲げるダン・ブロムリーと、女性ダートトラックライダーとして "G.O.A.T. = Greatest of All Time" とも評されるシェイナ・テクスター、写真の通りすさまじい身長差の両名は、予てよりAFT参入が発表されていた Red Bull + KTM USA ファクトリーチームとして今期を戦います。
昨年チャンピオンの実力者ブロムリーは、日本製450ccがほとんどのこのサポートクラスで、プロデビュー以来オレンジ一筋 = KTM車で長年戦ってきた、メイカーとブランディングイメージにとっての真の功労者の一人でもあり、またこの種目の女性アスリート代表と言えるテクスターは昨シーズン、KTMとほぼ同パッケージのハスクバーナ製450ccを同ファクトリーチームという体裁でライドすることで、今期の新たな体制への下準備を着々と重ねてきました。
本戦ではブロムリーが決勝3位入賞。テクスターは終日タイムが振るわず予選落ちとなりました。
Red Bull KTMのように丸ごとパッケージでファクトリーチームを装う場合もあれば、もともと由緒ある名門チームがメイカーや大口のサポートで体制補強するケースもあります。5人のライダーを擁するエステンソンレーシングは、AFTシングルスにダラス・ダニエルズとライアン・ウェルズの2人が駆るYZ450F、AFTツインズではJ D・ビーチ、コービー・カーライル、ジェイク・ジョンソンの3人が走らせる "MT-07" を用意し、モンスターエナジーとYAMAHA USAの手厚い支援を受け、またチームのアドバイザーには故ニッキー・ヘイデンの兄、トミーを迎えた強力な布陣で今期を戦います。
こちらも実力あるチーム、リッチー・モリス・レーシングは、アメリカンホンダがサポートするエース格にデイトナショートトラックで2度の優勝経験を持つマイク・ラッシュを、ホンダ系ディーラーがサポートする2人の新人枠として有力な若手であるコール・ザバラと数少ないアフリカ系アメリカンのAFTライダー、キャメロン・スミスを擁し、これまたAFTシングルスを戦います。
80年代から90年代にかけて、当時ハーレーダビッドソンXR750一辺倒だったGNCにRS750Dで戦いを挑んだホンダファクトリーの再来なるか、KTMやホンダがやがてツインズにもマシンを送り込んでくるのかどうか、今後の展開もまた楽しみです。
最高峰クラスAFTツインズのインディアンFTR750独占は今年も続くのか?
AFTツインズの決勝表彰台はインディアン - インディアン - ヤマハMT-07というラインナップ。依然としてFTR750が強さを見せてはいますが、総エントリー25台中12台 / 決勝17台中10台と昨年よりはそのシェアを減らしています。
その他のエントリーはヤマハMT-07が6台、カワサキニンジャ650が4台、 ハーレーダビッドソンXG750が2台、ホンダRS750Dが1台といった内訳で、インディアンFTR750一辺倒から少しずつバリエーションを増している印象。その中で相変わらずハーレーダビッドソンはファクトリー2台以外の参加がない寂しい状況ですが、決勝4位と12位という結果を出し昨年からの戦闘力向上を印象づけます。
それ以上に懸念されたのは総エントリー数の減少です。1台5万ドルに迫る価格のインディアンFTR750を予備車を含め最低2台は用意できる経済力と、その戦闘力を維持しさらに磨き上げる資金がなければ勝ち目がない、という状況が続くならば、かつては1戦100台以上のエントリーがあったトップカテゴリーのこれからの持続的発展を望むことは難しいでしょう。
それらを踏まえ、公平性を保つ (と言う名目の) 大幅なルール改定がなされ、また有力ライダーの何人かが様々な理由からインディアン以外の選択肢を探すようにもなった昨今、自浄作用が徐々に働き始めたトップカテゴリー・AFTツインズの今後の総エントリー台数と内訳は要チェックです。
あと一歩で初の兄弟1-2!新インディアンファクトリー = バウマンズ。
4ブライアン・スミスと6ブラッド・ベイカーがそれぞれ離脱し、1ジャレッド・ミーズはあえてのサテライトポジションで独自の方向性を目指すなか、インディアンファクトリーチームの2つのシートを託されたのは、カリフォルニア州サリナス出身の14ブライアー(24歳)と37ブロンソン(22歳)のバウマン兄弟でした。ちなみに西海岸的発音では "ボーマン" とも読むようです。
本戦では決勝中盤まで兄弟での1-2フィニッシュの可能性を感じさせましたが、結果はブライアー優勝、弟のブロンソンは少し後退して5位。とはいえ初の兄弟ファクトリーライドとしては十分なリザルトでしょう。
20代前半の二人、さもルーキーかのように思う方もいらっしゃるでしょうが、実は10年前にはすでに大人顔負けの実力で、西海岸のローカルレースで大暴れしていたベテランの域です。むしろAFTの決勝に残るライダーのほとんどはそんなプロファイルだと言ってもいいでしょう。そして40代・50代になるまで第一線で、この兄弟のような若手と戦い続ける。いやはやなんとも恐ろしい世界です。
自由を得たベテラン勢、#1ジャレッドと#4ブライアンの巻き返しは?
本戦では揃って好感触で決勝進出するも、転倒やマシントラブルにより上位入賞を逃した両名。ファクトリーとは一線を画す独自のチューニングを施したディフェンディングチャンピオン、ジャレッド・ミーズのFTR750、長年の盟友にして最大のライバルであるそのミーズを倒すため、勝手知ったるニンジャ650を再び選んだブライアン・スミスの次戦以降の巻き返しも要注目です。
時代に合わせたレギュレーションの"揺れ"にフォーカスするのも一興。
今期のAFTでは、単気筒450ccDTXを用いるシングルスクラスへの "フロントフェンダー装着" が解禁。本来のモトクロス車イメージを重視すること、徐々に増え始めたスポンサーへのアピールのためのスペースとしても有用に働かせようという思惑もあるようです。
代わってヘルメットはゴーグルタイプのMXヘルメットが原則禁止となり、シールドタイプのフルフェイスヘルメット + 上下セットアップのレーシングスーツ (レザーまたはケブラー製) が必須。これが今後しばらくこのスポーツの "上級の正装" ということになりそうです。
最高峰と巷をつなぐ"第三・第四のサポートクラス"が起爆剤となるかも?
本戦では最高峰AFTツインズとサポートクラスのAFTシングルス、両クラスTT戦の前座的エキシビジョンレースとして、近年あちらで徐々に人気が高まりつつある "スーパーフーリガン" なるクラスのデモンストレーションが行われました。TT最終セクションの内側を使った変則的なショートオーバルトラックでのレースです。
元ロードレーサーであり著名なカスタムビルダーのローランド・サンズ (RSD)が主導する "スーパーフーリガン" とは、専用レーサーをあえて用いない、"ストリートバイクによるフラットトラックレーシング" を意味し、本場アメリカの一部ではかなり以前から熱心に行われていたカテゴリーです。
上の写真のようにマルチな才能を発揮する199トラビス・パストラーナもRSDが仕立てたスズキの2ストロークGT750 "ウォーターバッファロー" で参戦しますが・・・結果は予選落ち。10数年前にも単気筒450ccでデイトナショートトラックに参加したパストラーナでしたが、その時も参加200台から半数に絞る予備予選を通過できなかったはずです。何かこの種目と因縁でもあるんでしょうか?
参加車両はスポーツスター883 / 1200や発売間もないインディアンFTR1200、トライアンフやDUCATIスクランブラーなど多種多様です。結果としては元プロライダーが上位を走る構図になりましたが、日本と違い 100cc 〜 250cc でのオフロードライディング全般にあまり馴染みのないアメリカン・・・すぐもっとデカいのに乗りたくなっちゃう気質とその国土の広さ・・・にはよく合致した、優れた企画だと言えるでしょう。
興味を持って掘り下げていくと、このカテゴリーに真剣になる彼らの熱量が徐々に伝わってきます。ダートトラック走行により望ましい・有利な車両にどのように仕立てていくか (ストリートバイクそのままで走ってもつまらないし危ない、そして勝てないと意味ないという合理的発想) の創意工夫の数々は、我々日本でも見習うべきスタイルかもしれません。
全米選手権AFTの第二戦は早くも今週末、ジョージア州ウッドストックの3/8マイルショートトラックで開催予定です。こちらはUSヤマハがタイトルスポンサーに名乗りを上げ、またシングルス / ツインズに加え、往年のプロライダーと現役ヴィンテージレーサーがギンギンにチューニングした70年代の名機で参加するブルタコ・アストロのワンメイククラスも併催されるようですよ。内容次第では次週この模様をまたお伝えしますね。
といったところで今週はこの辺で。筆者主催のダートトラックレースシリーズFEVHOTSは、次週末3/31 (日) 埼玉県のウェストポイントオフロードヴィレッジにて第一戦開催・2019開幕の予定です。
ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!