ダートトラックレーシングマシンはライダーそれぞれが仕立て上げるもの
WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/レースプロモーターのハヤシです。これからこのスポーツに親しもうというエントリーユーザーとその予備軍の皆さんにとって、ここ日本は、ある意味では恵まれた環境と言えるかもしれません。新たにスタートする方がまず1台目に選ぶ、ユーザーフレンドリーなトレーニング用マシン、そのラインナップの豊富さは我が国ならではとも言えます。
実はこの競技の本場アメリカでも、コンプリート完成車として販売される新車のダートトラックレーシングマシンの選択肢は歴史的に見ても大変に少なく、ライダー・チューナーが自ら車両をビルドアップし、チューニングを進めることが当たり前に行われてきました。
現代の当地でのプロレースの花形は750ccオーバーの2気筒クラスですが、その下位カテゴリーは450cc単気筒で戦うAFTシングルス。本日は日本各地のショートトラックで乗るのに "程よいギリギリサイズ"、450cc+の単気筒マシンのご紹介です。大雑把に2態、"フレーマー" と "DTX" と呼ぶスタイルがあることを、ぜひ知ってください。
ダートトラック専用クロモリパイプフレーム仕様の伝統的スタイル = "フレーマー"
2002年式ホンダCRF450Rエンジンを搭載した "フレーマー" 。メインフレームとスイングアームは、著名なフレームビルダー、C&Jのジェフ・コール氏が製作したもの。ヤマハYZF-R6正立フォーク+オフセット可変ステム・PENSKEリアショック・専用アルミタンク+シートカウル・左右反転可能な前後19インチホイールなど、競技に特化した一流パーツをライダー・ビルダー/チューナーが吟味して組み合わせる方法で仕立てられます。
この車両の元オーナーは2016全米プロ選手権王者のブライアン・スミス。搭載エンジンはかつてのプロ選手権レギュレーションに合致し、ボアとストロークを112%まで拡大した505cc仕様です。
モトクロス用450ccマシンを各部モディファイした現代的な "DTX" スタイル
モトクロス専用バイク・2014年式ホンダCRF450Rをベースに、ダートトラック競技に特化したモディファイを行った "DTX" スタイルのスタンダードマシン。オーバル走行ではモトクロスと異なり大ジャンプを飛ぶ場面はなく、低μのフラットな路面を横滑りさせつつ、トラクションを維持して走らせることが主たる目的となります。そのため前後サスペンション内部構造に大きく手を加え、ストローク有効長を変更、結果として車高は大幅にローダウンされました。この車両のフロントフォークは他カテゴリーでは評価の厳しい純正エアサスペンションをあえてベースとして使用。左右反転可能な前後19インチ "クイックチェンジホイール" が組み合わされています。
現在のアメリカ・プロ選手権サポートクラスの "AFTシングルス" では、このような各メイカー製ストックフレームのモトクロスバイクからチューニングを進めた "DTX" スタイルのマシンのみしか参加することができません。サスペンションとホイールサイズの適正化は必須の仕様ですが、それ以外の各所への手の加え方を、AFTプロライダーのコリー・テクスターが一般向けに解説した英文記事を以下にご紹介します。
ダートトラックのグラスルーツを感じさせる雰囲気抜群の "フレーマー" 、
競技の未来と裾野の広がりを予感させる "DTX"
ストリートを走るモーターサイクルを、オーバルレーシングで有効に使うため、カスタムメイドのパイプフレームに変更して競技専用車 "フレーマー" を仕立てる手法は、アメリカでは50年近く前からごく一般的に行われてきました。いわばこのスポーツのための初源的なかたちです。
対してモトクロス / オフロードバイクを丸ごと使って "ダートトラッカー化" するアイディアは、1980年代前半から徐々に試みられるようになりました。ロードレース・モトクロス・ダートトラックのトップライダーたちを集め、三種目混合レイアウトの特設専用コースで最速のライダーを決めるというコンセプトの "ABC Superbikers" や、舗装路と未舗装路の混在する過酷なスプリントレース "パイクス・ピーク・インターナショナル・ヒルクライム" に、そのスタイルを見ることができます。
2台のマシン、年式に差はありますがどちらもエンジンはほぼ同形式の450ccです。本場では荒れたショートトラックやジャンプ・右ターンありのTTでは "DTX" が、より平滑なトラックではトラクション性能に優れた "フレーマー" が有利とされますが、予算とスタイルで選んで、愛着をもてるバイクにぐいぐい乗り込むのが、結果としては一番よい形かもしれません。
シンプルなトラックレイアウトとルールで競い合うダートトラックレーシングなら、基本の技術をしっかりと身につけさえすれば、このようなハイパワーマシンをスロットル全開で扱うことも、他の種目に比べれば "比較的" 容易です。低いギアーとライダーの技量にも合わせた適切なセッティングが大前提ですし、いきなり誰でも、というほどハードルの低いものでは決してありませんが。
本日ご紹介したレーシングマシンたちの雰囲気にぐっと来てしまったあなた!これがきっかけとなって、マシンの佇むフィールドに興味をもっていただくことがあれば、 ぜひ我々の走るレーストラックへ足を運んでみてください。ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!