本場のプロ・マイルレース決勝でも1周のラップタイムが数十秒、最大25周で決着がつくダートトラックレースは極端な "スプリント種目" 。プロに限らずアマチュアレースでも、集中力をギリギリまで高め、知恵と勇気と技術のすべてを駆使して完走と勝利を目指して臨むことになるはずですが、まずその前に、転倒のメカニズムと怪我から身を守る方法を知っておくのはとても重要なことです。本日はダートトラック的 "よくある転倒とその対応・必要な安全装備"についてお届けしましょう!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。以前のコラムの中で、ダートトラックの基本的な走法と、レースではまず第一に転ばないように、とお伝えしましたが、"転倒しないように走る" = "おっかなびっくりソロソロと" ということではありません。

転倒の原理を理解し、その手前で自身の最速・最高パフォーマンスを目指そう!

フラットな路面で車体を横滑りさせて左回りに周回するダートトラックでは、

・イン側 = ローサイドへの "オーバースリップ" からの転倒
・アウト側 = ハイサイドへの "オーバーグリップ" からの転倒
・それらが原因となって、レース中に他の走者と絡んで起きるイレギュラー転倒

大きくこの3タイプの転倒に対応できるよう、経験を積み、態勢を整えておく必要があります。

左・イン側・"ローサイド" への転倒

画像1: 左・イン側・"ローサイド" への転倒

ストレートからスロットルを大きく開けたままターン進入にさしかかった地点、あるいはターン脱出のためスロットルを開け始めたところで、主にリアタイヤがスリップ過多となり、そのままバランスを失って左側に転倒。いわゆる "スリップダウン" 現象です。

すでに車体が左にバンクしているところからの転倒なので、マシンへのダメージはさほど大きくありません。ハンドルグリップ破れ・クラッチレバー破損・フットペダル類のいくらかの変形など、微々たるものです。

画像2: 左・イン側・"ローサイド" への転倒

ターンでのバンク中に素直に左に倒れるだけならば、最初の身体へのダメージは左半身の出っ張った部位に集中します。ヒジやヒザにはモトクロス用などの各種プロテクターが必要です。稀にMXウェアの上からプロテクターを装着した方が見受けられますが、転んで引っかかると外れたりズレたりしがち。どちらも本来はウェアの下へ身につけるのが基本ですので注意してください。

万が一の転倒時、あなたがヒザにプロテクターを装着し、MXブーツを履いているのなら、左足は車体の下に入れるようなフォームで車体と一緒にそのまま転がる方がよいでしょう。その際ウェアが破れるかもしれませんが、道具はすべて、身を守るための消耗品です。

画像3: 左・イン側・"ローサイド" への転倒

インサイドへのスリップダウンで、もっとも気をつけなければならないのは、実は左ヒザへのダメージです。仮に上の写真のような下半身のライディングフォームから "股割き" 状態で左足を開いたまま転倒した場合、場合によっては複雑なヒザの靭帯 (特に内側側副靭帯と呼ばれる部位) を痛める可能性があります。

ヒザへの受傷をできるだけ防ぐアイテムとして、医療用装具から発展した、"ニーブレース" というプロテクターが各メイカーから用意されています。ヒザ関節左右に金属製のヒンジ (蝶番ジョイント) を装備したもので、不用意なヒザの捻れを防ぎ、関節を守るのが主な機能です。少々高価ですが、単純なヒザ当てより、さらに安全性が高いと言えるでしょう。

右・アウト側・"ハイサイド"への転倒

画像1: 右・アウト側・"ハイサイド"への転倒

ロードレースなどでよく見られる "突然ライダーに襲いかかる痛そうなヤツ" 。単純に "ハイサイド" とも呼ばれます。スロットルの急な開閉や誤ったブレーキ操作などの様々な原因から、タイヤのグリップレベルが急激に回復することで車体が激しく起き上がり、左にバンクした位置から正立を通り越して右側に一気に倒れ、ライダーもろとも地面に叩き付けられます。

勢いよく車体右側の地面にコンニチワすることになるので、マシンのダメージはイン側・ローサイドへの転倒より大きく、またライダーは逆さまに投げ出されることも多いため、ヘルメットを打ち付けたり、肩・胴体など上半身を痛めることも少なくありません。

ヘルメットを強く地面に打ち付けたりした際には、首元のヘルメット縁部で鎖骨を押して折ってしまうことがあります。上のリンクのような頸部プロテクター "ネックブレース" は、頭部の過度の動きを抑制し、頸椎の保護と同時に鎖骨の骨折も予防します。

画像2: 右・アウト側・"ハイサイド"への転倒

こちらは2週間前に当コラムで特集したN.ヘイデンの、CRF450Rでのターン脱出からの加速シーン。フロントタイヤがほぼ進行方向を向いた状態で、パワーを持て余したリアタイヤが外に向けて横滑りを始めています。ここでスロットルを戻してしまうとリアタイヤが一気にグリップを回復、運が悪ければライダーは宙を舞うことになります。起き上がろうとするマシンをいなしながら前に進めるため、左フットペグ主体に加重、臀部を大きく車体左側にずらしてバランスを取るのが、ダートトラックの立ち上がりシークエンスにおける、上級者のスタンダードなライディングフォームです。

レースでは競争する相手との "間合い" と "位置取り" を把握することが重要です!

画像: FEVHOTSミドルウェイトクラスのレースシーンから。前を走る82号車に不用意に接近し過ぎた16号車はバンク角・リアの振り出し両方が足りないままに接触、ハイサイド側に大きく振られて後続のラインを塞いでいる。

FEVHOTSミドルウェイトクラスのレースシーンから。前を走る82号車に不用意に接近し過ぎた16号車はバンク角・リアの振り出し両方が足りないままに接触、ハイサイド側に大きく振られて後続のラインを塞いでいる。

ダートトラックレーシングは "コンタクトスポーツ" です。競技のコンセプトとして "接触" は避けられませんが、"衝突" はすべての参加者が全力で回避しなければ、競技の安全も確保されません。

上の連続写真のようなケースでは、前走者に対し後続者が、"より深くバンク" させ、"より早く向きを変える" ことさえできれば、バランスを崩しラインを乱す "衝突" から、横並びで擦り合う "接触" へと、互いの関係を変化させることが、誰にでも可能です。

画像: 可能な限り素早い旋回モーションこそが、より自由なライディングとラインチョイスを可能にするきっかけに。

可能な限り素早い旋回モーションこそが、より自由なライディングとラインチョイスを可能にするきっかけに。

ややもするとタブーっぽいですが、スポーツにおける転倒についてのコラム、いかがでしたか?筆者主宰のダートトラックレース団体・FEVHOTSでは、悪天候時をのぞく毎週火曜日に、埼玉県川越市のウェストポイント・オフロードヴィレッジで、"オープンプラクティス" と称する練習走行会を開催しています。ダートトラックライディングについてお悩みの方、このスポーツにご興味ある方はぜひ一度、ご覧になるだけでも足を運んでいただければ幸いです。ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

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