WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。以前のコラムの中で、ダートトラックレーシングは他種目の基本概念とは少し違う、むしろ極めて特殊な、原始的な方法でマシンをコントロールしていることをお話しました。未見の方は、まず過去記事をご覧下さい。コレ、この先ずっと、試験に出ますよ。
レースに勝つより先に、転ばず走り切ること。故郷に錦を飾る前に、まずは全員で生きて帰ろう!
シリーズ第2戦・アトランタショートトラック (3/8マイル) での450ccサポートクラス、AFTシングルスのセミファイナルからの動画です。先頭集団のライアン・ウェルズ94が立ち上がりでスリップダウン!複数のライダーが "行き場を失って" 巻き添えでクラッシュし、受傷者多数。レースは赤旗中断・仕切り直しとなります。以下はFB動画ですが、0:10付近で別アングルからの様子が確認できます。
ウェルズは2016年の同クラスチャンピオン。トップカテゴリーを目指す血気盛んな若手ライダーがひしめくこちらのクラスでも名うての実力者ですが・・・、今回の多重クラッシュについては後方のライダーたちに平謝りです。"このような重大なアクシデントの原因となったことは自身のレースキャリアでも初めて。とてもショックで怪我を負わせることになった皆に大変申し訳なく思う。3週間後のテキサスでのRd.3に再び全員が揃うよう祈っている。二度とこんなクラッシュは引き起こさない決意で次戦に臨む" と。
緊急回避とセルフダウン!どちらもいつでもできるよう、万全の心構えを。
ダートトラックレーシングはその走法と走るトラックの特性上、前走者の転倒を避けるのが大変難しい競技です。全力でアクシデントを回避するのは当たり前ですが、スペースに余裕のない場合に転倒者をかわすテクニックとして、アクシデントの手前で故意にコースアウト・自車を押しつぶして転倒させ、自他の接触を避ける技術 (= セルフダウン) も身につける必要があります。
これからダートトラックレースへの参加を考える皆さん、あるいはこのスポーツを始めたばかりの皆さん!"転ぶまで攻める" のはプライベートな練習のときだけで結構です。レースでも練習走行でも、後続者があなたの転倒を必ず回避してくれる保証はありません。特に初めてのレースに臨む前までは、 "転んだら試合終了" と肝に銘じ、ライディングの精度を上げるためのトレーニングを集中的に繰り返してください。
"転ぶかもしれない前走者" と "避けられないかもしれない後続者" 。この組み合わせは "二輪レース史上・最低最悪のカップリング" です。避けられないライダーがあなたの後ろに忍び寄っていた場合、容赦なく轢かれるかも。かなり痛いですよ。筆者は10年ほど前ですが練習走行で、前走者の転倒回避のためにセルフダウンさせたところで運悪く経験済み。スネが折れました。
では、なにを準備して競技に臨むとよいのでしょう?
レース本番で発揮できるのは、その人の実力の半分とか7割とか、せいぜいそんなものです。にもかかわらず自称120%?200%?実力以上に背伸びしたパフォーマンス?無我夢中のトランス状態?で走るのは、ただの無謀・無策・無能であり、そんな輩が1人でもいた場合、率直に言って我々レース主催者としては、継続的・安定的なイベント運営など不可能です。
皆さん、日頃の練習では、自身の"レースで発揮できる自己ベストの5割や7割"を高めるため、楽しみつつも淡々と鍛錬を続けてください。本番で転んではいけません。また我々主催者には、観客を含めたすべての参加者の安全を確保するために、無謀なライダー・関係者に対して特に注意を喚起し、時と場合によってはトラブルの原因を排除する勇気と判断力が必要とされるはずです。
あなたのクラッシュがこの種目全体を危険にさらし、シーンを萎縮させます。
これまで30数年間の国内ダートトラックレースシーンの栄枯盛衰のなかで、(一度もしっかり栄えてない説、ありますけどね) たびたびあった盛り上がり途中の、良い雰囲気のムーヴメントがシオシオと萎んでしまった背景には、実はそのほとんどに大きなクラッシュ→受傷の事案があります。
2003年に長野県旧丸子町の工業団地誘致予定地で開かれた、特設ハーフマイル (800m) 走行イベント"Field of Dreams"。全米プロダートトラック選手権で3度のグランドナショナルチャンピオンを獲得し、プロキャリア30年間で43回の優勝を記録した伝説のライダー、ジェイ・スプリングスティーンをミシガン州から招き、地元有志と関係者の、まさに身を切り血の滲むような尽力により、我が国でほぼ初のハーフマイルダートトラックが整備され、華やかにイベントが開催されました。
しかし残念ながら、イベント中にライダーが大怪我する事故が発生。そしてさらに、イベント全体を通した走行音量に対する地域の苦情が、過疎地にも関わらず想定を大きく超えてしまいました。この二つの後処理が大きな要因となって、主催者グループには払拭できない嫌気ムードが芽生え、翌年以降の継続開催を泣く泣く断念することに。
15年を経た2018年現在、当時のハーフマイル跡地はとうに大規模工場へと姿を変えています。この地で同様のイベントが行われることは、残念ながら二度とないでしょう。
また、かつて開催されていた北関東・中国地方でのダートトラックレースイベントも、それぞれ重大なアクシデントが遠因となって、運営側の熱量が継続不能なほどに下がっていった経緯があります。もちろんそれらは現在我々の主宰するレースシリーズ・FEVHOTSでも、いつ何時起こるかもしれない出来事です。
FEVHOTSでは、イベントを運営する主要レースクルー全員がAED (自動体外式除細動器) の使用法とCPR (心肺蘇生法) についての講習を定期的に受け、モータースポーツに特化した専門的救護スキルも日々研修しています。過去には長野県山間部のトラックでの練習走行会で、人生初の単純骨折でショックのため泣きわめき、受傷の程度が不明の参加者のため、現着した消防当局との協議の結果、ドクターヘリの出動を要請したことも。
救護に時間のかかる場所での安全確保の方法を事前に検討しプランニングすることもまた、リスクあるスピード競技に最大限集中するべき参加者へ、イベント主催者が当然提供しなければならないサービスのひとつです。幸いこれまで我々のレースイベントでは、過去6年間大きなアクシデントは起こっていません。これからも、これまでも、ひと時たりと気を緩めることなどできませんが。
ダートトラックという種目の未来へと続く発展の可能性、そのすべてを握るのは、我々主催者や一部の上級ライダーではありません。レーストラックに足を運んでいただくすべての関係者の結束にこそ、委ねられています。ちょっと重たい話ですか?ご理解とお付き合いをいただくのが難しいようならば、このちっぽけな泥舟、いつ降りていただいてもいいんですよ!我々はまだまだ航海を続けますけどね。
タイトルの●●と★★、伏せ字になにが納まるか、皆さんお考え下さい。というわけで気分を戻して次週こそ!我々の必須レーシングアイテム・ホットシュー (鉄スリッパ) の話題です。ではまた金曜日 "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!