ダートトラック競技専用車のアイデンティティのひとつである "トラッカーシートカウル" 。小振りで薄いシングルシート部分の後ろにちょこんと硬いカウルがくっついてさえいれば、いかにも現代のレーシングマシンの雰囲気ですが、機能を果たすという意味では押さえておくべきツボがいくつかあるようです。そもそもいったい、どうしてこのような独特の形態が生まれていったのでしょうか?

鉄の駄馬を可能な限り速く走らせるため、少しでも軽くしたかった・・・

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。歴史を遡ること半世紀以上 (!) 、1950年代のマシンたちは、自転車サドル型のシングルシートを持つものが多く、レースの場面での前後方向へのより大きな姿勢移動や、ストリートで2人乗りをするためには、サドル後方のリアフェンダー上に "ピリオンシート" を追加することが一般的でした。

以降、速さを追求するレーシングマシンとして軽量化やフレーム形状の進化などを経るなかで・・

重い金属製リアフェンダーはシートパッド (スポンジ) と一体化し軽量かつ小振りな、主としてFRP成形 (原型からの再製作が容易で時に使い捨てられるレース用機材向け) のものへ取って代わり・・・

様々なライディングスタイルに対応するべく自由度を求めて着座面はより広くなり・・・

刻々と変化する路面状況を "尻で知る" ため、快適なシートのクッション性は失われてゆきます。

今日的スタイルはより軽量で、ライダーの体型とスタイルに合わせたものに

1960年代末以降、有力フレームビルダーの登場によって、マシンのテール・セクションはいくつかの定型デザインが主流となっていきます。今日目にする製品も、当時のオリジナルからの複製が繰り返されたものが多く、全く新しい形状のものは長く台頭することがありませんでした。一見様々に自由な形がありそうなこのパーツですが、"それらしく見える" のはやはり多くがそれら定型フォルムのもので、機能に照らしても間違いなくキマっているものばかりです。

ソファのように "お尻を預けてどっしり座る" というわけでなく、レーシングアクションの要所要所でスリップするタイヤと路面との関係を左右し、より速く前へ前へとマシンを押し出す力を発揮するため、シートクッションとテールカウルは、よりいっそう小さく薄く、軽量なものへと徐々に進化しています。

おそらく過去一番軽量なこの "インターセプタースタイル" のテール・セクションは、もはやシートクッションの台座としての最低限の機能しか持っていません。前後のスムーズな体重移動とターン立ち上がりの後輪への加重だけを厳しく追求した、ある種終着点とも言える?デザインです。

160cmと小柄で1,600mオーバルのマイルレースに特に長けたブライアン・スミスのライディングスタイルは基本に忠実でありつつ、彼独特のシート形状をそのマシンにも要求しました。詳しく毎戦その形状を追っていくと、走るトラックの特徴、あるいはそのレースを得意とするライバルの戦術を見越して自身のスタイルを変化させるため、レースごとにカウルやクッション形状の異なるものを選んだりもしていたようです。伝統的でシンプルなレースフォーマットだとはいえ、セットアップが大雑把になることはないという好例だと言えます。

古今さまざまの写真や映像から、そのマシンのテール・セクションがどのようなマシンの動きをもたらすか、じっくり想像して分析するのも面白いかもしれませんね。一見どれも同じに見えますが、きっとそれぞれに細部まで工夫が凝らされていることに気づくでしょう。

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!