速いマシンの入手・・・然るべき車両を買ってくるにせよ自ら組み上げるにせよ・・・その選択の過程で、速度を落とす、制動するほうの性能ってどうしても後回しになりがちなんですが、実は無駄の無いスムーズな加減速、路面にエンジンパワーを最大限伝えるため、寸分の狂いなくミリ単位でライバルの懐に前輪をねじ込んでいくため等々、勝負に勝つためには重視するべき性能のひとつです。

前後の車輪にブレーキシステムがついてなくても見落とすことなかれ!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。オーバル形式のレースではフロントブレーキを装備しないことが特徴であるダートトラックレーシングマシン、かつて (とさらっと言いますがおおよそ50年くらい前) の競技ルールでは、リアブレーキ装着の義務もありませんでした。

とはいえそもそも車体そのものを横滑りさせ、"慣性ブレーキ" を駆使する運動原理は当時も今も変わりませんし、実は当時ショートトラックの主流は2ストロークであったにも関わらず、強力な "エンジンブレーキ" を武器とするマシンも少なくなかったのです。

画像: 前後の車輪にブレーキシステムがついてなくても見落とすことなかれ!

こちらの60's感バリバリのリアリジッド・ショートトラッカー、ハンドルバー左側にクラッチレバーに加えて2本目のレバー、エンジン上部にはプラグコードとは別のワイヤーも接続されていることがお分かりでしょうか?これは、ツインプラグの片方を手動の機械式バルブに交換し、ターン進入時にレバーを握り込むことでエンジンシリンダー内にフレッシュエアを送り込んで内圧を開放し、強制的にエンジンを失火させる "デコンプレッション・システム" と呼ばれるもの。一時的なエンスト状態で強烈に減速しますが、立ち上がりでレバーを離せば押し掛けの要領で再びエンジンは息を吹き返し、次のターンに向けて加速していくことができます。

よくバイク屋に免許取り立ての初心者がエンジンブレーキ買いに来た、なんて笑い話がありますけど、実はホントに勝つためのアイテムとして存在していた、というトリビア。前後両輪にディスクもドラムもついてないからって、度胸一発だけで目を血走らせて走っていたわけじゃないんですねー。

現代の他競技用コンペマシンでも、多用するとパーになるのがありますよ

油圧式ディスクブレーキをあまりに多用すると、作動油であるブレーキフルードに気泡が生じたりローターが真っ赤に焼けたりして、その機能が十分に発揮できないトラブルを起こす場合があります。

あるいはちょっと踏めばすぐリアタイヤがロックするほどカチっと効きすぎるブレーキも、ズルズル引き摺りながら使いたい我々の競技特性には、全く合致しません。

シンプルにブレーキフルードの容量を増やすとか・・・ブレーキパッドの当たり面の面積を半分以下に減らすとか・・・マスターシリンダーとキャリパーのピストン径を変えるとか・・・深く深く踏み込まないとロックしないようあえて精度をルーズにするとか作動範囲を大きく変更するなど・・・意図的に "効かない使えるブレーキ" を仕立てるためのノウハウは数々存在します。

画像: スイングアーム中程から半月形に伸びる巨大なキャリパーハンガー、長〜いブレーキアーム、一見不格好なディテールにはおそらくすべて、意図と意味があるはずです。

スイングアーム中程から半月形に伸びる巨大なキャリパーハンガー、長〜いブレーキアーム、一見不格好なディテールにはおそらくすべて、意図と意味があるはずです。

画像: ブレーキシステムのレイアウトを最優先→キックスターターアームつけられない→クランク直回しのエンジンスターター取り付けプラグを追加、という流れではないかと推測。右側フットペグの位置がまた絶妙だな・・・

ブレーキシステムのレイアウトを最優先→キックスターターアームつけられない→クランク直回しのエンジンスターター取り付けプラグを追加、という流れではないかと推測。右側フットペグの位置がまた絶妙だな・・・

本場プロシリーズの花形であるスーパーツインズなんかは個人の資金力ではちょっと・・・みたいな激しいリッチパーツがふんだんに使われていますが、単気筒ショートトラックマシンの創意工夫的?DIY的?ノウハウは、掘り下げて探求してみると相当面白そうです。

画像: 四輪でも使いそうなものごっついブレーキシステムが近年主流ですが、それでも真っ赤になるまで使ってますよ

四輪でも使いそうなものごっついブレーキシステムが近年主流ですが、それでも真っ赤になるまで使ってますよ

ではまた次週、金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

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