左回りのダートトラックレーシングに必要な、左足に装着する鉄スリッパー = ホットシュー。お値段ウン万円でブーツに合わせた熟練の職人による一品製作が標準で、それこそ"鉄下駄"みたいにズッシリ重たくて・・・というのが定説になっていますが、アレアレ思ってたのとはちょっと違う?本日はこしらえるヒトも擦り減らすヒトも今知っておきたい4つのささやかな話題をご紹介しましょう。

かつて我が国で、初心者に最適な廉価版スリッパーはほんの数千円だった?

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。過去の当コラムを読んだ方からお問い合わせいただくこともしばしばなんですが、十年一昔、前回の "ダートトラックブーム" のころまでは、財布に優しい "廉価版ホットシュー" なるもの (ただし靴底面の強化肉盛り一切なし) をほんの数千円で誰でも気軽に手に入れることができたのでした。数千円といったって幅がありますけどね、たしか2000年ごろは5,000円、原材料費高騰のあおりだかでだんだん値上がりしていって、2010年ごろには8,000円くらい?だったかと思います。

画像: かつて我が国で、初心者に最適な廉価版スリッパーはほんの数千円だった?

見たところちゃんと一丁前にそれらしい形状してますけど、プレスで大まかなところをこさえたS・M・Lの3サイズ、底板2.3mmだかの鉄板1枚なので、初心者が履いて足さばきにも慣れないまんま引きずり回したら、まずもって1日そこらで大穴が空きます。より硬い金属で裏面に強化肉盛り加工 (英語だとハードフェイシング) を施して・・・それにも熟練の技が必要なんですけど・・・ +15,000円くらい?の2万円台前半で、貴方の靴にピッタシってわけでは勿論ありませんが、ひとまず走り出すのに必要な道具としては用意することができたのでした。値ごろ感って大事ですよね・・・。

本場で最近主流の鉄スリッパーって、実はチョー〇〇なんですって!?

上でご紹介した廉価版スリッパー、肉盛り一切なしの鉄板ベース状態のSサイズで重さ700gくらい。かつて我が家の2歳半の娘に買った最小サイズのMXブーツに合わせ、国内鉄スリッパー造りの名工が誂えてくださった手のひらに乗るくらいちっちゃな一点ものが約400g。筆者自身の手持ちのスリッパーはMXブーツ用とかRRブーツ用とか色々あるんですが、だいたいどれも900g〜1kgくらい。

画像: Lightshoe's Gary Kinzler - American Flat Track youtu.be

Lightshoe's Gary Kinzler - American Flat Track

youtu.be

サウスダコタ州スタージスのゲイリー・キンズラーが手掛けるその名もズバリ "Lightshoe" は、おそらく今アメリカで最有力な鉄スリッパーメイカー (欧州のモトGPライダーがトレーニング用に誂えるのもほぼココんちのだとか) ですが、成人男性用サイズで750〜850gくらいとのこと。ひと月くらい乗らないでいて久々にスリッパー履くと、左足の筋肉が痛めつけられてなかなかの "鉄下駄感" があったりするものなんですが、200gも軽かったらだいぶ足さばきが楽だろうなぁ。ちなみにゲイリーさんが初めて作った鉄スリッパーは我が子のためのもので、素材はアルミ製だったのらしいです。

過去には軽さを求めてチタンやドライカーボンでの製作に挑戦した方々もいるようですが、チタニウムは路面と擦れると火花がやたらと出るため車両から洩れた燃料オイル類から誘爆の危険性ありってことで、AMAルールブックでは鉄スリッパー素材として明確に使用が禁止されていますし、釜で焼くドライカーボン製に至ってはすり減っても割れても現場で一切再補修できない (構想段階で誰も気づかないのか) し、どちらも実用には至らない机上の空論の産物でした。軽さ = チタン!カーボン!って発想が非常に中二病っぽくてニヤニヤ笑いも引き攣りそうです。

ここは我が国でもド鉄 ( + 肉盛り) で800gくらいの軽量なやつの登場を待ちたいところ。しかも初心者にも優しくお値段安ければなお良し?軽いほうが膝関節のケガなども少ないように思いますし。

ごく最近まで"ベルトループ"の形状に注目するヒトっていなかったんです

画像: ごく最近まで"ベルトループ"の形状に注目するヒトっていなかったんです

鉄スリッパーを履くには、スリッパー後端のベルトループにシューストラップベルト (ご不要になったタイダウンベルトを再利用して作るのも耐久性非常に良) を通して左足ブーツに縛り付けます。

左側は近年我が国でも主流の "ベルト中通し式" ループ。ターン立ち上がりでカカトをスイングアーム付近に打ち付けるライディングスタイルだと徐々にループが潰れますが、マイナスドライバーで時々拡げてやれば大丈夫。むしろ適度に噛み込んでいてくれたほうがベルトが動かなくて緩まず好都合。本場のライダーはほとんどがこのタイプではないかと思われます。

右側の丸棒をコの字に曲げたタイプはかつて日本では良く見られたものですが、剥き出しのベルトを折り返して通すのでどうしても擦れて痛みが早く、場合によってはブチっと切れちゃうこともありそうです。シューストラップ屋さん的にはいい商売ですが、ほどけて落とすと後続にも迷惑なのであまり好ましくはありません。次回肉盛り補修の機会かなにかに、左の本場ライクなベルトループ式に作り替えてもらうのがよいでしょう。

画像: 撮影: 中尾省吾

撮影: 中尾省吾

こちらは往年のスター選手スコット・パーカーの現役当時の足元写真。革製シューストラップの後ろのほうがダクトテープで補修されてるのも雰囲気だし、万が一ベルトが切れても落ちないよう、カカトの横から鉄板ビスでブーツのソールにネジ止め固定されている点に特に注目。しかもネジ穴は2個目。日本にやってきたブライアン・スミスもRR用ブーツにネジ止めしていたっけなぁ。しかしこの写真の鉄スリッパー、ペラペラでどう見ても1,000gなさそうです。やはり軽さは正義か・・・。

本場の熟練のフルタイム鉄スリッパー職人は1足およそ"何分"で作るのか?

かつての名工、ケン・メーリーさんとかが実際どうだったのかも非常に興味があるんですが、現代の本場アメリカのトップビルダー氏は、"1足作るのに120分近くかかっちゃうんだよー" と仰っています。そう120分。ブーツに合わせて仕上げまででたった2時間です。なんとなく半日とかそれ以上のイメージありましたけど・・・そうじゃなきゃ年200足以上も作れませんね。速さも正義か・・・。

画像: 本場の熟練のフルタイム鉄スリッパー職人は1足およそ"何分"で作るのか?

といった感じでいかがでしたでしょうか。個人的にはここしばらく育休により?現場を離れて鉄スリッパー履いていないので、復帰するときの筋肉痛がチョー心配です。最初は軽量なドライカーボン製にしようかな・・・ (しません) 。ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

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