とはいえトラビス、今回がダートトラック初挑戦ってわけではありません
WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。"あのパストラーナが" いよいよダートトラックレーシングに挑戦だぁ!!うわぁぁい!!と大いに浮き足立つ方もいるかもですが、実はトラビス、過去に2回公式の場でレースに参加しています。
1度目は2006年、当時非常に勢いのあったAMAフラットトラック・スズキファクトリーチームのマシンをレンタルして春の開幕戦2連戦、デイトナバイクウィークでのグランドナショナルシングルス、ショートトラック戦Wヘッダーに挑戦。全米から100台に迫る猛者の集うこの最上位クラスで、トラビスは42台に絞られる予選にコマを進めることができず、両日ともにノッケの予備予選で敗退。同スズキチームのレギュラーライダー、ケヴィン・ヴァーンズとジェイク・ジョンソンはレース2で1-2フィニッシュを決めていますので、当然ながらマシンに瑕疵があったわけではなさそうです。
2度目の挑戦は2年前、2019年の同じくデイトナで行われた公道市販エンジン車で競うSHNC: スーパーフーリガン・ナショナルチャンピオンシップでのTT戦 (AFTデイトナTTとはトラックレイアウトを変え、最高速とジャンプ着地後のリスクを低く抑える工夫あり) 。デウス臭プンプンの流行りのストリートファッション的なシャレオツ縞チェックシャツなどで着飾って、ローランド・サンズが手掛けた美しいスズキGT750 "ウォーターバッファロー" で挑みますが・・・こちらもあえなく予選敗退。
いずれも大変話題になりながら客入れ前とかに早々と敗退してマシンをパドックに戻することになった、2度の雪辱を晴らすために今回は絶好の機会、彼がどのようなパフォーマンスを見せるか注目したいところです。
スーパーTTって"いわゆるTTスタイル"とどこらへんが違うんでしょ?
第3戦の舞台となるアトランタ・モータースピードウェイはNASCARが行われる全長2.5kmのペイブド・クワッドオーバル。アスファルト舗装のホームストレートとピットエリアに囲まれたランオフエリアにTTジャンプとライトハンダー (普段やらない右ターンをこう呼ぶ) を配し、つい先々週当コラムでご紹介したブリストル・スピードウェイのNASCAR特設ダートオーバルよろしく? スペシャルなステージであることを強くアピールしています。
うーむ、このトラックデザイン紹介ムービーからはどのあたりが "スーパーTT" なのかはちょっと伝わってきませんね・・・。伝統のピオリアTTなどは自然地形にじっくりと合わせたトラックレイアウトで、"必然" を感じますし、一昨年シーズンにYAMAHAのJD・ビーチが初勝利した "アリゾナ・スーパーTT" は、オフロードスーパートラックあたりがぶっ飛んでいきそうな過激なトラックレイアウトを、2気筒ダートトラッカーがくんずほぐれつで疾走する様子は (良い意味で) ショッキングなものでした。
今回のレイアウトが "スーパー" なら、世のほとんどのTTトラックは同じく改名するしかなさそうです。NASCARを真似るならそこじゃないだろ感?まぁレースは観てのお楽しみということで・・。
過去15年、最も苛烈なカテゴリーは450ccクラスを措いて他にありません
今回パストラーナが参加するAFTシングルス・クラスは、各メイカー450ccのモトクロス車をモディファイした "DTXマシン" によって競われる、最も広く門戸を開かれたクラスカテゴリーであると自称していますが、同時に2気筒トップカテゴリーで活躍する夢を抱き、プロ生活を目指す若手ライダーたちの登竜門であるがゆえ、場合によっては上位カテゴリー以上に苛烈な戦い・・・トラック上でのライダー同士のパフォーマンスだけでなく、マシンチューニングの面でも・・・があります。
我が国からダートトラックレーシングの本場アメリカを目指し、各地のローカルレースなどへ "参加すること自体を楽しむ" のではなく、ナショナルシリーズに照準を合わせてプロフェッショナルとしての挑戦を目論むのであれば、その入口は選択の余地なく450ccクラスということになるでしょう。
今日までここ15年ほどの間に、アメリカに渡りプロ選手権を戦った (あるいは戦おうとした) 日本人ライダーは、筆者の知る限りおそらく両手10人を少し超える人数ですが、その全員は450ccカテゴリーへの参戦がベースラインであり、飛び込んでいった者たちは、現地のマシンがいかに資金と手をかけチューニングを重ね、パワーを絞り出しているかという現実にも向き合わざるをえませんでした。
筆者調べで、本場の "プロスペック450ccダートトラッカー" は車体の様々な箇所に手を加えることで、車重100kgあたり5〜10馬力が上増しされ (メイカーノーマル比・純正値が55馬力程度) 、ライダーにそれを御する能力は求められますが、さらに懐の深い高次元のパフォーマンスを発揮することが明白です。速さは乗り手の頑張りだけから生まれるわけではありません。
熱心な数人は、それぞれ2000年代中盤以降のGNC選手権 (フォードがGNC冠スポンサーだったころ?) で、いくつもの爪痕を本場アメリカの地に残しましたが、ナショナルナンバー獲得であるとか、トップカテゴリーへの昇格が叶った者は残念ながらいませんでした。いずれ当コラムでも彼らの苦闘の日々を取り上げる機会を持てれば、と考えますが、あまりに厳しい現実がそこにはあったはずです。
今日のAFT、あるいはそこに至る過渡期のGNCシリーズは、ポッと出の異邦人に運良く2気筒車に乗る機会が与えられるほど牧歌的でも、人情味に溢れてもいません。激戦の450ccクラスを生き抜き、勝ち上がってこそ、初めてそういったチャンスが目の前に現れる・・・ "かもしれない" のです。
ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!