1986年にホンダから日本国内向けに発売された、トリコロールカラーが眩しいFTR250。我が国に新たなレースカテゴリーを紹介し根付かせようという意欲的なコンセプトの1台であったにもかかわらず、わずか数年で生産を終了した不運なモデルですが、今もスポーツの現場では数多くの個体がそれぞれ入念に手入れされ、現役で走り続け愛される "名馬扱い" です。本日はこのFTR250という日本独自のマシンの存在そのものの "功と罪" 、その特に後者を軸にお話を進めてみたいと思います。

軽二輪、スポーツ用品としての維持費は大とも小ともさほど変わりません。

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。上限250ccまでの軽二輪車は (ナンバー登録して公道を走る分には) 車検はないし高速道路で流れに乗れるし車重は軽いし維持費は安いしで手頃なカテゴリーですが、レースでの使用を念頭においたダートトラックマシン = スポーツ用品としてはどうでしょうか?

画像: 1986Freddie Spencer+Honda FTR250 youtu.be

1986Freddie Spencer+Honda FTR250

youtu.be

実際にクローズド・トラックを走らせるうえで、まず維持費という面では、半分以下の排気量の軽量級や、450cc以上の大排気量車とも、実はさして大きな差はありません。タイヤもオイルもガソリンも走った分だけ減る訳ですし、全開区間の長いダートトラックレース用マシンは燃費に関して言えばどんな排気量でも激悪です。

オーバルトラックを周回することを前提にした公道市販車として発表されたFTR250は、近い排気量の "一般車" と比較すれば、言うまでもなく群を抜いたバランスとパフォーマンスを誇ります。発売から30年以上が過ぎた "オールドタイマー" ゆえ、手間暇かけたメインテナンスは欠かせませんが。

興奮は、(250cc分だけ) 土煙をつれてやってきた。

つい先日、2歳3ヶ月の娘とモーターサイクルドキュメンタリー映画 "栄光のライダー / ON ANY SUNDAY" を観ていたんですが、作中でマート・ローウィルが駆る'60年代末のハーレーダビッドソンKR750が "ファミリーセダン換算なら2000馬力に相当" という面白いフレーズが目に留まりました。

画像1: 興奮は、(250cc分だけ) 土煙をつれてやってきた。

ちょっと気になったので、日本のダートトラックシーンで古くから一般的なマシン数種と、本場アメリカで走るいくつかの代表的な車種でデータのわかるものをピック。"車重100kgあたりの出力" ・・・手触り感のあるパワー/ウェイトレシオ値・・・を比較してみる事にしました。

モデル馬力(車重100kgあたり)備考
AFTツインズ (2019)72.5hpシーズン上位入賞20台?の平均データ
CRF450R (GNC仕様)61.5hp有力チューナーが仕上げたカリカリプロ仕様
HD XR75061.2hp1970-71 "アイアンXR"
HD KR75058.8hp映画での公表値
CRF450R56.0hpカタログ数値から計算
ブルタコ アストロ47.7hpスペインメイカーが造った市販2ストローク250ccレーサー
FTR25023.7hp車重は保安部品込み
FTR22316.0hp車重は保安部品込み
CRF100F14.0hpカタログ数値から計算
caption

1970年代に本場アメリカのショートトラックを席巻したブルタコ・アストロが、吊るしの市販状態でもFTRに対しダブルスコアなのは正直驚きです。馬力がすべてではもちろんありませんが・・・むしろ無駄に路面を引っ掻かない分、パワーのない小排気量車のほうがツツっと前に進みますからね。地球に優しいマシンはライダーにも優しいのです。

画像2: 興奮は、(250cc分だけ) 土煙をつれてやってきた。

というわけで、あちらの国はとにかく大パワーをなんとか路面に伝えるために人間力でなんとかして1mmでも前進させようとする方向性の伝統をもち、日本はどうやら軽量で軽快、かつ排気量小さめで、上表で言うレシオの低いマシンをより好む傾向が見えてきました。

全科目バランス良い "まとまってる" 優等生が必ず成功するとは限らない。

このような素地を日本に作ったのは、やはり専用マシンとして紹介されたFTR250登場のインパクトによるところ大でしょう。ディスってるように聞こえたら熱狂的なFTRフリークには怒られそうですが・・・いやホントにいいマシンだとは思います。筆者自身も過去に何台も所有しましたけど。

ただ、誰でもそれなりに走らせてくれる懐がやたらに深いといいますか、気持ち良くなる程度のところまでは、簡単に乗り手を運んでくれるんですね。そこから先へは・・・別に挑戦して行かなくてもいまが充分楽しいし良いかな?みたいな。良過ぎて良くない、というか。

画像: 本田技研工業モーターレクリエーション推進本部 (!) が1986年のFTR250発売に合わせて作った全30ページにも及ぶ "フラットトラックレース・ハンドブック" 。FTRワンメイクでのレース開催の提案とか熱の入れようがハンパない一品。むしろその後この流れがピタっと止まった理由が知りたいところ。多分不人気だけじゃないな。

本田技研工業モーターレクリエーション推進本部 (!) が1986年のFTR250発売に合わせて作った全30ページにも及ぶ "フラットトラックレース・ハンドブック" 。FTRワンメイクでのレース開催の提案とか熱の入れようがハンパない一品。むしろその後この流れがピタっと止まった理由が知りたいところ。多分不人気だけじゃないな。

一度乗るといいけど神格化は?同好の士はこの先もう倍には増えませんが。

というわけで一度は乗ってみるべき名車なのもたしかですが、30年以上前に短期間作られただけのFTR、さすがに状態のよい車両は少なくなってきているでしょう。やっとのことで手に入れても、ボロボロでそこから手がかかるようでは道が長過ぎます。10年少々前までは、レースにとことん特化してカリカリにチューニングされた車両がまだ何台か走っていましたが、最近はほぼ見かけません。

早々と生産を終了し、それでも売れ残ったFTR250は、オーストラリアやカリフォルニアにかなりの台数が送られ、各地のライディングスクールでトレーニングマシンとして使い切られたと言い伝えられています。

歴史にもしもはありませんけど、もしFTRが "よりレシオの高い" ライダーにとって手強い400ccや600ccで登場したのなら、現代にいたる日本のダートトラックレースシーンは少し様子が変わっていたのかな、と今は思ってしまいます。

画像: ダグ・チャンドラーのドリフト練習法3 Doug Chandler youtu.be

ダグ・チャンドラーのドリフト練習法3 Doug Chandler

youtu.be

ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

コメントを読む・書く

This article is a sponsored article by
''.