このスポーツの代名詞・"FTRシリーズ"に勝てるマシンを作る醍醐味。
WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。古くは80年代の我が国にダートトラックカルチャーを紹介する先鞭をつけたホンダ250cc → 15年後のイメージ復刻版223cc、あるいはここ数年の全米プロ選手権で圧倒的な強さを見せ、勢力図を一気に塗り替えたインディアン750cc (気づけば本国ではFTR™表記・・・) にその名を冠する "FTR" 。
メイカー・排気量・コンセプトもそれぞれまったく違うモデルたちですが、奇遇にも、ダートトラックライディングの世界に第一歩を踏み入れる我が国のビギナーにとって、あるいは本場のレースで頂点を狙うトップコンペティターたちにとって、いずれも幅の広いライディングを約束してくれる、いわば親しみやすく代名詞的な存在となっています。
しかし、王道をあえて選ばず、他メイカー・他機種をベースとし、しかし押さえるべきセオリーや黄金律を外すことなく、そのうえ個性的な魅力を放ちより高い戦闘力をもつマシンたちを仕立てようと考えるライダー / ビルダーの存在・・・手を尽くして他者 (他車) に勝つ = FTRに追いつき追い越せ!という "秘めたるサブテーマ" をもつ人々の取り組みにもまた、多くの興味深いものがあります。
本日は近ごろ目にするそんな変わり種チョイスのチャレンジングなダートトラッカーたちにスポットを当てるとともに、筆者ハヤシ自身のほろ苦い?駆け出し時代の経験談をご紹介したいと思います。
グラストラッカーBBを本場ローカル的レーシングスペシャルに大改装!
シンプルでタフな空冷250ccエンジンを積んだスズキグラストラッカーBB = ビッグボーイに大胆に手を加え、純粋なダートトラックレーサーとして仕立てられたこちらのマシンは、カスタムペインター / ビルダーとして広く知られる茨城のシェイキンスピードグラフィックス・清水知巳氏がご自身のダートトラックライドのため誂えたもの。ストックの前19 / 後18インチから専用レーシングタイヤ装着のためリアホイールも19インチ化。各所にこだわりのカスタマイズが施され、本場アメリカのローカルレーサーを思わせる、活き活きとした存在感を手に入れています。
質感の高いカスタムペイントはもちろん目を惹きますが、筆者ハヤシの一番のお気に入りはステップ付け根のプレートを車体に固定する (クロモリ製?)の薄っぺたいちっちゃなネジ。本場の洗練されたレーシングな雰囲気をリアリティをもって咀嚼しなければおそらく不可能な選択。ほんの小さな、しかし大変通好みなワンポイントです。流石シェイキン分かってらっしゃる。こりゃあ参りましたね。
カスタムメイド・レーサーとしての完成度の高まり・・・人もうらやむ美しいインパクトのある外観を手に入れるに留まらず、乗り手の要求に対して明快に順応する運動性能を、より高レベルで正しく整えてやることで、ストリートでは所詮軽めのファッションバイクと思われがちな250ccクラスの単気筒マシンは、スポーツの現場 = 戦いの場であるダートオーバルで、驚くほどの変貌を遂げ、ライバル勢に牙を剥きます。この写真からも乗り手の前のめり感 = 高揚感は強く伝わりますよね。
空冷ビッグシングルの選択肢はSR系だけじゃない?CB400SS + FTR。
パッと見ではFTR250か223にも見えるこちらのマシンは、ヤマハ・SR400の対抗馬といった立ち位置のホンダ製単気筒400ccモデル "CB400SS" にFTRのフューエルタンクとシートを移植したものです。ベース車両由来のトラディショナルな2本ショックが印象的ですが、その潜在能力はいかがなものでしょうか?
と、その前に。当コラムで昨年末に取り上げたライバル・ヤマハSRのお話をこちらからどうぞ。
エンデューロレーサー・XR400Rと同系のエンジンを搭載するCB400SSは、ライバルのヤマハSRと比較すると、オイルタンクを別体式とした "クラス最軽量" のメインフレームを採用するのが大きな特徴。軽さと整備性の面では大変優位に働きますが、オイルタンクがスイングアーム前方上部に位置する関係から、ノーマルでは他車種よりホイールベースが長いのがややマイナス材料ではあります。
他にも細く華奢なフロントフォークや、ダートトラッカーとしては寝過ぎなキャスター角 (車体全体としての前傾不足) など、この競技で要求される独特のスポーツ性能のために、整えたほうがよさそうな箇所はいくつか挙げられますが、それを補う方向でのライダーの技量向上や要点を突いたモディファイで解決できそうな、明るい可能性の片鱗を感じさせるベース車両選択だと言えるでしょう。
現状のライト・モディファイ状態でも、もちろんそれなりのペースでなら周回することは可能ですが、課題点が明確になっている以上、手を加えたらどう変わっていくのかは見てみたいところです。
モータースポーツとは、マシン性能・ある一定程度までは保証された安全性、ライダーの技量・胆力、そしてそれらを支援するバックアップ態勢などの「総合力」で競うもの。ライバルに対し突出した部分は間違いなく優位に働く要素ですが、全体のバランス感覚を欠いては元も子もありません。
競技の本場アメリカで独自路線を歩む孤高の現役日本人プライベーター。
本日のコラム冒頭の写真は、2016年の全米プロダートトラック選手権・イリノイ州スプリングフィールドマイル戦での二気筒サポートクラス・当時の "GNC2カテゴリー" の出走を待つ、よくありそうな場面からの一葉。普通でないのはこの43Jのライダーが当地在住の日本人・古橋孝二選手であること、そしてこのマシンは、彼自身が総合的なレイアウトを熟慮して生み出した、オンリーワンの完全なオリジナル車両であるということです。
2010年代始めにホンダが世界戦略車として発売したクロスオーバー・ツアラーモデル "NC700X" のエンジンを、この車体のためにデザインしたクロモリフレームに搭載。マスの集中化を狙った箱形の燃料タンクは車体中央にひときわ低くマウントされ、外装やスイングアームはアルミ製の一点もの。
2010年代半ばといえば、今年はレースナンバー4を纏うAFTチャンピオンライダー、ブライアン・スミスがカワサキER-6 (ニンジャ650) ベースのマシンで大活躍だったころ。ノーマルで71馬力のカワサキは彼とチューナーにより、XR750に勝る100馬力超までその性能を高められていたと聞きます。
このマシンを精魂込めて計画した古橋選手が選んだNC700Xは、当時カワサキ以外の日本製二気筒車で全米選手権でのホモロゲーションを獲得できる数少ないベース車両でした。そのスタンダード性能は50馬力程度、他に比べても圧倒的に非力なものですが、エンジンチューニングの面での戦闘力を手に入れることはこれからでも十分に可能でしょう。今日的な選択肢なら、よりパワフルな95馬力のCRF1000L "アフリカツイン" という手ももちろんありますけど・・・。
筆者ハヤシの回り道!ベースマシン選定を誤れば待つのは無限地獄・・・。
では最後に、筆者自身のこっ恥ずかしい過去の経験を少々語りたいと思います。こちらの白いマシンはハヤシが15年ほど前からの数年間、レースで実使用していたホンダXR250 (2003年式MD30) です。
前年はFTR223で230ccクラスのレースに出場していましたが、少し結果も出せるようになって気を良くして・・・というか簡単に言うと調子に乗ったんですね、手元にあったこの街乗りXRに手を加え、FTR250や水冷250ccDTXが出場する "250ccクラス" へスイッチすることにしたのです。所謂 "市販車でレーサーをやっつけるカタルシス" ・・・ 周りには全力で止められましたが聞く耳持たず。
取り組み始めて早々に、よせばよかったと後悔しました。重くて非力、文字通り全ての面でライバルのパフォーマンスに劣るこのマシンを表彰台に上げるまでには、結果として専用車や水冷レーサーを維持する以上の資金が必要でしたし、またはるかに多くの時間を費やしました。
もう少し軽量なトレールモデルはその限りではありませんが、このように始めから不利な条件の市販車を駆り、レーサー相手にダートトラックマシンとして成功するパッケージに仕立てるまでの道のりは、この自ら経験した数年間の経験から、とんでもない遠回りだと言い切ることができます。
もちろん精神面での忍耐力や基礎的なライディングスキルを高める手助けにはなるでしょうが、遅いマシンで勝とうと頑張る、というのはある種そもそもがアンフェアな取り組みです。そこに意味を見出すのはとても難しい。負けても大いに言い訳できますしね。
見切りをつけて水冷レーサーに乗り換えた翌年シーズンは、たしかシリーズ全戦での表彰台登壇と、全レース中のトップタイムを記録したはずです。最初からそっちにしたら安上がりだったのに!とはいえこうして10数年を経てコラムのネタとして使える、ある意味では良い勉強になりましたけど。
本日いよいよ本場AFT: American Flat Trackシリーズが開幕!
いかがでしたか?どんなマシンをどう走らせるか、コンセプトから戦略まで、実際の乗車以外にも様々な戦いがあることを感じていただけたでしょうか?いよいよ開幕する本場AFT = 全米プロ選手権でも、インディアン常勝に対抗する新勢力とニューヒーローが、果たして現れるのかに注目です。
というわけで現地時間3月14日木曜日の夕方から、つまり日本時間で本日金曜日、フロリダ州デイトナビーチのインターナショナル・スピードウェイでは、AFT開幕戦 "デイトナTT" が開催されます。インターネットのLIVEストリーミングや様々なSNSなど、ご興味ある方は是非ともチェックしてみてください。当コラムでは次週、こちらのレースについて掘り下げていく?予定です。
ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!