インディアンモーターサイクルのダートトラックレース専用コンプリートマシンFTR750がデビューした2016シーズン最終戦以来、全米プロ選手権は先日終了した2018シーズンまでに足掛け3年・のべ37戦が開催されました。この世界の中心とも言えるステージにおいてFTR750は、カワサキの4勝とハーレーダビッドソンXR750の2勝による計6戦を除くと、実に31レースで勝利するという驚異的なリザルトを残しています。が、来期からはおそらくその勢力図に若干の変化がありそうです。本日は競技全体の今後の方向性を左右するかもしれない、本場アメリカのプロシリーズ・AFT: アメリカンフラットトラックの最新情勢について簡単にご紹介しましょう。

常勝インディアンを包囲セヨ!2019年に加わる新たな3つのエンジンルールとは?

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。"勝ち過ぎた出る杭が打たれる" 式の一見すると不合理でアンフェアーなルールの変更は、モータースポーツに限らず様々なスポーツ競技、あるいは2者以上のバランス・・・調整と均衡によって成り立つあらゆる事柄でしばしば起こる "衝突" の原因となります。

過去数十年の間、ハーレーダビッドソンが牽引してきた純アメリカン・スタイルのエクストリームスポーツ "ダートトラックレーシング" の世界に、パワースポーツの世界的リーディングカンパニー・ポラリスインダストリーズ社が復活させたインディアン・ブランドとFTR750が文字通り殴り込んできたタイミングは、ハーレー社がXR750を退役させ、次世代レーサーとしての新型車に取り組み始めた矢先、また長年続いた "AMAプロレーシング" 主体のレース運営が、より大きなビジネスモデル形成を目指す新体制 "American Flat Track" ブランドへと移行しようとする、まさにその時期でした。

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各メイカーの市販エンジンユニットをベースとするマシンたちに戦闘力と勝ち星のチャンスを与える方向で、つい先日発表された "新たな3つのエンジンルール" は以下の通り。直近3年間で勝率8割5分に迫る超ハイスペックなコンプリートレーサー・インディアンFTR750にとって、複合的に大きなディスアドバンテージとなることは疑う余地がありません。

・指定レース燃料の低オクタン化
 →選手権に参加する全マシンのパワー低下を招く "平等な制限項目"

・公道市販エンジンは最大900ccまで排気量拡大を許可・レース専用エンジンは上限750cc
 →FTR750などのレース専用車にとっては "現状性能維持"

・公道市販エンジンのみ燃料供給装置の規定寸法38mmから最大40mmまで口径拡大を許可。
 →20%程度の吸気量増加が見込めるため、特にマイルレースでの性能差が顕著になる可能性

不利を被る側のインディアンは、それぞれのルールについては一定の理解を示すものの、排気量と燃料供給装置の掛け合わせによるディスアドバンテージは、FTR750にとってかなり深刻なものであり、FTR750を用意するエントラントにも大変厳しいシーズンとなることが容易に想像されます。

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なお元来は公道市販エンジン "ストリート750" をベースとするハーレーダビッドソン・ファクトリーマシン "XG750R" については、ノーマルとほぼ同形状とはいえヴァンス&ハインズ社が製造する "レーシングスペシャルエンジン" ですが、どのような制限が課されることになるか、未だその位置づけがはっきりと定まってはいないようです。

FTR750出られません!シングルスとツインズの間に第三の"市販車クラス"誕生?

文字通り全米ダートトラックレースシーンの "Wrecking Crew" として大復活を遂げたインディアンの天下は当面続くことだろうと思われていましたが、AFTは結果的にFTR750が不利となる一部ルール改訂を断固推進。また同車を始めレース専用エンジン車が参加できない第三の新カテゴリー・649 ~ 800ccの公道市販エンジン車のみによって競わせる "プロダクション・ツインズ" クラスを2019シーズンからスタートすることを発表しました。

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この新設クラスは、トップカテゴリー "AFTツインズ" と 450cc単気筒モトクロッサーベースのDTXで争うサポートクラス "AFTシングルス" の間をつなぐ位置づけで、シングルスから昇格するライダーが、はるかにパワフルなAFTツインズマシンに乗る前段階として、スムーズなクラス移行の手助けも兼ねた二気筒・エントリークラスとして設定される様子。全18戦程度のAFT年間カレンダーのうち、ショートトラックとTT戦以外、つまりマイルとハーフマイル戦のみの構成で年11レースを戦う計画で、"AFTシングルス・クラスのライセンス保有者" のみが同時にこのクラスにも出走可能です。

プロダクション・ツイン・クラスには、レース専用エンジン車であるハーレーダビッドソンXR750、ホンダRS750D、そしてインディアンFTR750は参加することができませんが、ここでもハーレーXG750R = ストリート750に関する位置づけは現在まで明らかにされていません。また排気量規定の関係から、インディアンは現在の公道市販車両のラインナップの中から新たに参加車両を仕立てることもできないはずです。

画像: ハーレーファクトリーがXR750からの移行を目論みテストを重ねていた段階で作られた、ストリート750エンジン + C&J製フレームのプロトタイプマシン。

ハーレーファクトリーがXR750からの移行を目論みテストを重ねていた段階で作られた、ストリート750エンジン + C&J製フレームのプロトタイプマシン。

露骨なインディアン外し・ハーレーダビッドソン = AMA偏重への悪しき回帰だ、と憤る意見も多数出るなど、ここ数週間、現地のコミュニティは喧々諤々と大いに盛り上がっているようです。

1970年代のケニー・ロバーツに代表されるUSヤマハ・1980年代のアメリカンホンダRS600D/750D・1990年代からのスズキファクトリーの様々な取り組み、そして近年はカワサキニンジャ650がブライアン・スミスの活躍によって全米の頂点に輝くなど、アメリカン・ダートトラックの世界はハーレーダビッドソンを一方の要としながら、常に強力なライバル関係が存在してきました。

2019シーズンに向けた変革は、これら各時代のようなバランスのとれたライバル関係の醸成を目指すものか?あるいは迷走か?少なくとも現時点でAFTが、米国でもっとも強大なマーケットを形成しているモータースポーツ・NASCAR型ビジネスモデルでの成功を目指していることは明らかです。

最後は、アメリカの経済誌フォーブスに以前掲載された、AFT代表マイケル・ロック氏のショートインタビュー記事をご紹介します。全編英語ですが、本場でのプロスポーツとしてのダートトラックレーシングに関わるビジネス的側面の一端をうかがうこともできるかと思います。ご興味あれば是非。

ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

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