片足だけに鉄下駄を履き、前ブレーキ非装着のマシンを真横に走らせてフルブレーキング。雨に弱い土の競技場を左折左折のグルグル回りでひた走る。でも時折ジャンプあり右ターンありのトラックもあり。掘り下げて書けば書くほど、ダートトラックレーシングは "ヘンなモータースポーツ" です。この種目に特化した専用レーシングコンペティションタイヤは、やはり他のカテゴリーでは全く考えられない、風変わりな特色を持っています。また本場アメリカのダートトラックコミュニティでのレースタイヤの取り扱いも、他に類を見ない独特のスタイル。本日はテクノロジーとカルチャーの両面から、その真実に鋭く迫っていきましょう!

フルサイズは19インチ・ミニサイズは17インチの前後同径が基本です!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。シンプルな走法のダートトラックライディングは、およそどのようなパターン・タイプのタイヤを履いても、"それなりに" 走り出すことができてしまいます。

ビギナー・初心者にとって、専用レーシングタイヤを手にするのは "もっとうまくなってから" ?"いきなり本気仕様はちょっと・・・" ?いやいや、道具を使うスポーツですから、気合いと根性だけではなかなか巧くなりませんし、趣味としてのランニングコスト・リスクマネジメント、さらには奥深さの追求という本来の観点からも、実は早めの交換こそがベターなのです。というわけで本日はダートトラックレーシングタイヤにまつわるお話あれこれをご紹介。

オフロードバイクのフロントタイヤは、悪路走破のため大径21インチが一般的。オンロードバイクは高速域での扱い易さとバンク角の関係から前後17インチがスタンダードですが、ダートトラックタイヤはそのちょうど中間の、"前後19インチ同径" が絶対の基本です。現代のフルサイズマシン用レーシングタイヤには、このサイズしか設定がありません。100 ~ 125ccクラスのミニサイズのマシンには、17インチの専用タイヤがメイカー数社から発売されています。

画像: 筆者所有・C&Jフレーム+CRF450Rを505cc化したエンジンを搭載したレース専用マシン(フレーマー)。2016全米選手権王者・B.スミスがかつて使用した車両。前後タイヤは当然19インチ。撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

筆者所有・C&Jフレーム+CRF450Rを505cc化したエンジンを搭載したレース専用マシン(フレーマー)。2016全米選手権王者・B.スミスがかつて使用した車両。前後タイヤは当然19インチ。撮影: 齊藤淳一(Flattrack Express)

ダートトラックマシンは、直進と横滑りを交互に繰り返すうえで、タイヤの空転による "ジャイロ効果" を有効に働かせるため、オフロードバイクより低重心で、オンロードバイクより大径タイヤ。より悪路 / より高速をそれぞれ目指して進化したオフ / オンロードに対し、前後19インチは、そもそもがモーターサイクルとしてのスタンダードサイズだと言えるのかもしれません。

ダートトラックレーシングタイヤ・最大の特徴とは?

ダートトラックタイヤの構造は、シンプルなバイアスタイプ。トレッド(接地面)に比べ、サイドウォールがアンバランスなほど極端に剛性が高く、ビード落ちによるパンクが起きにくいため、"低圧での高速走行" が可能なデザインです。オフロードタイヤで低圧時のパンクを防ぐ "ビードストッパー" は、高速回転時の振れや、コーナリング中の安定したジャイロ効果の妨げとなるため使用しません。

画像1: DWMedia / Donnie Walters

DWMedia / Donnie Walters

ターン進入でフルバンクし、横滑りするタイヤは、強いGによって捻れて潰れ、スライディングブレーキ走法によるコーナーリング中のタイヤ接地面積は、実はストレート走行中以上に増大します。

画像2: DWMedia / Donnie Walters

DWMedia / Donnie Walters

ターン進入での減速→方向転換が済んだあと、スロットルを開け、タイヤに徐々に遠心力が加わる地点以降、それまでたわんでいたタイヤは直径方向に膨張し、ドリブンスプロケットとの外径の差が少しずつ広がり、ハイギアードになっていきます。

ダートトラックマシンが、オーバルトラックを基本的には固定ギアで、スロットル開度の調整のみで周回することができるのは、この低い空気圧がもたらすタイヤ外径 = ファイナルレシオの変化によるところが非常に大なのです。

低圧でタイヤをたわませることで、より強大なグリップを得る、という考え方は、数あるコンペティションカテゴリーの中で、ドラッグレース用スリックタイヤの概念が最も近しいものだと言えます。

画像: ダートトラックレーシングタイヤ・最大の特徴とは?

アメリカンスポーツって単純で、直進するだけ、周回するだけ、でしょ?と安易に捉えられがちなそれぞれですが、そのシンプルの裏には、奥深い現象とそれに対応したさまざまな機能が工夫されていることを見誤ってはいけません。

またダートトラックタイヤのトレッドデザインは、ブラックマーク (米語ではブルーグルーブ) の残るような硬質な路面から、ザクザクとしたルーストの上がるクッショントラックまで、幅広いコンディションに対応しなければなりません。

タイヤ表面のコンパウンドによるグリップ性能と、ブロックのパターンがもたらす排泥性能の両面がどちらも等しく重要で、路面状況とライバルの出方によっては、"タイヤグルーバー" と呼ばれるツールで、溝を追加したりブロック端部を削り落とすことで、より高いパフォーマンスを狙う場合もあります。

ダートトラックタイヤ表面のコンパウンドは、オンロード用レーシングレインタイヤにもよく似た、非常に柔らかなものですが、レインタイヤには膨張と潰れを許容するサイドウォールの高さ / 剛性がありません。

下の映像は全員17インチレインタイヤ縛りのフラットダート走行という特殊な状況ですが、進入時にタイヤのホッピング = マシンの小刻みなピッチングモーションが (地面から浮くほどではないにせよ) 起こっているのは、主にレインタイヤの断面形状と、空気圧が原因だと考えられます。

画像: Insane footage of Marc Márquez, Jared Mees, Brad Baker practicing in Spain youtu.be

Insane footage of Marc Márquez, Jared Mees, Brad Baker practicing in Spain

youtu.be

現在我が国で入手可能なレーシングタイヤあれこれ

画像: 左からUS DUNLOP DT3リア・フロント→MAXXIS DTR-1→SHINKO SR267(フロント)・SR268(リア)

左からUS DUNLOP DT3リア・フロント→MAXXIS DTR-1→SHINKO SR267(フロント)・SR268(リア)

・US DUNLOP DT3

全米プロダートトラック選手権で使用される唯一無二のコントロールタイヤ。ほぼ同パターンの旧GOOD YEAR / US DUNLOP製 "Eagle DT II"から、内部構造に大幅な改良が施され、2015~16シーズンに新たにデビューした。現地アメリカで、フロント130/80-19が168ドル・リア140/80-19が172ドル。後述のとおりトッププロも基本的にはこの価格で購入している。特にフロントのハンドリングは他メイカーの追随を許さない独特かつ最良のもの。フロント = ミディアムとリア = ミディアム / ハードが用意される。日本へは、FEVHOTSがメンバー向けに可能な限り安価での安定的な供給を計画し、独自開拓した輸入ルートで2018年春からいよいよ正式導入開始。レースメンバー以外への一般市販も可。詳細は当方までお問い合わせください。

・MAXXIS DTR-1

台湾のタイヤメイカー・チェンシンのアメリカ向けブランド・MAXXIS製ダートトラックタイヤは、2000年代初頭に登場した。過去10数年、我が国ダートトラックレースシーンでは最もメジャーなレーシングタイヤ。フルサイズ19インチ・ミニサイズ17インチをラインアップ。タイヤラバーが厚く重量があるため、ジャイロ現象がつかみ易く、またタイヤグルーバーで溝部分を彫ることで、練習用としてはワイヤーが出るまで長く使える経済性も併せ持つ。最近では国内総輸入元が直々に2015年製造分をインターネットショッピングで特価販売中のため、他ブランドに比べて安価での入手が可能。

・SHINKO SR267/268

大阪のタイヤメイカー・シンコーが手がけるダートトラックタイヤ。フロントがDT3タイプ、リアがDTR-1タイプの前後別パターンが特徴。全米選手権で7度の王者となった名ライダー、クリス・カーが開発に加わり、ゴールデンタイヤ・ブランドでのテストを行ったのちに正式発売。純レース用のUS DUNLOPやMAXXISとは異なり、DOT (Department of Transportation) 公認タイヤのため、一般公道でも走行可。フルサイズ19インチ・ミニサイズ17インチがラインナップされ、コンパウンドもソフト・ミディアム・ハードが設定される (17インチはソフトのみ) 。

US DUNLOPがプロにもアマにも定価でタイヤを売る、強気姿勢?の意外なワケ

上で紹介したDT3タイヤは、全米選手権で全てのライダーが使う "コントロールタイヤ" ですが、プロもアマチュアも、新品を買う場面では同じ価格で購入することになります。

プロライダーは可能なら1レースごとに毎回新品タイヤを使いたいところですし (マイルレースでは1レースで丸坊主になるので言うに及ばず) 、アマチュアはできるだけランニングコストを抑えてよりパフォーマンスの高いアイテムを選びたいでしょう。

実は本場アメリカのDT3タイヤのマーケットには、新品をレースごとにプロが使い、すり切れる前に外した中古タイヤをアマチュアに安価で譲るというサイクルが自ずと出来上がっています。

画像: www.americanflattrack.com
www.americanflattrack.com

例えば、170ドルの新品タイヤ→片面新品 / 片面5部山まで使ったものを130ドルで売る。プロは追金40ドルで新品を入手することができますし、130ドルなら他ブランドとあまり価格差がなく、アマチュアでも手が出る範囲なのでしょう。

さらに3番目のアマチュアユーザーに、100ドルとかのより安価で下りてゆく場合もあるようで、レースシーンでのこの全体の "タイヤ再利用サイクル" が長いスパンで破綻することのないよう、メイカーは定価売りを徹底し、結果的にマーケット全体を良き方向にコントロールしているのです。

転べない・カッコイイ・コスパ良い。変えない理由はどこに?

5年とか10年のレースキャリアを持つダートトラック経験者は、およそどんなタイヤでも (減り具合・ストリート用の全然たわまない硬いタイヤでも) 勝ち負けはともかく、それなりに走ることはできます。

が、これからシーンに加わる新たなレース仲間に、場合によってはバイクそのものの乗り方から覚えてもらうのに、入り口のコストが安いからと言って、専用レーシングタイヤやマシンセットアップの必要性を説かないのは、はっきり言って無責任です。

私はダートトラックレース専用タイヤにパフォーマンスで勝る "それ以外のタイヤ" にはお目にかかったことがありません。速く走るか・巧く走るかどうかは別にして、いや二の次として、 金銭的な負担・乏しい技術の両面で、多少無理をしても転ばず走れる道具を勧めることが、我々のレースシーンに加わる新たな挑戦者に、怪我なく深く長く楽しんでいただく最良の方法だと、考えています。

かつて我が国で行われていた、とあるレースシリーズでは "コストアップを抑えるために" 初心者クラスではレーシングタイヤの使用が不可とされる時代がありました。私は当時そのクラスに身を置いていましたが、勝つためには毎レース新品の、決して安くはないハイグリップストリートタイヤが必須でした。そのランニングコストは実は上級クラスのレーシングタイヤユーザーより高くついたのです。誰も文句も言わず、おそらく気づいた人は少なかったのでしょうが、エントリーユーザーの負担増が、結果として競技人口を増やす助けにはならなかっただろうことは想像に難くありません。

画像: 過去数ヶ月内に我々のシーン (毎週火曜日の練習走行会)に加わった3台のマシン。それぞれレーシングタイヤ・ポジション最適化のための外装交換・より本格的なレーシングフレームへの換装がされた、もとは同じ車種。

過去数ヶ月内に我々のシーン (毎週火曜日の練習走行会)に加わった3台のマシン。それぞれレーシングタイヤ・ポジション最適化のための外装交換・より本格的なレーシングフレームへの換装がされた、もとは同じ車種。

ダートトラックのマシンのカッコよさ、競技の美しさにフォーカスして興味を持つ方には、本場同様の雰囲気と由緒ある道具を所有し、スポーツ用品として使い倒すこと自体が喜びであり、そしてそれをライフスタイルの一部として誇っていただけるよう、様々なアイテムと機会を用意して、感度の高い方々のご参加をお待ちするのが我々の務めだと考えています。

私たちの主催するFEVHOTSでは、センパイからの安易な "道具なんかなんでもいい" と "キミには・・・はまだ早い" は基本的にNGワードとなっております。というわけで皆さん!いざ、刃を研いで我々の待つ闘技場 = レーストラックへ!

次回はエントリーユーザー向けの車両のチョイス・ここだけは手を入れておきたいレーシングモディファイ、についてお届けする予定です。ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!

This article is a sponsored article by
''.