50歳で独身。離婚歴もない。健康食品卸会社の外商部で課長をしている男、芽多比 孝。彼には、若くて美貌の恋人と、彼女のマンションに置かせてもらっている愛車BMW2002ターボという二つの大切な存在があった。
1ヶ月ぶりに彼女のマンションを訪れたが呼び鈴に返事はなく。それならば、と芽多比は、2,000cc以下のクルマでは最強と信じるBMW2002ターボの暖機を行うのであった。
©西風先生・モーターマガジン社
1ヶ月ぶりに彼女のマンションに訪れた俺だが、彼女はどうやら留守らしい。しょうがないので、彼女の地下駐車場に停めさせてもらっている愛車、BMW2002ターボの暖機した。
十分に暖まったので、自宅への帰路に着いた俺は、ふと嫌なことを思いだしてしまった。
ミニやスーパーセブン、HONDA S2000、ランエボやインプレッサなど、軽量クラスの速い車との勝負には、ことごとく打ち勝ってきた俺だが、最近200キロ巡行しているときに、ある車にあっさりと抜かれてぶっちぎられてしまったのだ!
その車は古いメルセデス・ベンツ300SL。3リッターとはいえ、俺のBMWはターボマシン。しかも1954年から63年の間に生産された300SLに対して、BMW2002ターボは73年生産。こっちのほうが新しいんだ、言い訳はできない・・。
嫌なことを思いだしてしまったものだが、敗北は復讐の味を引き立てるスパイスさ。必ず仇を討ってやる、そう心に誓いながら俺は夜道を歩き出した。
ところが、その帰り道に、一台の路駐車を発見して俺は息を呑んだ。その車こそ、にっくきあの車ではないか!
ここで遭ったが100年目!俺はとっさにBMWを取りに引き返そうとした。暖機運転は十分にしてある、300SLがどこかに消えてしまう前に戻ってこられるかもしれない。
・・・しかし、結論をいえば、俺は2002ターボを取りに戻ることができなかった。
そして、メルセデスもまた、どこかへ走り去ってしまったのである。
しかしチャンスはきっとまた巡ってくる。そのときこそ、俺の2002ターボが300SLをぶち抜いてやるときなのだ!
ところで。
俺は知らなかったが、俺の彼女は実はマンションにいたらしい。しかも、他の若い男と二人で・・・。
イイ女だが完全に俺に惚れていて、酒もタバコもやらない、ある意味都合がいい女だとたかをくくっていたのだが、それは大きな間違いだったらしい。
女は怖い。いや、女を甘く見ている俺の方こそ、とんだ間抜け、ということだろう。