俺の名前は芽多比 孝。
50歳で独身。離婚歴もない。戸籍は実にきれいなもんさ。
健康食品卸会社の外商部で課長をしている。愛車はあるが、健康のため徒歩通勤をしている。当然酒もタバコもやらない。周囲はやれケチだの、やれ面白みに欠けるだのと陰口を叩くが、俺は気にしない。若くて美貌の彼女がいるし、彼女のマンションに置かせてもらっている、俺だけのとっておきの車があるからだ。いいオンナといいクルマ、それ以上他に何がいるってんだ、えぇ?
画像: 50歳、独身、離婚歴なし。

50歳、独身、離婚歴なし。

俺は夕飯を食べない。お気に入りのカフェでコーヒーを飲んだあと、1ヶ月ぶりに彼女のマンションに向かった。しかし、珍しくチャイムを押しても答えはない。どうやら留守らしいが、俺は落胆しない。

画像: 結婚の意思はないが、何年も続いた彼女がいる。身も心も相性はよいのさ。

結婚の意思はないが、何年も続いた彼女がいる。身も心も相性はよいのさ。

なぜなら、彼女のマンションに来る理由は、彼女との燃えるような逢瀬を楽しむ、というだけではなく、もう一つ俺が死ぬほど大事にしている愛車に会いたいからなのだ。俺のアパートの駐車場には屋根がなく、彼女のマンションの駐車場は地下にある。だから彼女に頼んで車を置かせてもらっているのだ。
女はたまにはどこかに出かけるだろうし、俺にいちいち断りを入れる必要もない。しかし、俺のクルマだけは、必ず俺の来訪を健気に待ってくれている。

一生乗り続けたいほど愛している俺の愛車。月に一度はエンジンをかけてやることが俺のルーティンだ。だから彼女が不在でも、さほど失望もしない、というわけなのさ。

画像: 彼女のマンションの地下駐車場を借りて、愛車を駐めさせてもらっている。

彼女のマンションの地下駐車場を借りて、愛車を駐めさせてもらっている。

画像: その車とは、世界初の量産型ターボカー BMW2002ターボ、だ。 海外ではリベット留めのオーバーフェンダーが日本仕様ではパテ埋めに、またドアミラーがフェンダーミラー仕様に変更されていた。

その車とは、世界初の量産型ターボカー BMW2002ターボ、だ。

海外ではリベット留めのオーバーフェンダーが日本仕様ではパテ埋めに、またドアミラーがフェンダーミラー仕様に変更されていた。

俺の愛車は73年式のBMW2002ターボ。2リッター以下の車の中では最強さ。
どんな奴が来ても、こいつに乗ったら負けられない。

俺は愛車のシートに体を滑り込ますと、ゆっくりとエンジンをかけた・・・・。

画像1: BMW2002ターボに乗る男の奇妙な冒険?(前編)〜『GTroman STRADALE』より
画像2: BMW2002ターボに乗る男の奇妙な冒険?(前編)〜『GTroman STRADALE』より
画像: エンジンかけるだけかーい!!

エンジンかけるだけかーい!!

暖機だけかーい!

と、突っ込んだみなさん。芽多比 孝の今宵の冒険譚はまだ終わらない。
後編をお楽しみに。

【BMW2002ターボ】
世界初のターボ車であるBMW2002ターボの登場は、世界に一大センセーションを巻き起こした。なぜなら公道を走るクルマにもターボチャージャーが装着できることを示したからである。
それまで排気の力を用いてタービンを駆動し、それによって大気圧以上の空気を送り込むターボは、航空機用レシプロエンジンの高高度性能を上げるシステム として知られていた。
BMWはバイエルンの青い空とプロペラを模したエンブレムからもわかるように、もともと航空機用エンジンメーカーである。だから第二次世界大戦で培った 技術がバックにあったであろうことは想像に難くない。 とはいってもストップ&ゴーを伴う市販車に装着する には多くの課題があったはずである。事実、ETC(ヨーロッパツーリングカー選手権)を制したtikで すら、当初はレースすら難しかったのだから。
2002ターボのデビューは1973年9月のフラン クフルトショーに遡る。ここに1年遅れで登場することになるポルシェ911ターボがプロトタイプで展示さ れていたのは興味深い。
当時、ポルシェはカンナムを制した917/10などからターボのノウハウを蓄積中だった。対してBMWは69 年の「tik」の成功以降、レースからのフィードバッ クを基に市販に向けての研究が続けられていた。BMW が市販ターボに1年先んじたのはここにある。しかし、当時はクルマの排ガス問題がクローズアップされていた頃である。そのため、BMWはターボを「クリーンエア 時代に向けての高性能」と位置付けたのだった。
エンジンスペックを見ていこう。ボア×ストロー ク=89×80mmから1990ccとする直4SOHCエンジンはベースとなった2002tiiと同じ。耐久性を考慮して圧縮比は6.9に下げられ、ここにKKK製タ ーボチャージャーとシェーファー製メカニカルインジ ェクションを組み合わせたのである。
これによって最高出力170PS/5800rpm、 最大トルク24.5kg・m/4000rpmと2.8R並み のスペックを有していた。「tii」の130PS/5800rpm、18.1kg・m/4500rpmと比べれば、出力で30%、トルクで35%もの増量である。ターボ化はパワー増のみならず、トルク増大に効果大なることを知らしめた。これに対処すべく、ラジエターは大型化され、オイルクーラーも新設された。さらに、サスペンションが締め上げられたのに加え、フロントブレーキはベンチレーテッド化され、リアブレーキのドラムも大型化された。トランスミッションは4速MT だったが、クロスレシオ化され、ファイナルはハイギアードとなって高速走行に対応している。
タイヤは185/70VR13とし、tiiの165HR 13から20mmもワイド化されていた。BMWが公表した 性能は、最高速が211km/hと遂に200km/hオーバーを実現してみせ、0~100km/h加速の7.0 秒は僅かながら当時の3・0CSLをも凌ぎ、0~400m加速においてもCSLにも迫る15.3秒というものだった。この高性能を僅か2リッター に過ぎないコンパクトな2ドアセダンでやってのけたのが2002ターボだったのである。ー「GTroman STRADALE」より

後編はこちら。

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