幅広ハンドルバーに剥き出しのエアクリーナー、ダウンタイプのスーパートラップマフラーにゴツめのタイヤさえ履かせれば、猫も杓子も "ストリートトラッカー" と称され、ヤンヤともてはやされた時代は今を去ることはや10数年前。"トラッカー = 勝つためのトラック(コース=サーキット)用レーシングマシン" と "ファッショナブルなストリートスタイル" の間で巧みにバランスの取れたカスタムマシンも時折目にしますが、大メーカーのデザインを持ってしてもその折り合いを付けるのは至難の業。本日は筆者ハヤシが、ダートトラックレーサーならではの目線で、"ストリートでも美しく映える (ように思う) ダートっぽい雰囲気のツボ" について、ゆる〜く濃ゆく長話を展開していきます!

"ダートトラックらしい雰囲気作り"には使うパーツより"要所の寸法"がまず肝心!

WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。人とは違ったストリートトラッカーに乗りたい!あるいは年末までに作りたい!そんなあなたは、オマーズの〇〇〇! スティーヴ・ストーツの△△△!! パフォーマンス・マシンの息子ローランド・サンズの◇◇◇!!! などと鼻息荒くアフターマーケットの高級逸品パーツを買い漁るより先に、カスタムの対象とする車両を、できればタンクやシートを剥ぎ取って、じっくりまじまじと眺めるところから始めてみるのがいいかもしれません。

ライト、メーター、ミラー、そしてフロントブレーキさえないダートトラック的スタイルのカスタムを志向するのなら、あれこれ足し算する前にバッサリと引き算 = 余計なものを排除すること。この競技に特化した専用マシンらしい骨格やディテールを理解し、リアルに再現するもよし、ストリートならではの自由な解釈で独自性を追求するのもきっと面白いカスタムマシンが生み出せるでしょう。

上の各イメージは1970年代の単気筒ダートトラックマシンの特徴を捉えた図解です。その時々のトレンド・・・フレームビルダーそれぞれの思惑とライダーの好み = ライディングスタイルなどによって、タンクやシートの形状は何種類もありますが、実はダートトラックマシンの基本的なジオメトリーは、当時から現代までさほど大幅には変化していません。

マシンの高出力・高速化や、ライディングテクニックの進化に伴う、時代ごとの特徴こそあれ、オーバルレーシングを横滑りして走るという基本概念とルールが確立されている以上、当然と言えば当然のことではあるのですが。

続いての写真は、南カリフォルニアのマシンビルダー・名匠ロン・ウッドが手がける、リアサスペンションがシングルショックの "最新型" ROTAX600・ホンダ450・ヤマハ450の各単気筒フレーマーたち。

いずれも2000年代に入ってから彼の工房で作られた、ややクラシカルな雰囲気のある3車種 (エンジンは異なるが車体の骨格がほぼ同じ) です。以下に挙げる各部寸法に注目すれば、ダートトラックレーサーのシンプルで特徴的な車体構成について、さらに理解を深めることができるでしょう。

RON WOOD RACING
"ホリゾンタルシングルショック・シャシー"
単気筒エンジン用
燃料タンク容量: 6.6L
フレームイン・オイルタンク容量: 2.84L(ROTAX) , 2.36L(YAMAHA450)
ホイールベース(軸距): 1378mm ~ 1416mm
キャスター角 / トレール: 26° / 67.6mm (可変式)
シート高: 813mm
フロントタイヤ: 27.0 x 7.0 - 19 In.
リアタイヤ: 27.5 x 7.5 - 19 In.
前後アクスルトラベル: 133.35mm
乾燥重量: 103.4kg(ROTAX) , 88.9kg(HONDA450) , 91.1kg(YAMAHA450)

筆者がダートトラックレーサーとしての "偏った視点" で、単なるスポーツ用品を見る目でマシンの骨格を眺めるとき、"それっぽい" かどうか、つまりトラックでもちゃんと走りそうか否かが気になって仕方ありません。どうしても目が行ってしまう点は、まず最初に以下の5点から。

◾️独特の立ちの強いキャスター角 (WOODは26°、C&JやJ&Mフレームは24.5°〜25°くらい)
◾️他種目のスポーツバイクではなかなか見かけないフォークオフセット値 = 55mm〜75mm
◾️前後ホイール車軸とエンジンクランク軸の位置関係 (三点ほとんど一直線が基本)
◾️比較的短いホイールベース
◾️シート座面がペラペラに薄くフラットかつ水平かどうか

美的観点なども含めれば文字通り際限なく項目は増えるのですが、今日のところはジッと我慢。ここからもベーシックな特徴を順番にお伝えすることにします。

ハンドル幅とタンク容量、左右フットペグの位置。そして、"戦闘用座席"感。

先ほどの5点に加え "ダートトラックらしさを醸し出すポイント" を箇条書きで挙げていきましょう。

◾️いわゆる "ダートトラックバー" と呼ばれる独特の形状のハンドルバーは、全幅およそ860mm以上が基本。角度を起こしたり寝かせたり、左右いずれか・あるいは両端を切り詰めて、ライダー本人の好みのライディングフォームにフィットさせることも当たり前です。

DTXを中心に、比較的手前に絞られた形状のMXスタイル・ハンドルバーを選択する場合もありますが、そちらは市販では860mm幅がほぼ上限サイズ。鉄製は転倒ですぐ曲がるのでレーストラックで使うのならアルミ製が無難です。

◾️スプリント競技たるダートトラックレースで使われる "いかにもそれっぽいデザインの燃料タンク" のほとんどは、容量4~5リットル程度のもの。どんなに多くても7リットル以下。レース専用品はFRP製が多く、稀にアルミタンクもあります。実際のレースでは、ターン走行中に燃料が揺れ動くことで重量配分が変わるのを嫌い、タンク内部に防爆スポンジを忍ばせる神経質なライダーも。

◾️ダートトラックマシンの右フットペグは、ターン中フルバンクの姿勢でも踏ん張れるよう、リアブレーキペダル共々かなり低い位置に設置されるのが常道。対して左ステップはバンク角を確保するなどの理由で、相対的に高く後ろの位置、スイングアームピボット周辺に取り付けられることが多いです。古めかしく太い丸棒形状のラバー製ステップは、鉄スリッパーが滑ることもなく、踏み込みのホールド性がイガイガのMXタイプより優れるため、最新のマシンでも採用されています。

◾️シートは路面コンディションを尻から読むとでも言うのか、クッションが極めて薄く、微細なトラクション状態をコントロールすることが容易で、また表皮は体重移動しやすい滑らかな質感が最良。クッションパッドが薄い分、フレームに合わせたFRP製 "シートカウル" でその高さが調整されるようなイメージ。スプリントで勝敗を決する本来のコンセプトから、いわゆるコンフォートな "乗り心地" は一切削ぎ落してしまうのがレーサーならではの特徴。お尻にはあまり優しくありません。

フロントナンバープレートのコネタあれこれ。

本場アメリカで "その名を知らぬ者はいない" とも言われる著名なダートトラックフォトグラファー氏の弁を借りるなら、「レース用マシンのフロントナンバーがヘッドライトに変わるだけで雰囲気ブチ壊し」。また「ナンバープレートがまっさらでなにも数字が書いてないのもカッコ悪い」とのことですが、筆者もほとんど同意。

ちなみにここで言うナンバープレートとは、車体の前と左右にレースナンバーを表示するいわゆる "ゼッケン" のこと。公道用ナンバープレートはアメリカ英語では "ライセンスプレート" と呼ぶのが正しいようです。余談ですが・・・。

そんなダートトラックレース用のフロントナンバープレート、古くはその固定方法もバラバラで、左右2点や4点、上1点下2点など色々なのですが、1980年代半ばごろから、USホンダファクトリーチームとリッキー・グラハムらの考案と言われていますが、左右留めから上下センターを車体に固定する方法が主流となりました。

車体を覆い隠すフルカウルなどの空力パーツの使用を、ルールで厳しく制限されるダートトラックレーシングですが、中央部を固定したナンバープレートは走行中風圧でわずかにしなり、超高速のマイルレースではほんの少し車速が伸びるとか?伸びないとか?言われます。

www.americanflattrack.com

ナンバープレートは1.5mm厚の透明なビニール樹脂板 (ペットボトルに似た柔らかめの素材) に "裏面から" ナンバーを貼り付けるのが本来のスタイルで、前走車からのルーストで都度ごと数字がボロボロになるのを防ぎます。

標準的なサイズは縦10インチ横12インチの角丸長方形。現在本場アメリカ・プロ選手権は数年前から12 x 12インチの正方形プレートがルール化されていますが、ずいぶんと野暮ったい印象です。あえて狙っているのかもしれませんが?

レーシングタイヤを街乗りで使ってると柔らか過ぎてすぐチビっちゃいますよー。

ロードレース用レインタイヤにも似た、非常に柔らかいコンパウンドが特徴のダートトラックタイヤ。フルサイズレーサーは前後19インチが基本ですが、アスファルト上では数千キロも持たないと言われます。この "前後同径しかも19インチ" というのがダートトラックマシンの雰囲気を醸し出す、優先順位の高いひとつのキーポイントになるように思うのですが、どうしたものでしょうか。

国内で入手可能な19インチの公道向きダートトラックタイヤとしては、SHINKO製SR267/268のハードコンパウンド (DOT approved: 米国運輸当局公認タイヤ) や、レース用ではありませんが、アジアンブランド "DURO" のHF308というモデルが、往年のダートトラックでも使われていたピレリMT53のレプリカパターンです。これらをチョイスすれば、車両全体の本格レーサーっぽいボリューム感はそのままに、ストリートでも必要十分なパフォーマンスを発揮するでしょう。

どのくらい、どっちに、寄せるのか。

撮影: 中尾省吾

トップ画像のハーレーダビッドソンXR750公道仕様は、かつて同社ファクトリーライダーだった元GNCライダー、ケビン・アサートンの自家用車。純粋なレーシングマシンに最低限の小振りな灯火とフロントブレーキ、ライセンスプレートを取り付けただけで、始動方法はケビン本人が手に持っているレース用の外部エンジンスターターを使用。彼はこのスターターをリュックサックに収めて背負い、彼女とタンデムで?ちょい乗りストリートライディングを楽しんでいる様子。

このような "ナンバーつきレーサー" は特殊な例です。ストリートにダートトラックレーサーの土臭いイメージを持ち込む試みには様々なメーカーがトライしていますが、短距離走用のランニングシューズ (コンペティション) と日常使用のカジュアルシューズ (ストリート) が同じ靴でも全く異なるキャラクターをもつように、乗り心地や耐久性の面でなかなか相容れない難しさがあるようです。

次のアルバムには、ハーレーダビッドソン、ドゥカティ、ホンダのダートトラックレーシングマシンたちと、その世界観を共有するストリートモデルを集めてみました。

初登場以来、破竹の勢いでハーレー勢を置いてきぼりにし続ける、インディアンモーターサイクルの市販ダートトラックレーサーFTR750。を、モチーフとしたカスタムコンセプト "スカウトFTR1200カスタム" が昨年発表され、世界中のモーターサイクルファンに熱狂的に迎え入れられました。

コンセプトモデルへの大好評を受け、量産ストリートトラッカーとしてのFTR1200が、いよいよ10月1日に発表となります。ティーザームービーは以下。カリフォルニアのローカルハーフマイルを快走するジャレッド・ミースとスカウトFTR750。ストレートの先のガレージに飛び込んで・・・まさかのお蔵入り!という意味ではないでしょうから、正式発表の日を楽しみに待ちたいと思います。

FTR 1200: Coming October 1 - Indian Motorcycle

youtu.be

10月1日に正式発表される予定のインディアンFTR1200量産モデルの "スパイショット" と言われ世界をザワつかせている1枚の写真。コンセプトモデルの持つレーサー750直系の荒々しい先鋭的な印象はほとんどそこには残されず「まぁ、そうなりますよね・・・」とある意味納得できる、上品でコンサバティブな仕上がり? 個人的には良い意味で裏切られることを強く強く願っております。

国内カスタムシーンのコアな芸達者たちがグルグル業界に真剣な殴り込みを開始。

ダートトラックライディングについて、知識と実際の経験とを併せ持つ、優れた制作者が悩み抜いて仕立てたカスタムマシンには、やはり、というべきか、このスポーツの本質に迫る魅力があります。

横浜市都筑区の相山製作所の手によるオリジナルクロモリフレーム + ホンダCRF150Rエンジン車。タンクとシートはレース用汎用品。製作者自身が毎週のように乗り、各所のクオリティを高める日々。撮影: 菅原健大

横浜市保土ヶ谷区のBUDDY CUSTOM CYCLESからの1台。サイドバルブのハーレーダビッドソンWL750を、同店代表自身が製作したC&Jスタイルの現代的なカンチレバーモノショックフレームに搭載。撮影: FEVHOTS

上の2台は筆者の10年来の仲間でもある "乗れる製作者" が自身のために誂えたレーシングマシン。さらに聞くところによれば、ここ数年でダートトラックライディングに急速に親しむようになった国内MCカスタムシーンのビルダーの皆さんが、年末の "横浜ホットロッドカスタムショー" での一斉展示を計画、それぞれが "バリバリ走るカスタムダートトラッカー" を製作中との素敵な情報も。近年密かに盛り上がる、"トラッカー風カスタム" カテゴリーに一大旋風を巻き起こすこと必至です。

筆者が主宰するダートトラックレースシリーズFEVHOTSでも、同HRCSに展示スペースを確保、作り物では著名カスタムビルダー諸兄にまったく勝ち目がありませんので、我々の日常の一部でもあるアメリカンスタイルのリアル・ダートトラッカーを数台、国内未公開のものも含めてお披露目できればと考えています。ではまた金曜の "Flat Track Friday!!" で、そして12月2日の日曜はパシフィコ横浜で開催予定、27th横浜ホットロッドカスタムショー2018の会場でお目にかかりましょう!