胸部圧迫→△、人工呼吸→NG、しかも距離保って救護ってできるかな?
WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。各人が持ちうるテクニックを遺憾なく発揮して真摯にスポーツに取り組んだ結果、スッ転んでアタマ打ってノビちゃう、あるいはポキっと骨を折る、はたまた他の競技者とガチャガチャ絡んで重層的なアクシデントが発生する・・・いざなにかが起きるまでは誰しも目を逸らしがちですが、これらはモーターサイクルライディングの、特に真剣な競争ごとではどうしても避けて通るのが難しい事柄です。
逆に言えば、レース = 競技会とはそのような可能性までを幅広く許容し、とにかく思い切り走っていただく場を提供するべく、主催者にはあらゆるアクシデントを未然に防止するよう心を砕くとともに、起きたことに対しては的確に対応する知識と能力が必要だ、と筆者は常々考え、我がレーススタッフと共に長年実践を続けてきました。
実際のところレース主催者とスタッフは、モータースポーツでのアクシデントに特化した応急救護 = レスキューの基本スキル・・・競技で起きがちな受傷に対する処置、身体のダメージを確認しながら必要に応じてヘルメットやレースウェアを取り除くテクニック、心肺蘇生とAED (自動体外式除細動器) 使用の適切な実践で、競技者の安全を確保し救急隊に引き渡すことのできる唯一の存在です。
なのですが現在、 "市民による救急蘇生法の国際的ガイドライン" としては、おりからのCOVID-19感染症の世界的流行がいまだ止まらない状況を踏まえ、以下のような特別の指針が出されています。
・胸骨圧迫 (心臓マッサージ) を含め心肺蘇生はエアロゾルを発生させる可能性があるため、COVID-19感染症流行の状況下では、すべての心停止傷病者に感染の疑いがあるものとして対応する。
・成人の心停止に対しては、人工呼吸を行わず胸骨圧迫とAEDによる電気ショックを実施する。
・呼吸障害を原因とすることの多い子供の心停止に対しては、人工呼吸の正しい技術と行う意思がある場合にはそれを実施する。
・救助者は傷病者に近づきすぎないようにする。
・胸骨圧迫の際は、傷病者の鼻と口からのエアロゾルの飛散を防ぐための処置を必要とする。
・心肺蘇生の実施後は救助者自身の身体を石鹸と流水で十分に洗浄する必要がある。
ちょっとどうもね、ごくごく小規模なイベントとはいえ・・・いやむしろすべての役務を少人数のスタッフで処理しなければならないからこそ・・・アクシデントに適切に対処できない懸念のある、今の状況がガラっと変わらないことには、レース再開はまだしばらく先かなぁと考えさせられます。
"ケガと弁当自分もち" なんて前時代的な根性論、今はもう通用しませんよ
筆者の短くはないダートトラックレースキャリアの中で、幸いにも自身の大きな怪我は一度もありませんが、これまで下記のようなアクシデントには実際に出くわしました。これらはすべて、ちっぽけな100ccのオートバイで、ほんの数百メートルのオーバル周辺で誰にでも常に起きうる事柄です。
・世界屈指の性能を誇る有名メイカーのヘルメットが頭部直撃のクラッシュでパックリ割れる。
・救急車では病院への搬送が間に合わないとドクターヘリ・自治体の防災ヘリが介入する。
・転倒して打ち所悪く首の骨を折る。
・転倒してぶっ飛んで完全に気絶してアレとかアレとか漏らしちゃう。
・多重クラッシュの救助に向かったレーススタッフが全身に返り血を浴びる。
・持病が原因で休憩中のパドックにて突然意識を失い呼吸が止まる。
擦り傷・切り傷・単純骨折くらいで自身のダメージをコントロールでき、なにがあっても医療機関の世話にならずすべて自力で対処できる人なんて、残念ながら多くはいませんからね。"Motor Sport Can Be Dangerous" 、それでも走り回りたい人を留める術はこれ以上筆者にはありませんけど。
という苦めのプレゼントをお届けしたところで年内の当コラム更新は本日まで。2021年はきっともっと明るい年にしたいですね。来年また金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!
いつもご高覧いただく親愛なる読者の皆さん、ダートトラックレースファンの皆さん、COVID-19と最前線で戦う全ての医療従事者とそのご家族と関係者の皆さんに、心よりメリークリスマス。