リーマン・ショック + メイカーリブランディング + そしてCOVID-19・・・
WELCOME RACE FANS!! ダートトラックライダー/FEVHOTSレースプロモーターのハヤシです。ここ何年もの間、無双状態のインディアン・FTR750とそのファクトリーチームを追撃することを誰しもが強く願っていた、名機XR750の後を継ぐはずの新型水冷ツインマシン・XG750Rとファクトリーカラーのレザースーツに身を包む、メイカー直轄スタイルの由緒あるレーシングチームは、折からのCOVID-19禍の影響をモロに受けたこともあり、次シーズンの活動を断念せざるを得ないようです。
2008年のリーマン・ショックに端を発する世界的な大不況の影響が、数年かけてアメリカン・レースシーンに大きく暗い影を落とす直前、2009年シーズンまでのハーレーダビッドソン・チームは、全米プロダートトラック選手権 (当時はGNC = グランドナショナルチャンピオンシップと呼称) においては、 "ハーレー・レッキングクルー" として最大では5名もの精鋭ライダーを同時に揃えるなど、今にして思えば、ここがまさに "最後の円熟期" だったと言えるかもしれません。
上の写真は2009年GNC第5戦・テネシー州ブルズギャップ1/2マイル戦からの1コマ。左からレースナンバー3のジョー・コップ、42のブライアン・スミス、1のケニー・クールベス、右端まで飛んで21のジャレッド・ミースの4名と、ベテランの80リッチ・キングを合わせた5ライダーがシーズンを通して "ハーレーレッキングクルー" つまり "ファクトリー相当" ライダーという扱いで活躍しました。
実際にはディフェンディングチャンピオンのケニー・クールベス (レザースーツ上下の色柄がわかりやすく他と反転しています) のみがメイカー直轄のスクリーミン・イーグル + バンス&ハインズ・チーム所属で、他のライダーはそれぞれ自身のプライベートチームでファクトリーカラーのレザースを着て出走する・・・というややこしい構図ではありましたが。ちなみにこのシーズンの大団円は、5名のなかの最年少、21ジャレッド・ミースが自身初のGNC王者に輝くかたちで幕を下ろしました。
余談ですが70〜80年代、白 / オレンジという所謂ハーレーカラーのレザースーツを着ることは、本社直轄のファクトリーチームに所属する数名のライダーのみに許された栄光のステータスであり、ディーラー系サテライトチーム扱いのライダーは、同じデザインでも白地に "黄色ストライプ" のレザースを着用していたそうです。ご承知のとおり当時は白黒写真の時代ですから今や識別不能な場合も多いのですが、ルーキー当初のジェイ・スプリングスティーンなどはまさにそれに当たります。
競技場でも!公道でも!競合他者の後塵浴びるジリ貧状態を脱せるか・・?
ある時期まではレースシーンでのシェアも含め、最強にして唯一の選択肢だったXR750をついに勇退させ、鳴り物入りで次世代の勝ち名乗りを上げたはずのXG750Rは、その檜舞台であるダートオーバルでインディアンFTR750に完膚なきまでに叩きのめされ、若者向けの小排気量ストリートコミューターや電動バイクなど、ブランドとしての新規分野では先を行くライバル各社に追いつく見込みもなく、XG = ニューカマーたる水冷ストリート500 / 750を生産中のインド工場は閉店ガラガラへ向かうなど、ダートトラックレーシング以外の二輪業界全体の様子に疎い筆者でさえ、このところハーレーダビッドソンにまつわる明るいニュースはあまり多くを目にしません。
しかし考え方を変えれば、ライバル不在でメイカーシェア100%であったAMAダートトラックレーシング黄金期の屋台骨をXR750が単独で支え続けたことでも明らかな通り、"グルグル回りと直線競争こそおらが国のレース文化だろ" というハッキリとした、アメリカならではの意地とプライドを貫き通したからこそ、今日までシーンが続き、そして次世代へ向けた展開が開けたとも言えるでしょう。
数年続けて全米チャンピオン獲ったらさっさと撤収、とか、千両役者が他のカテゴリーに活躍の場を移したから撤収、とか、ある奇才チューナーがいじくり始めて大成功したけどメイカーとしてはマーケットリサーチの結果ほぼシカト、とか、いずれもビジネスの論理としては正しいんでしょうが、やはりその底意地を含めたハーレー好きの人々の心の中までは深く染み入らない、かもしれませんね。どこのメイカーとはいいませんけど。
負け戦を承知で?ここ数年を非力なXG750Rで戦い続け、そして敗れて去ってゆく、レッキングクルー = 老兵の背中に盛大な拍手を!きっといつかまた、勝てるマシンを誂えて帰ってくるはずです。
ファクトリーチームとしての活動をいったん完全にストップするハーレーダビッドソン・ブランドですが、引き続きXG750Rで戦うプライベーター・・・各地のディーラーチームへのサポートとコンティンジェンシー = 賞金プログラムは継続するとのこと。
同社はFTR750不在 (!) の市販車エンジンベースで争われるサポートクラス "プロダクション・ツインズ" で今期チャンピオンを獲得した、ジェームズ・リスポリ選手を擁する名門チーム "ラトゥース・モータース" を来期は最高峰スーパーツインズクラスへとアップグレードさせ、ファクトリーチーム並み?の厚遇でサポートすることで、インディアンからのタイトル奪還に挑む戦略のようです。
父親と長年の二人三脚でレース活動を続け、ここ10年ブリティッシュ・スーパーバイク / スーパースポーツなどロードレースを中心に戦ってきた、29歳のジェームズ・リスポリ、実は20歳ごろまで若きアマチュアダートトラッカーとして、また全米ダートトラックレースのサポートクラスで目覚ましい活躍を遂げた、おそらくAFT界隈で当代一の注目株。どうやら来期もお楽しみは続きそうですね。といったところで、彼のお話は、近いうちにまた。
ではまた金曜日の "Flat Track Friday!!" でお目にかかりましょう!