キリンが911を追い回すきっかけの一つになったエピソードを、キリンの20年来の親友が、問わず語りに語った・・・。
©東本昌平先生/モーターマガジン社
キリンが頼りにするバイク屋のご主人が語る、キリンと911のエピソード-1
「今じゃバイク屋をやっているが、俺がバイクに乗るようになったのも彼に出会ったのがきっかけだった」と語るご主人。
大学2年の夏休みに、若き日のキリンとともに北海道にツーリングに行ったのだという。そのときキリンは26歳かそこら。
ご主人はHONDA CB500T、キリンの当時の愛車はKAWASAKI 750RS、そうZIIだった。
そのとき、不意に白い911が現れた、と彼はいう。
「サロベツあたりかな。直線といっても厚さ1メートルはありそうなフカフカの砂利道で、ほとんど轍の上しか走れなかったな」
その砂利道を猛スピードで彼とキリンのバイクを追い越して行った911。彼は砂けむりの中でスピードダウンを余儀なくされていたが、キリンはスロットルを開け、猛然と911を追いかけ始めたのだそうだ。
911に勝負を挑むも、あっけなく敗れてしまう・・
キリンのZIIは、加速を続け、あっという間に911を抜きにかかった。
しかし、並びかけた途端に、911は再加速し、キリンのZIIの前に出たのだという。そのため、キリンは911の後輪が弾く砂や小石の霰を浴びて、転倒してしまった。
奴だけは変わっていない。いや。変われないのだろう・・
「140km/hも出てなかった」とキリンは悔しげにつぶやいたそうだ。
バイクはこんな道を飛ばすようにはできてないし、と慰めたご主人に、「あのクルマだってそうはみえなかった」とキリンは言ったという。
「あの顔はいまでも時々思い出しますよ」とご主人は言った。「あいつは、あの夏で時間が止まってしまった」と。
キリンがあそこまでこだわるにしては、あまりにもくだらない。彼はそう笑うが、我々が知る、そして憧れるキリンは、この瞬間に生まれたのかもしれない。
デカ尻にこだわり、デカ尻を追い回す孤高のバイク乗り。キリン。そのエピソード1がここにある。
「キリン」の話ですか?
「今でもしますよ」と彼はいう。「だからみんな(彼のことを)キリンと呼ぶんです」