東本先生が描く女には、どこか エロティシズム がある。モーターサイクルを描くのと同じように、実に緻密で精細なラインで描き出された彼女たちは、漫画的なデフォルメはなく、リアルな美しさを持っている。
エロさを感じさせると同時に、彼女たちの多くは男どもをハッとさせる強さを持っている。男に媚びる狡さをちゃんと持っているくせに、それを意識して使う図太さ、オンナのしたたかさを隠さない。そして、時として男がいなくても一人でどこかに行ってしまう気ままさが、男たちを戸惑わさせるのである。
要するにだ。一言で言えば、東本昌平先生が描き出す女性は、実にいい女ばかり、ということなのだ。
The Red Snake Come On! - Episode3 500SS MACH III part 2
RIDEXは、東本昌平先生の短編を集めたコミックのムック本である。
そして今回紹介しているのは、そのうちのRIDEX KAWSAKI Special Edition、つまりカワサキ特集の一冊からのエピソードだ。
主人公の女性は、自分を置いてどこかに消えた男を追って、彼が残したモーターサイクルにまたがって旅に出る。泣くのではなく恨むのではなく、エンジン音を轟かせて、追うのである。ここからしてすでにカッコイイ。
そのバイクとは、 KAWASAKI 500SS MACH III 、いわゆるマッハだ。女性が簡単に乗りこなせるバイクじゃない。なにしろ1969年製造であるうえ、当時からして速すぎて扱いづらい、ジャジャ馬と称される”止まらない曲がらない”バイクなのだ。
男ではなくマッハと共にあることに生きがいを見出す女
しかし、彼女はマッハとともに全国を回りながら、キャバクラや飲み屋のアルバイトをしながら旅費を稼ぎ、また旅に出る。それは自分とマッハを置いて去った男を見返すためなのか、それを乗りこなしている自分を見せるためなのかは、彼女自身にも徐々にわからなくなっている。
彼女はマッハを駆って全国を旅する。旅しながら彼女は腕を上げていき、前を行くバイクには片っ端から噛み付いて、それを抜き去るようになるのだ。
いわば、彼女は自分を捨てて去った男を探しているうちに、恋愛以上に、マッハにスピードに憑かれ惹かれていくのである。男を探すのは、もはや彼女にとっていいわけにすぎなくなっていると思う。
思いがけず女の背中を見せつけられて 慌てるのは男たち
東本先生の作品の主人公たちの大半は男だ。
女性は多く現れるが、その多くは男の物語を彩る美しい華であり、男の弱さを映し出す鏡としてである。
もちろん、そうした役どころであっても(冒頭に書いたような)彼女たちの魅力は存分に発揮されている。
しかし、この作品「The Red Snake Come On! 」のマッハ乗りのヒロインのクールでハードボイルドな魅力は、ちょっと別格だ。男が思い惹かれる”女”であると同時に、男を怯ませる強さを持つ”オンナ”でもある。
ぜひ本書を手にとって、マッハの3気筒エンジンが奏でる激しいサウンドと振動に痺れ、彼女の魅力に痺れてもらいたい。