どこが違うのか、どこが同じなのか
マツダ ロードスターと同じアーキテクチャーを使いながらもアバルトが独自で開発した部分も多いという124スパイダー。やはりこの2台は、同じステージで比較したくなるのだ。(Motor Magazine2016年10月号より)
価格レンジにはそれなりに開きのあるアバルト124スパイダーとマツダ ロードスターだけに、実際に両車を比較、検討する人は、そうは多くないに違いない。しかしながらベースが一緒となれば、やはりに並べてみたくなるというもの。そこでここではロードスターRSも連れ出して、横並びで2台を観察してみた。
走りの印象は、前項で記したとおりのアバルト124スパイダー。さて、それはロードスターとどれだけ違って、どれだけ同じなのだろうか。 ボディサイズは、アバルトが全長で145mm長く、全幅と全高がそれぞれ5mm広く、大きくなっている。
ホイールベースはともに2310mmとスペック上は同じだ。つまり全長の差は前後オーバーハングの分ということになる。
フロントウインドウやソフトトップ、ドアミラーなどが共通なため、ふとした瞬間にやはり兄弟だなと感じはするのだが、近くで見るとやはり両車は別物。前後オーバーハングは長いだけでなく、絞り込まれたロードスターに比べ寸法を目一杯まで使っていてマス感が大きいし、タイヤもロードスターの195/50R16に対して205/45R17と、外径がひと回り大きく、これらがアバルトを少し大きく見せている。
インテリアは想像以上に共用部品が多い。デザイン自体は悪くないし、両方に頻繁に乗り比べるわけではないからいいとして、ちょっと不満なのがクオリティ感である。フィアット車やアバルト車の内装は、決して高級なわけではなくても、しっかり見せ場があるもの。そう考えると、クオリティはまずまずでも、何だかヌケが良くない気がするのだ。とても個人的な印象だが……。
また、ハンドルのテレスコピック調整ができず、グローブボックスが備わらず、カップホルダーも使いにくい着脱式といった欠点までロードスターから引き継いでいるのも惜しい。ロードスターなら走り一辺倒でもいいかもしれないけれど。
全域で余裕を感じる124、回すのが楽しいロードスター
その走りに関する部分こそ、両車のもっとも大きな違いだ。前述どおり、アバルトのエンジンは最高出力170ps、最大トルク250Nmを発生する1.4Lターボ。ロードスターの1.5L自然吸気エンジンは同131ps、150Nmだから差は大きい。車重はMT同士の比較で1130kg対1020kg。パワー・ウエイト・レシオは6.64kg/ps対7.79kg/psという差になる。
アバルトの走りは先に記したとおり、それでも十分軽量なボディに、低速域から充実したトルクのおかげによって、全域で適度な、余り過ぎない程度の余裕を感じさせる。対するロードスターのエンジンは、自然吸気らしく軽やかに吹け上がり、回すのが楽しい。同じルートを走ると、124スパイダーならそのままのギアで行ける上りで、シフトダウンが必要になったりもするが、ロードスターの場合、それもまた歓びである。実は両車、別物のギアボックスだが、いずれもタッチは良好。ヒール&トゥが容易なペダル配置も相まって、クルマとの一体感は強い。
乗り心地は実はアバルトの方がしっとりしている。相手がビルシュタイン製ダンパーを奢ったRSだからかと思ったが、実は124スパイダーも足まわりの構成は一緒。つまり、これはセッティング、銘柄もサイズも異なるタイヤ、そして車重の違いに起因するのだろう。ロードスターの、とくにRSの悪癖である路面からのコツコツとした入力は感覚的には半減しているし、ストロークの初期からしっとりとしたダンパーの抑えが得られる感触もある。
その分、フットワークはロードスターの方が軽快。グリップとスライドを行き来するような状況でも挙動がスムーズに感じられる。一方で、その軽快感を演出しているロールやピッチングの大きさゆえに、オーバースピードかなと思ってアクセルペダルを戻した途端、リアが伸び上がってグリップを失う、なんて具合に挙動変化が大げさに出がちだ。
似ているようでしっかりと性格分けがされていた2台
そこへ行くとアバルトは、こちらも決してロールが小さいわけではないが、姿勢変化の特に初期のスピードが抑えられており、フラット感も高い。ハンドルのやや重めの操舵力も相まって、乗り味には心地よい落ち着きが感じられる。
コーナリング中も、ロードスターに較べて後輪が常にしっかり接地しているような感覚が得られる。この安心感がある分、パワーとトルクを活かして積極的に滑らせて楽しめる。ターンインでうまくラインに乗せたら、あとは右足ひとつで自在に姿勢をコントロールできる。
LSDの効きが強力かつリニアなことも、自由自在感に大いに貢献している。アクセルオンで穏やかにスライドを収束させながら確実にクルマを前に進めていくコーナーからの立ち上がりは、アバルトの走りのハイライト。夢中になって踏み込んでしまった。
この2台、ここまでキャラクターが違うとは……悩ましい
ロードスターは走りに対して、とてもストイックなクルマだ。的確なシフトチェンジでエンジン回転を高めにキープし、また両手両足を駆使して車体の姿勢をしっかりコントロールして走らせるのが、快感を得るためのポイントと言える。
対するアバルトは、もう少し平均台の幅が広く感じられる。エンジンには、迷った時にはそのままのギアで行けるぐらいのトルクがあり、フットワークももう少し懐が深い。力があるからスライドをコントロールするのだってロードスターより容易で、もっと気楽に刺激を味わえる。
個人的には今回、そんなアバルトの走りに大いに惹かれた。大人のためのスポーツカーとしての魅力、色濃い1台だと言える。
一方、運転を突き詰めることにアスリート的な歓びを感じる人なら、ロードスターの方がそれっぽい。と言いつつ、2台の間に横たわる価格差を考えると、アバルトを推すと言った舌の根も乾かぬうちに、大いに後ろ髪惹かれるのだが……。
ともあれアバルト124スパイダーとマツダ ロードスターは、似ているようできちんと、しかも思った以上に違ったキャラクターを持ったクルマに仕上げられていた。仮に走りが似たテイストだったら、ブランドの好みや価格で決めればいい。しかし、こうして違うものになっているとなると悩ましい。もちろん、それはとても贅沢な悩みである。(文:島下泰久/写真:永元秀和)