日本の出版物の36.5%は漫画、だという。漫画がなければ多くの出版社の経営は成り立たないだろう。ただし漫画家として生きていける、つまり一度くらい雑誌に掲載されたことがあるというのではなく、連載を続けて漫画だけで生計を立てられる人間は10万人に一人。だから漫画家になるというのは、大博打だ。
その博打に挑み、夢を叶えようとする若者二人の奮闘を丹念に描いた傑作コミックの映画化。

漫画家を目指すことはスタートアップに近い

以前ロレンスでも紹介していた『バクマン。』。
今回は、映画作品のほうを紹介する。

設定そのものは、原作であるコミックと同じだが、主人公の真城最高(サイコー / 佐藤健)と高木秋人(シュージン / 神木隆之介)、そしてヒロインであり声優を目指している美少女の亜豆美保(あずきみほ / 小松菜奈)の三人は高校生二年生の設定だ(原作では中学三年生)。

亜豆美保に想いを寄せて授業中に似顔絵を描いていたノートを忘れて、学校にとりにいったサイコーが、そこで待っていたシュージンに口説かれて、共に漫画家の夢を目指すことを決意するのは一緒だ。サイコーと美保は相思相愛で、互いの夢がかなって、二人の作品をアニメ化してヒロインを彼女が演じることができたら結婚しようと誓い合うのも一緒だ。

冒頭でも書いたが、漫画家として生計を立てられる確率は10万人に1人、つまり0.001%。これはベンチャー事業における起業家たちの挑戦とも共通していると思う。漫画家は起業家に比べれば、出版社への持ち込みや、各漫画賞への入選を勝ち取るという、プロになるための王道的なプロセスが確立されていたわけだが、最近になって、ベンチャー起業家にもさまざまなピッチ(数分の短いプレゼンテーション)を投資家の前で行うイベントが多く開催されるようになり、ある種の登竜門が設定されてきている。まさにプロとして”売れていくための”形は似通ってきているといえるだろう。

画像: ジャンプ編集部に初の作品を持ち込みにきた二人。

ジャンプ編集部に初の作品を持ち込みにきた二人。

画像: ライバルとなる新妻エイジとの戦いも、漫画をイメージする見事なビジュアルで表現される。

ライバルとなる新妻エイジとの戦いも、漫画をイメージする見事なビジュアルで表現される。

漫画原作の映画化として一等評価

本作は、漫画家を目指す若者を描くと共に、二次元の漫画の世界を、見事に三次元に置き換えている。漫画を映画化している作品はいくつもあるが(僕が最近見たなかでは『寄生獣』が一番の出来かと思っていたが)、このバクマンは、一番である、と評価する。

原作が漫画、というだけでなく、漫画家の実態を表現した漫画のさらに映画化、という縛りを、見事に映画表現していると思う。

主人公をモチベートする2人への思い

主人公サイコーは、同じ高校生の天才漫画家新妻エイジをはじめとするライバルたちと競いながら、時に挫けそうになりながらも、相棒シュージンと共に夢に向かって爆走する。その心の支えとなるのは、かつて少年ジャンプで連載を続け、打ち切りとともに過労死した漫画家 川口たろう。彼はサイコーの実の叔父であり、川口たろうの漫画愛を思い出すにつれ、サイコーはやる気をかき立てられる。

さらに、ヒロイン亜豆美保との約束と、彼女自身が声優として大成するために頑張っている姿を見て、サイコーは負けじと頑張るのだ。(美保を演じる小松菜奈さんの可憐さは実に麗しい。彼女の可憐な魅力を堪能することも、この作品を観る、大きなモチベーションになるとおもう。)

漫画家でも起業家でも、自分だけでは頑張れない、ということだろう。

とはいえ。

原作とは少し異なる結末は、少し切なく、でも受け容れられる形だ。

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