カウルとフェアリング・・・どうして日本ではカウルが一般的呼び方に?
先日、ついに今シーズンのMotoGPがタイで開幕しましたね。近年最強勢力であるドゥカティが88戦!ぶりに表彰台を逃し、2位KTM以外のトップ5をアプリリアが占めるなど、なかなか興味深い決勝レース結果でした。

MotoGP開幕戦のスプリントは、マルコ ベッツェッキ(アプリリア)が序盤で転倒。前年度の王者マルク マルケス(ドゥカティ、左)とペドロ アコスタ(KTM、右)が優勝争いをしましたが、パッシングの仕方に対するペナルティをマルケスが受けたために、アコスタの初優勝という結果になりました。
www.autoby.jpアプリリア勢の開幕戦の好調ぶりは車体空力の洗練が大きな要因といわれていますが、空力が戦闘力を大きく左右するのが近年のMotoGPのトレンドとして定着しています。それにしても、ウィングレットやダクトの類が「カウル」にいっぱい付いていて、スゴイ形状になっていますね・・・。
上の文章ではあえて「カウル」と書きましたが、英語ではこのパーツを「フェアリング」と表記するのが一般的です。そういえば2輪雑誌記事などでフェアリングって書いてある例を見たこともあるなぁ〜、と思った人も多いでしょうが、日本では「カウル」と呼ばれる方が圧倒的にメジャーでしょう。
さて、どうして日本では「カウル」という呼び方が一般化したのでしょうか? 昨年12月に「どうして私たちは、「燃焼」を「爆発」と呼ぶようになったのでしょうか?」という記事をグダグダと書きましたが、同じノリで真相を追求することを試みてみました。
航空機の世界では、古くからメジャーな言葉でした
そもそもフェアリングとカウル/カウリングいう言葉はともに、航空工学の世界では20世紀初頭から使われていました。空を飛ぶために飛行機の機体は空気の流れを整え、抵抗を減らすことが大事です。そのためあらゆる箇所は空気の整流に留意して設計されており、整流の部材は総じてフェアリングと呼ばれます。
一方、航空工学でのカウル/カウリングという言葉は主に、レシプロエンジンを覆う外殻を称する用語として使われました。つまり整流するパーツはすべてフェアリング、一方エンジンをカバーするものはカウルと区分することもできます。ただ、航空機のカウルもエンジンを単に覆うだけではなく、エンジン周辺の整流も担っているので、その点では紛れもない整流するパーツ・・・フェアリングのひとつでもあります。

1928年に撮影された、カーチスAT-5Aホークの星形エンジンを覆う、米NACA(NASAの前身)カウリング。抗力の低減によって速度を向上させつつ、整流によりエンジン冷却性と燃費も改善させた優れもののデザインが与えられていました。
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なおエンジンを収納する独立構造体のことは、ナセルと呼ばれています。カウル部や支柱部、燃料系など機能部品すべてを含めてナセル、というわけです(写真はボーイングB52のもの)。
en.wikipedia.org結論としては、こういうことなのかなぁ・・・と?
そもそもフェアリングは、動詞の「to fair」・・・滑らかに整形するから派生した、fair + ingの名詞になります。今日のフェアリング(カウリング)の原型は、1950年代半ば以降のロードレーサーに採用されたものですが、主な目的は空力面にあったわけですので、整流のためのパーツとしてフェアリングという呼び名が(欧米では)定着したわけです。

1950年代半ば、世界ロードレースGP(現MotoGP)で活躍した独NSUのレンマックス(空冷並列2気筒250cc)。写真の車両に装着されたフェアリングは動物の「カワイルカ」に似ていることから、ドルフィンフェアリングと称されました。
en.wikipedia.orgではなぜ日本はフェアリングではなく、カウル / カウリングの呼び名が定着したのかというと・・・以下は推論になりますが、日本の航空機・二輪車業界独特の成り立ちが影響した、と思われます。航空機を構成するパーツはすべて大事ですが、空を飛ぶのに必要不可欠な推進力を得るエンジンはやはり航空機の性能を語るうえで最重要視される部品でした。
そのエンジンを覆う保護および空力パーツであるカウルは、エンジン同様大事なものとして強く認識されました。第二次世界大戦前の日本を代表する航空機メーカーである中島飛行機や三菱重工業の技術文章を見ても、カウリングという語は頻出しますがフェアリングの語はほとんど出てきません。

レシプロエンジンの飛行機は固定脚を採用する例が少なくないですが、その覆いはホイールフェアリング(またはスパット、ホイールパンツ)と呼ばれました。
en.wikipedia.org部品としての花形度、および言葉の重みとしてカウル>フェアリング・・・ということで、英米の翻訳から主に航空工学を習得したいった日本では、カウル / カウリングという用語が定着したのかもしれません。そして敗戦によりしばらく航空機製造を禁じられた日本ですが、そのことにより多くの航空系技術者が2・4輪の自動車産業界へ流入することになったのは、多くの知るところです。「カウル / カウリング」という言葉に慣れ親しんだ人たちがその言葉を使い続けたことで、国内2輪業界に「カウル / カウリング」の語を普及させることに一役買った部分もあるのかもしれません?
一部の例外、そしてスクーターのユニットスイングを除けば、19世紀末に誕生した2輪車は前輪と後輪の間にエンジンを搭載し、車体にライダーが跨って操る構造のまま今日まで発展してきました。ロードレーサーで一般化した1950年代半ばから現代までのフェアリングは、空力的に整流を担いつつもエンジンを覆う構造を保ち続けているわけで、その意味では「カウル / カウリング」と呼ぶのも別におかしいことではないようにも思えます。

今年の開幕戦、タイで優勝したマルコ ベッツェッキ(アプリリア)。外観のウィングレットの派手さが目を惹きますが、フェアリングの内側・・・車体内を通り過ぎていく空気をいかに活用するかが、エアロダイナミクス的には非常に重要です。その意味では、上で紹介した1928年のNACAカウリング同様、空力に求められる要求は今も昔も変わらないといえるのでしょう。
www.autoby.jp過去記事の「どうして私たちは、「燃焼」を「爆発」と呼ぶようになったのでしょうか?」では、「燃焼」より「爆発」の方が語感や響きの良さ、そしてわかりやすさから言葉として普及した・・・と記しましたが、「フェアリング」より「カウル」の方が短くて話し言葉として使いやすいという点も、日本におけるカウルという言葉の一般化に寄与していると思えます。
まぁ真相を追求してはみたものの、リサーチ不足ゆえ学術的に真相を明らかにすることはかないませんでしたが(苦笑)、そんなに推論としては大外しはしてはいないのでは・・・? と思います(異論反論大歓迎です)。ともあれ日本語としては「カウル」で問題なく通用するのは確かなので、みなさん今後も安心して「カウル」の語を使ってください。

