0〜100mph(160km/h)6.2秒!! スピードトリプル1200を凌駕する加速力!
トライアンフTE-1は、イノベートUK(技術戦略委員会)と英OLEV=ロー・エミッション・ビークル局の資金提供を受けて進められた、電動モーターサイクルのプロジェクトです。既報のノートン電動車計画もそうですが、英国は自国産業の「電動化」を国力増強のために強く支援しているのです。
フォーミュラEなどの電動競技車両用高性能バッテリーパック供給で著名なウィリアムズアドバンストエンジニアリング、高性能電気モーターやコントローラーを開発するインテグラルパワートレイン、そしてエンジニアリング/シミュレーションの分野の先端教育を行うワーウィック大学のWMGとともにトライアンフはTE-1を開発していたのですが、今年開発の最終フェイズとなるフェイズ4(走行テスト)を終え、TE-1プロトタイプのスペックが公表される運びとなりました。
ICE(内燃機関)搭載車、電動車というジャンルの違いはさておき、スポーツバイクのスペックのなかで誰もが最も注目するのは"動力性能"の項目でしょう。まず加速力について、TE-1の0〜100mph(161km/h)加速は6.2秒であり、スピードトリプル1200のタイムを凌駕するものであるとトライアンフは誇らしげに主張しています。
またTE-1の0〜100km/h加速は3.7秒ですが、このパフォーマンスは起動時から大トルクを稼ぐ電気モーターの特徴のほか、トラクションコントロールやウィリーコントロールなどの、ICE搭載車よりもきめ細かい調整・制御が可能な電子制御技術を、磨き上げた結果によるものです。なおトライアンフの開発陣によるとローンチコントロールのソフトを入れずにこれら加速タイムは実現されたものであり、加速力についてはまだ強化できる余地があるとのことです!
TE-1の最高出力は130kW(177ps)で車重は220kgですが、これらの数値は今日市場にある他の電動車に比較して、はるかに優れたパワーウェイトレシオ値をTE-1が達成していることを意味します。先日、来年度からMoto Eの車両プロバイダーとなるイタリアのドゥカティが、電動ロードレーサーのV21Lのスペックを公表して話題となりましたが、V21Lの最高出力110kW(150ps)、車重225kgと比較してTE-1はピーク値でのパワーウェイトレシオではV21Lを超えていることになります。
上述のとおりピーク値の計算であり、ICE、電動問わずモーターサイクルの"速さ"は原動機のみから引き出されるわけではないですが、これら公表された数字はTE-1がかなり速い電動車であることを示しています。
ちなみに最大トルクに関しては、V21Lの140Nmに対しTE-1は109Nmとなっており、フルパワーでTE-1を走らせることが可能なのはバッテリー保護制御によって4分間ほど、となります。もっとも最高出力を4分間持続させるようなシチュエーションは、絶対地上速度記録挑戦などかなり特殊なケースに限られますから、定格出力でも164psを発揮するTE-1はトラックデイ(サーキット走行会)などでも、十分楽しめるバイクに仕上がっているいえます。
ブランドン・パーシュ(プロフェッショナルライダー)
「TE-1のスロットルレスポンスは信じられないほど非常にトルクフル、そしてスロットルを開けると瞬時にパワーを発揮します。これは言うまでもなく、レーサーの私は強いトルク感と瞬発的な立ち上がりが大好きなので、私にとっては本当に素晴らしい経験でした」
航続距離は100マイル(161km/h)、0〜80%急速充電は20分で完了!
今日電動車の最大のウィークポイントは、電池の持ちの悪さゆえの航続距離の短さと充電に多くの時間を費やしてしまうことですが、TE-1は航続距離100マイル(161km/h)で、0〜80%までの充電時間はわずか20分(直流急速充電使用時)と、スペック的には実用性十分なデータとなっています。
この100マイルという航続距離ですが、どのようなテスト方式やプロトコル(WMTC=The World-wide Motorcycle Test Cycleなど)でのデータなのかは明らかにはされていません。ただ、50kWの直流急速充電で0〜80%充電が20分で可能ならば、充電中にコーヒーを飲んで移動中の休憩をとる・・・という、普段私たちがICE搭載車で楽しんでいるツーリングでの使い方にも、TE-1は十分適しているといえるでしょう。
純粋な性能以外のことではありますが、非常に興味深いのはTE-1が「音」にもこだわっている点です。ICE搭載車に比べ走行音が静かなことは電動車の長所ですが、排気音などの音を楽しめないことは電動車の欠点と考えるライダーは少なくありません。TE-1はヘリカルギアのプライマリー(一次減速)機構を採用しており、同機構が奏でるサウンド(メカノイズ)がプライマリー機構を持たない多くの電動車よりも、ライダーの耳を楽しませてくれるだろうとトライアンフは説明しています。
素晴らしい性能!! ・・・しかし、すぐにTE-1が市販されることはなさそうです
去る7月初旬に、トライアンフは世界のメディア対象にインターネットによるオンライン・ブリーフィングを開催しTE-1の最新情報を説明したのですが、非常に残念なことに? トライアンフはTE-1の市販版をすぐに用意する予定はないことを明らかにしています・・・。
てっきりこのブリーフィングで、今秋の世界各地のショーで市販版プロトタイプを公開し、2023年モデルを市販・・・と発表するとワクワクしつつ思い込んでいたので(苦笑)、日本市場の導入は? など事前に用意していた質問の多くをゴミ箱へポイする羽目になってしまいました・・・。
マイルス・パーキンス(トライアンフ ブランド マネージメント部長)
「このTE-1プロトタイプは、市販される予定はありませんが、TE-1プロジェクトで得られた知見と、そのダイナミックなスピリットを受け継いだモデルを開発することはお約束します。このプロトタイプは、信じられないような結果をもたらす電気車の未来への強いヒントを与えてくれました」
※トライアンフTE-1プロジェクト(電動バイク開発)メディア向け説明会(アジアブリーフィング)での発言。
あくまでTE-1プロジェクトは、トライアンフの電動車開発のノウハウを積み上げるためのものであり、個別の量産電動車の機種開発ではない・・・ということです。しかしメディアとの質疑応答のなかで、「安心していただきたいのですが、私たちはすでに電動バイクの図面を持っており、開発中のものがあります。ですから、トライアンフから"何か"発表されるのも、そう遠いことではないでしょう」ともトライアンフ側は発言しています。
それはTE-1同様な電動スポーツネイキッドなのか? それとも今後力を入れていくことが予想されるオフロード分野の電動車なのか? なお質疑応答でトライアンフ側は「クラシックスタイルのバイクは、エンジンが全体的なスタイリングにおける非常に重要な問題なので、電動化するのは間違いなく難しい・・・」とコメントしているので、その路線はナイと思いますが・・・。
ともあれ電動車に関する、トライアンフからの"新しい発表"を楽しみに待ちたいです!