BMWとソリッドパワーの結びつきは、2017年末から
EV普及のための鍵となる技術のひとつである全個体電池の開発には、現在多くの自動車メーカーやスタートアップ(新興企業)が取り組んでいます。独の2&4メーカーであるBMWと、米国コロラド大学ボールダー校から誕生したスタートアップであるソリッドパワーの組み合わせも、全固体電池開発競争に熱心な組み合わせのひとつです。
両社のパートナーシップは2017年12月に始まりましたが、今年5月の投資第2弾からは米国の自動車メーカーの雄のフォードと、電力系投資企業のボルタ・エナジー・テクノロジーズも加わることになりました。この投資で開発を加速させることで、BMWは2025年までに全固体電池のパワーパックを使用した実証車を作り出し、10年以内に全固体電池を生産することを計画しています。
そもそも全固体電池のメリットは?
BMWが2025年までの投入を目指している実証車はおそらく4輪EVと予想されていますが、ソリッドパワーからBMWに供給される全個体電池セルはもちろん2輪EVも含まれています。今回の投資の見返りとしてソリッドパワーは、実証車などに使える100Ahのセルを提供できるようになると公表しています。
そもそも全固体電池とは、通常のリチウムイオン電池に含まれる液体の電解質を、固体に置き換えた電池です。一般的なリチウムイオン電池は、正極と負極の2つの電極の間に多孔質のセパレータを挟んでいます。多孔質のセパレーターの周りを液体電解質が取り囲んでいるため、正極と負極の間でリチウムイオンが移動します。
一方で固体電池は、液体の代わりに固体の電解質を使用しています。なおソリッドパワー社の全固体電池は負極に金属リチウムを使用しており、通常のリチウムイオン電池に使用されている黒鉛の負極よりも、はるかに大きな容量を期待できる設計になっています。全固体電池は一般的なリチウムイオン電池よりも小型化が容易で、EV用に使った場合同サイズ比でより多くの出力の航続距離を稼ぐことが可能になります。
安全性がリチウムイオン電池よりも向上するのも大きなメリットです。万が一の事故で全固体電池が曲がったり破損したりしても、リチウムイオン電池のように「液漏れ」したりすることはその構造上当然ありません。またリチウムイオン電池よりも充電時間を短縮できるのも、全固体電池の強みです。
全固体電池の量産化と普及には、まだまだ越えないといけない技術の壁がありますが、次世代EV用電池の本命と多くのメーカーが考え、その開発競争に励む理由は、上記のようなメリットがあるからなのです。
とりあえず「車名」は押さえてあります?
先日BMWはコンセプト版登場から約10年を経た電動スクーター、Cエボリューション(2014年〜)の後継機種である「ディフィニションCE 04」の市販バージョンを今年の夏に発表することを公表しましたが、電動バイクの開発についても、着々と進めていると推察されます。
2019年にBMWは、ビジョンDCロードスターという電動バイクのコンセプトモデルを公開しましたが、将来BMWから登場することになるであろう製品のために、すでに「DC 01」から「DC 09」まで9つの名前の商標権を取得しているのです。
もちろん、すでに名前が押さえてあるからといって、すぐにBMWが2輪バイクを続々登場させることはないでしょう。電動バイク時代が到来してから・・・将来のことを考えての、先手の措置と思われます。
ただソリッドパワーとの協力により、BMWが全固体電池採用2輪EVを一足早く市場に投入することができたら・・・ライバルたちは戦々恐々でしょうね。KTMとピアッジオの両グループが、ホンダとヤマハを含む交換式バッテリーのコンソーシアム(共同事業体)で「共闘」路線を選んだのに対し、BMWは独自路線を今のところ歩んでいるのも興味深いです。
もっとも、ソリッドパワーに投資するBMW、フォード、ボルタ・エナジー・テクノロジーズの他にも、4輪業界ではVWグループや米GMなども、それぞれ全固体電池開発競争に参戦しています。この競走の勝者となるのは誰か? それは今のところ、神のみぞ知る・・・ですね。