[訃報] イタリアの最初のスーパースター!! カルロ・ウビアリ

軽量級で大活躍した稀有な才能の持ち主

1929年9月24日、イタリアのロンバルディア州ベルガモに生まれたウビアリは若い頃から父が営む2輪ディーラーで働き、モーターサイクルに慣れ親しんで育ちました。1946年、ウビアリは初レースであるベルガモカップで優勝を記録。翌年彼は独DKW125に乗り、より上級のレースに参加して見事優勝しますが、そのレースの参加資格である18歳以上という条件を満たしていないことがバレて、あえなく失格になってしまいました。

1948年、MVアグスタのディーラーとなった父の下で働いていたウビアリは、代役として出場したレースで1949年の世界GP125ccクラス王者となるネロ・パガーニに次ぐ2位に入り、MVアグスタワークスチームの注目を集めることになりました。そしてMVチームに加入した1949年、ウビアリは125ccクラスでスイスGP4位、ダッチTT3位の記録を残し、ランキング4位に食い込みます。さらに、この年のISDTウェールズ大会（国際6日間トライアル、現在のISDE）では見事ゴールドメダルを獲得し、類稀なるマシンコントロール能力の高さを世に示しました。

ウビアリの才能を高く評価したのは、MVアグスタだけではありませんでした。1950年代のイタリア・ロードレース御三家のひとつであるFBモンディアルは1950年シーズンにウビアリを125ccクラスのライダーに起用。そしてアルスターGP（北アイルランド）での初優勝を含む優秀な成績で、ウビアリはこの年のランキング2位の座を獲得。そして1951年には、ウビアリは自身初となる125ccタイトルを手中に収めました。

MVアグスタで黄金時代を築く

1952年シーズンのウビアリは2位を4度獲得するものの、未勝利に終わったことで英国のセシル・サンフォード（MVアグスタ）に125ccクラスのタイトルと奪われることになります。その後のシーズン、ウビアリは古巣MVアグスタのライダーに復帰。1955、1956、1958、1959、1960年の125ccクラスタイトルと、1956、1959、1960年の250ccクラスタイトルを獲得し、この時代に最も成功した軽量級ライダーとして歴史にその名を刻みました。

9つの世界ロードレースGPタイトル、そして8つのイタリア国内タイトルを獲得したウビアリが如何に卓越したライダーであったかを示すのは・・・・出走74回で優勝39回という、5割を超える驚異的な勝率でしょう。

またGPカレンダーの一戦だった時代のマン島TTでの5勝、世界ロードレースGPでの39回の勝利と68回の表彰台獲得、そして10回参戦したダッチTTでは4度の優勝を含む9度の表彰台獲得など、彼の傑出ぶりを示すエピソードには枚挙にいとまがありません。

しかしウビアリは多くの人に惜しまれつつも、9回目の世界選手権の勝利を得た後にロードレースからの引退を表明しました。命を落とすことが珍しくない時代のGPライダー稼業と家業である父のディーラーシップ経営の両立の難しさ、これから自身が結婚すること、そしてマネージャー兼メカニックとしてレース活動を支えた弟のマウリツィオの早世が、ウビアリの引退の決意の理由でした。

引退後のウビアリは父の仕事の手伝いのかたわら、モータースポーツのコンサルティング的な仕事にも関わりました。後にGP界の帝王となる若きジャコモ・アゴスチーニをサポートしたのもウビアリでありました。いわばウビアリのおかげで、アゴスチーニは栄光のMVアグスタワークスライダーとしての地位を得たのです。

家業からリタイアした後もウビアリは、欧州を中心とするヒストリックイベントに精力的に参加し、GPファンとの交流に励みました（1998年にオランダ・アッセンで行われたセンチニアル・クラシックTTで彼に会えたことは、私にとっての一生の思い出のひとつです）。今年の5月初旬から呼吸器の不調により床に伏せていた彼は、惜しまれつつも6月2日にこの世を去りました。

MotoGP＝世界ロードレースGPの歴史で、最初の偉大なイタリアンヒーローとしてその名を刻んだ英雄の魂が、天国で安らかにあることを願ってやみません・・・。