河原良雄
自他共に認めるホンダマニア・元Motor Magazine誌編集部員のフリーランスライター。
連載:ホンダ偏愛主義
印象深い5代目プレリュード
振り返れば「いいクルマだった」と言うホンダ車は実に多い。その代表格が5代目プレリュードだろう。デビューは1996年11月。10月にロゴを、直後にはS-MXを登場させるなど、ホンダが新型車を相次いで投入していた頃である。
先代がアメリカンな曲線基調のグラマラスなボディと比較し、5代目は直線基調のエレガントなクーペに生まれ変わっていた。フォルムはロングノーズ&ショートデッキで、スラントしたノーズ(傾斜して迫り出したノーズを指す)には矩形ヘッドランプを埋め込みキリっとした出で立ちとしていた。
テールランプも横長タイプと全体的にはオーソドックスにまとめられていた。逆に言えば先代のように個性的ではなく無国籍的な雰囲気だったが、個人的にはプレーンなスタイリングで「いいじゃん」と好印象だった。
「さすがプレリュード」という声が多かった
エンジンは2.2L直4ながら、ホンダらしく何と4タイプものスペックを用意していた。下から行こう。Xiには135psでSOHCのF22B型、Siには160psでDOHCのF22B型、SiRには200psでDOHCのH22A型、そしてタイプSには220psとしたDOHCのH22A型である。正直「ここまで使い分ける必要あるの?」と思わずにはいられなかったのを憶えている。
ここで注目はタイプSを最上級としていることだ。1年前にインテグラにタイプRなる高性能版をリリースしていたが、スペック的に“タイプR手前”という立ち位置を“タイプS”としたのである。これはその後のホンダ車に受け継がれることとなる。
タイプSは専用のフロントグリルやエアロパーツで差別化を図っていたが、220psを5速MTを介してフルに使い切るべくATTS(アクティブトルクトランスファーシステム)を備えていた。コーナリング時にアウト側に多くのトルクを供することで曲がりやすくするというもの。
今で言うトルクベクタリングを先取りしていたのである。さらにSiとSiRにはビスカスLSDと新4WSを組み合わせ、システムを変えながらコーナリングの気持ち良さを追求していた。エンジン共々、きめ細かなセッティングを施していた。
ATにも注目したい。ATながらMT感覚を楽しむことができるシーケンシャルスポーツシフトである“Sマチック”を採用。加えて、バラードスポーツCR-X以来となるアウタースライド式サンルーフの設定も「さすがプレリュード」の声が多かった。
話題が盛り沢山だったプレリュードだったが、当時はスポーツクーペ、とくにスペシャリティクーペの需要が落ち込んでいた時代だった。そんな中、1998年9月にホンダはSiR・Sスペックを打ち出す。それはSiRの5速MTにタイプSの220psユニットを組み合わせるというものだった。シリーズ中の“いいとこ取り”だった。
細かな仕様で話題が盛り沢山なホンダプレリュード。走りも含めポテンシャルが物凄く高かったホンダ車の一台だった。