そもそもは、1990年代のK.シュワンツ用タイヤに話はさかのぼります・・・
16.5インチがロードレースの最高峰であるGPで話題になったのは、1990年代からでした。当時GPの最高峰ではスズキのエースのケビン・シュワンツがメチャスゴなライディングでファンを楽しませていましたが、そのシュワンツ用RGV-Γにはミシュラン製の16.5インチが試験的にトライされていたのです。
なおミシュランがロードレース用に17インチを最初に使ったのは1984年ですが、当時のロードレース界は18インチが主流の時代でした。ラジアル化後のミシュランによる2度目の「タイヤ革命」といえる16.5インチですが、これは暴力的なパワー特性の2ストローク500ccマシンによるハイサイド由来の転倒を防ぐ方策として考案されたものでした。
実は16.5インチを投入する前、ミシュランは路面との接触面を増やすため・・・というコンセプトで幅広の17インチを開発していました。このタイヤを使ったダリル・ビーティーは1993年ドイツGP500ccクラスで自身初優勝を記録しましたが、当時標準の17インチに比べるとタイヤ重量が重い・・・という欠点が幅広17インチにはあったのです。
また幅広17インチは通常の17インチよりもサスペンションセッティングが複雑になり、現場のメカニック泣かせでもありました。16.5インチは、それらの欠点があった幅広17インチに代わるタイヤとしてミシュランが考案したものです。
当時の段階で、17インチに勝る16.5インチのグリップというメリットは確認することができたと、ミシュランのエンジニアは近年のインタビューで語っていました。しかし、当時主流だった17インチと異なるプロファイルを持つ16.5インチのハンドリングに馴染めないライダーが当時は多かったなどの問題もあり、いったん16.5インチはシーンの背後に潜むことになりました。
そして再び、16.5インチが脚光を浴びるようになるのは2000年のことでした。ミシュラン16.5インチユーザーのギャリー・マッコイ(ヤマハ)がこの年の500ccクラス開幕戦の南アフリカで勝利。そして同年第3戦日本GPでは、ノリックこと阿部典史(ヤマハ)も16.5インチで自身3度目となる優勝を飾りました。
当時、常時16.5インチを使っていたマッコイは、スライドを多用する自分のライディングスタイルに16.5インチはマッチしており、中速コーナーで17インチよりグリップが良いのが16.5インチの強みだとメディアのインタビューに答えています。
2000年のころはまだトラック状況などに応じて17インチと16.5インチを使い分けるライダーが多かったのですが、次第にグリップで優位な16.5インチが主流となっていきます。そして2016年以降のMotoGPで16.5インチが使用できなくなるまで、16.5インチの時代が続いたのです。
もちろん!? 今年は全車17インチでの戦いです!
さて、2016-2017年シーズンのFIM EWC(世界耐久選手権)では16.5インチの使用が認められていましたが、今期の2017-2018年シーズンでは多くのカテゴリー同様に16.5インチが使えなくなっております。
なお誤解している方もいるかもしれませんが、16.5インチと17インチの外径が0.5インチ変わるワケではありません。ホイール径には16.5インチ用と17インチ用があり、タイヤ全体の外径は同じなので16.5インチホイールのタイヤの方が、タイヤの横の部分(サイドウォール)のゴムの面積が広くなります。この構造の違いが、よりグリップ力が高くなるメカニズムの肝なのです。
昨2017年は優勝したヤマハ・ファクトリー・レーシング・チームのほか、2位のチームグリーン、そしてヨシムラが鈴鹿8耐でも実績ある16.5インチを使用しましたが、今年はもちろん全車17インチになります。全日本JSB1000では昨年から17インチ統一で、8耐優勝メンバーでヤマハ・ファクトリー・レーシング・チームのエースである中須賀克行が昨シーズン序盤17インチの適応に苦労したりしていましたけど、現在では17インチタイヤということで開発に苦労しているチームはないようですね。
2006年の辻村猛/伊藤真一組(CBR1000RR)の優勝以降、昨年まで鈴鹿8耐のウィナーはすべてブリヂストンユーザーが独占しています。今年もこれまでのJSB1000での戦いを見るに、ブリヂストン強しという印象には変化はありませんが、ダンロップ勢やピレリ勢がどれだけ対抗できるか・・・使用本数制限や天候状況などにまつわる各チームのタイヤ戦略も、今年の鈴鹿8耐の見どころになると思います!