厳しい家計の犠牲になって不良高校に転校を余儀なくされた少年が、一目惚れの美少女を口説くためにバンドを組む
コナーの父親は失業中。母親の週三回のパートで家計をやりくり中だ。
コスト削減のため、学費の安い高校(シングストリート(SYNG STREET)高校)に転校させられたコナーは、融通の利かない規則や、素行の悪い不良にいじめられるが、耐える他にしょうがない。無理をしているわけではない、誰もが苦しい時代だし、なかなか仕事も見つからず、やりたい夢を見つけることも難しいことを彼はよく知っている。
1985年のダブリンはそういう街だったのだ。
そんなときコナーは、いつも同じ場所で人待ちをしている一人の美しい少女ラフィーナに恋をする。モデルをしているという彼女の気を引こうと「僕のバンドのMVに出てくれ」と誘う。(ラフィーナが人待ち顔で佇んでいるのは、実は彼女が住む養護施設だ。彼女もまた辛い現実を抜け出すことを夢見て、何かにすがっている)
早速楽器を弾ける仲間を募り、バンド「Sing Street」を組んだコナーは、先に大学を中退して無職となっている兄ブレンダンの薫陶を受けながら、徐々に音楽にのめり込み、同時にラフィーナとの関係も緊密になっていくのだが、そのラフィーナは年上の恋人とともにロンドンへと旅立ってしまう・・・・。
閉塞感に社会全体が包まれていたアイルランドで、大人も子供も、ともすれば喪いそうな夢や希望にしがみつくように生きていた。そんな時代にあって、音楽にすがり、そして誰かを愛する、誰かのために何か成し遂げたいと願う少年たちの姿を、コミカルに、シリアスに、そしてストレートに描いた傑作。
アイルランドの少年たちの心の叫びと情熱に心打たれる
コナーはラフィーナへの思慕に思い悩む。彼女を救い出す力が自分にないことを、よく知っているからだ。誰もが行き場を無くして、辛い現実に押しつぶされそうになりながら生きている。
この映画はアイルランド版「8 Mile」だ。
「8 Mile」ほどの切迫感と高揚感がない代わりに、より現実的で観るものにも優しい。
エミネムの狂おしさの代わりに、コナーをはじめとするバンド Sing Streetのメンバーの連帯感と肩を寄せあうような苦しくて熱い友情が心に響く。 社会がなんだ、権威がなんだ、反骨だ、それがロックだ。
この映画を観て思うこと。
がんばれ君たち。がんばれ俺。