史上最悪・最大の悪人を一人挙げよと言われれば、恐らくはぶっちぎりでトップの座を得ると思われる。それがアドルフ・ヒトラーだ。1945年に死んだはずの彼がなぜか現代にタイムスリップするが、モノマネ芸人と勘違いされてテレビで引っ張りだこになる。
大衆を洗脳し扇動することにかけては空前絶後の稀代の天才の彼は、テレビやインターネットの力と相まってあっという間に多くの人々を熱狂に巻き込んでいく・・・。
圧倒的なアジテーションの才能を持つ者が、メディアやネットの力を借りて、人々を先導していく様は、民主主義・自由主義を標榜していたどこかの国のどこかの指導者を見るようで、ブラックコメディと笑って済ますには、あまりに気味が悪く背筋が寒くなる。コメディというよりは、悪趣味ギリギリの際どいラインを攻めた、本格的な風刺映画である。

現代にタイムスリップしたアドルフ・ヒトラーが巻き起こす、恐るべき混乱と衝撃

なぜか現代にタイムスリップしてしまったヒトラー。最初こそ事態を理解できないでいるが、”今いる場所”が1945年のベルリンではなく2014年のベルリンであることを把握すると、自分が敗戦間近だった時代から現代にタイムスリップしたのは、戦争を続け、今度こそ勝利をつかむためだと考え出す。

そんなとき、たまたま(ヒトラーになりきったコメディアンと勘違いして)彼の存在を知って近づいてきたのがテレビ局をクビになって捲土重来のチャンスを探していたプロデューサーだった。彼はヒトラーのそっくりさんを使って成功の糸口を掴もうと考えた。そして、ヒトラーは彼の思惑を利用して、再び人々を”啓蒙”しようと企むのである。

TVプロデューサーはヒトラーのそっくりさんと地方行脚して人々の不満を聞いて回る政治番組企画を作っていると信じるが、あいにくこのヒトラーは”ホンモノ”だった。
彼は賃金が上がらない経済状況や、移民に職を奪われていく状況に苛立つ人々の声を聞きつつ、2014年になっても真の民主主義は根付いていない、純血主義者や独善的な愛国主義者がまだ多く存在していることを知る。
(もちろんナチスの時代を”繰り返してならない過去の過ち”と考える人も多く、ヒトラーの格好した彼ー本物だがーに冷たい視線を浴びせる人たちも少なくないのだが、彼は「後で必ず逮捕してやる」「非国民をたたき出せ」と嘯くのである)。
ヒトラーの存在は、TwitterやYouTubeなどのソーシャルメディアで徐々に知られ始め、やがて彼はテレビの生放送番組の出演を果たす。そこでヒトラーは、お得意の超絶演説をぶちかますのだ・・・・。

今だからこそ、能天気に政治はわからないと首を振る前に観るべき作品。
ヒトラーは、ナチズムは過去の亡霊ではないと思い起こさせてくれる一作

本作はドイツ映画だ。
ヒトラーを生んだドイツで、よくもまあ、こんな映画を作れたものだと感心せざるを得ない。ヒトラーをモチーフにした映画は数多あるが、現代に彼が蘇り、狂信的かつ独善的な信条を持ち続けたまま テレビやインターネットなどの新しいメディアテクノロジーを理解し、それを利用することを考えたとしたら?という恐ろしい想像を、実際に見事な脚本と演出で創造したのが本作だ。

この映画の設定は2014年だが、2017年の現在、英国のブレジグットや、米国の”異端”大統領の登場など、創作(フィクション)よりも現実(リアル)の方が危うい状況にある。ナチズムは過去の話ではないのだ。

その意味でも、ぜひこの映画を日本人は全員観るべきだ。クソ真面目に1945年の主張を現代に持ち込むヒトラーの姿に笑わされながら、同時にふと現実を思い出せば背筋が凍るような恐怖を思い起こすはずである、

画像: 『帰ってきたヒトラー』予告編(ロングバージョン) www.youtube.com

『帰ってきたヒトラー』予告編(ロングバージョン)

www.youtube.com
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