20世紀最大の「モードの帝王」、イヴ・サンローランの生涯を描く。狂気と裏腹の繊細なまでの美意識を貫くサンローランの真の姿とはー?
美と優美の求道者であり、女性のライフスタイルを刷新した変革者
女性のパンツルックを初めて解放し、マスキュリン(男性的)なファッションを女性に与えたことでも知られる、稀有な天才デザイナー イブ・サンローラン。本作では、美と優美さを追求する彼の才能と、それを支える壊れんばかりの繊細さがしつこいばかりに描写される。
彼は美しいものが好きだから、身の回りに美女を置く。しかし性愛の相手は常に”美しい”男性である。
ファッションショーでは、肌の露出や乳首が透けるような服でもエレガンスがあればモードとして扱われる。本作ではかなり執拗な感じでイブと男性たちとの享楽的な生活が描かれるが、スタイリッシュな映像が、それをモードとして昇華させている。
天才の観る世界を150分だけ疑似体験する映画。
スティーブ・ジョブズやマーク・ザッカーバーグなど、革命的なプロダクトやサービスを生み出した偉人を描く映画には、どうしてもドラッグへの耽溺感や、自傷的な破壊衝動がアクセントして挿入されがちなのだが、本作ではほぼそんな描写に終始する。
ストーリーはあっても無きに等しく、論理的に映画を楽しもうとすると、すぐに破綻し、退屈してしまうだろう。しかし、退廃的かつ享楽的な映像に”耽溺”すれば、芸術家たちのクリエイティブな妄想を、同じような視点で味わうことができるだろう。
本作はそういう作品であり、強い酒でも煽りながら、だらだらと美しい男女の理由なき苦悩や享楽にただ浸ればいい。そういう疑似体験映画なのであると割り切って観るべきだ。どうせ凡人には理解し得ない天才たちの話なのだから。
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