狂気に憑かれた男の暴走車によって渋谷のスクランブル交差点で命を絶たれた女性。その夫であった若き中学教師 鈴木は、復讐のために麻薬組織に身を沈める。その彼の前に現れるのは人の命を奪うことになんの躊躇もない、闇の住人たち。
華やかな都会の夜の裏側には、漆黒に染まった悪意と暴力が渦巻く、恐ろしい社会が存在していた。
華やかな都会の夜の裏側には、漆黒に染まった悪意と暴力が渦巻く、恐ろしい社会が存在していた。
ベストセラー作家 伊坂幸太郎さんの人気小説『グラスホッパー』の映画化。主人公鈴木は、心やさしき普通の男だが、愛する人を無慈悲に奪った何者かへの復讐心に突き動かされる。しかし、結局その普通さを失うことはない。
対して、彼がわずかな間に出会うのは、麻薬を扱う金の亡者たちや、冷酷な殺し屋たちだ。
ナイフの使い手”蝉”や、蝉の仕事の斡旋人の岩西、人間を自殺に追い込む不思議な力の持ち主”鯨”、毒針を使いこなす女殺し屋”スズメバチ”、そして相手を交通事故に見せかけて殺す達人”押し屋”など、伊坂作品の読者にはおなじみのキャラクターが総登場する。
『グラスホッパー』とはトノサマバッタのことだ。鈴木同様本来は草食であり、おとなしい昆虫だが、密集した場所で育つと緑から黒い体へと変化し、性格も凶暴化するという。蝉や鯨たち、というより鈴木以外のほとんどの登場人物は、まさに凶暴なバッタであり、都会の闇の中で真っ黒に染まった変異種たちである。
『グラスホッパー』は、出会うはずのない黒くて凶暴なバッタたちに翻弄される普通の男の、不可解な時間を描いたハードボイルド。そのアクションと、乾いた殺意と悪意の奔流に、黒いバッタと出会う偶然に遭わないと願わずにいられない、そんな映画である。
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