さらに満足できる新世代ディーゼルを搭載
今年の5月、BMWは魅力的なモデルのラインナップ追加と刷新を発表した。最新シリーズのクリーンディーゼルエンジンを搭載した118d、そして320dである。どちらも注目される存在だが、とりわけ1シリーズ初登場となるディーゼルモデルへの興味が大きい。果たして、両モデルの印象はその期待を裏切らないものであった。(文:河村康彦/写真:永元秀和)
メルセデスベンツと共に、プレミアムブランドの世界をけん引し続けるBMW。このメーカーの発祥の歴史が「やっぱり“エンジン屋”にあるんだな……」と感じさせられる要因のひとつには、このブランドから放たれる様々なエンジンがリファインされるその頻度の高さがある、と言って良いだろう。
そもそも、大幅な手を加えても、その成果を外観から知ることは不可能である。その一方で、デザイン変更などに比べれば、はるかに大きな投資を必要とすることが多いのがパワーユニットの部分だ。そんな“黒子”でもあるパートのリファインは、費用対効果を重視する多くのメーカーにとってみれば、「できれば手を付けたくない部分」というのが本音かも知れない。
だが、BMWの場合はむしろ正反対である。見た目では何も変わらないのに、実はその心臓部は“フルモデルチェンジ”にも匹敵するリファインが加えられた……という事例は、過去の例を振り返ってみても枚挙に暇がない。
わずかでも効率向上が見込め、さらに動力性能の改善も見込めるとなれば、そのための手法をまったく何のためらいもなく、即座に取り入れる。そうした姿勢の積極さにあっては、やはり他のブランドに対して抜きん出ていると、昨今になっても教えられることがたびたびなのだ。
そしていまBMWジャパンが、ここに来て再度のディーゼルモデル攻勢を掛けている。モジュール計画に基づいた構造に変更された新世代ディーゼルエンジンを搭載するモデルとして、320dセダン/同ツーリング、1シリーズで初のディーゼルエンジン搭載車となる118dが新たに導入されたのだ。
数あるBMWラインナップ車の中にあっても“末っ子”にあたるポジションである1シリーズ。そこにディーゼルモデルが投入されたのは「日本でもディーゼルバージョンを重要な柱の一本と位置付ける」という、改めての明確な決意表明と受け取っても良いだろう。
日本で販売されるBMW車の中にあって、唯一300万円を切るスターティングプライスが与えられた1シリーズは、このブランド切っての価格戦略車。そうした中での“1シリーズのディーゼル”ならではの難しさは、まずはその価格の設定にあったと考えられる。
ベーシックな“118iスポーツ”、“118iラグジュアリー”、そして“118i Mスポーツ”に対して、同じグレード比で21万円高というディーゼルエンジン搭載モデルの設定は、多くの人に対して具体的な選択肢への仲間入りを考えさせてくれる、なかなか魅力的で戦略的な設定と言うのが第一印象。ちなみに今回テストドライブを行ったのは118dの“スポーツ”で、その車両価格は365万円。ただしテスト車にはアダプティブLEDヘッドライトなど様々なオプションアイテムが装着され、総額は450万円に届こうという豪勢な仕様。多彩に用意されたオプションを上乗せしていくと、たちまち価格が跳ね上がる……というのも、やはりプレミアムブランドの品ならではと言えるかも知れない。
テールゲートに与えられたエンブレム末尾の“d”の文字がそれを示すことに気付かなければ、外観上はディーゼルエンジンの持ち主であることを一切明らかにしない。その一方で、エンジンが目覚めれば、さすがに多くの人は素性に気が付くはずだ。ボリュームはさほどではなく、決して「うるさい」という印象ではないものだが、それでもガソリンエンジンとの音色の差は明確だ。
車両重量は1.5トン弱とさほど軽くはなく、1.5リッター3気筒ガソリンターボエンジンを積む118iに対しては50kgほどの上乗せとなる。ATセレクターでDレンジを選択し、アクセルペダルを軽く踏み加えた瞬間から、まさに「もりもりと溢れるトルク」が実感できるのは、やはり最新ディーゼルエンジン搭載車ならではという印象だ。150psという最高出力は、118iの14ps増しに留まるが、320Nmの最大トルク値は、実に100Nmもの上乗せ。それが、わずかに1500rpmから発せられるのだから、「トルクが溢れる」感じも、当然ではある。
ちなみに多くのBMW車で実感できる動力性能の好印象は、実は組み合わされる8速ATの出来の良さにも助けられてのこと。スムーズでありながら無用の滑り感は抑えられた“ステップATとDCTの良いとこ取り”のような制御は、ディーゼルエンジンとの組み合わせでもまったく同様の印象だ。街乗りシーンを中心とした軽負荷領域では、この8速ATは可能な限り高いギアを選択する。結果としてエンジン回転数は常に低いので、エンジンからの透過音もごく小さく抑えられる。もちろん、アイドリングストップメカニズムも作動するので、基本的に「停車中は無音」となる。
かくもエンジンノイズは気にならない一方で、相対的に目立ったのはロードノイズだった。加えて、ランフラット構造を持つタイヤは、路面凹凸に対する噦当たり〞.の感触もやはり硬め。ボディの剛性感が高いため振動の減衰が素早く、それゆえ不快感は最小限ではあるが、それでも「ちょっと別のタイヤを試してみたいな……」という想いが浮かんでしまったことは事実だった。
一方で、やはり最新のタイヤゆえか、転がり抵抗の小ささは実感させられることになった。118dスポーツにはシフトパドルの用意がないため、ATセレクターを用いてダウンシフトしてもエンジンブレーキが期待したほど効いてくれない感覚は、「走行中、無用なブレーキランプの点灯はできるだけさせたくない」と考える人にとっては、ちょっと煩わしい部分かもしれない。
いかにもBMWの作品らしく、敏捷で軽快なハンドリングの感覚を存分に味わわせてくれたのには、取材車が6万5000円という価格で用意されるオプションアイテム、“バリアブルスポーツステアリング”を採用していたこととも関係が深そうだ。
名称のごとく、大きくハンドルを切り込むにつれてギア比が早くなって行くこのアイテムは、とくに街乗りシーンなどで走りの軽快感を大きく高めてくれる。それは一度知ってしまうとなかなかの快感で、個人的には「ぜひ選択したい」と思えた。(この続きはMotor Magazine 2016年9月号で)