色彩に溢れたデジタルフォト全盛の時代にあって 、光と影が生み出すモノクロの世界は、観る者に新鮮な感動を呼び起こす。そんな白黒写真の魅力を味わうための小特集。
最新のモノクロモードを持つカメラやプリンターを紹介しつつ、超初歩のデータ作成&出力をガイド。カラーとはまた違った 、奥深いモノクロの世界を堪能してみませんか?
記事提供:カメラマン(8月号)
デジタル編集:Akiko Koda
アレ、ブレ、ボケ、ハイキー/ローキー、階調狙いのユルユル系etc. SCENE01ひと口に“モノクロ”表現といっても多種多様だ。
ここからは銀塩時代からモノクロームを愛して止まない3人の作家にその魅力を語ってもらった。
陰影礼賛。 光と影が織りなす硬質な永遠の一瞬
写真が発明された時、モノクロしか無かったことは幸いだった。世界を光と影に抽象化するモノクロには、色彩に惑わされずに観る者の想像力や感情を呼び起こす不思議な効果があるのだ。
それが、単なる記録ではない芸術表現としての写真を生み出す大きな要因だったのではないかと思う。もちろん、その力は銀塩であろうとデジタルであろうと本質的には全く変わらないし、モノクロは時代が変わっても決して古びることのない表現手段なのである。
しかし、これまでデジタルの世界ではどちらかというとカラーの色作りばかりが重視され、モノクロに力を入れたカメラというのは極めて少なかった。ここに来ての変化として、カメラ内の調整のみでも、相当に質の高いモノクロ画像を得られる専用のモードを搭載した個性的な機種が次々と誕生している。
カラーのRAWデータからPCでレタッチするという煩わしさを廃し、撮影と同時進行で画像を確認しながら完結できる様になったことは大きい。この流れは「モノクロは格好いいけど敷居が高くてね」という先入観を無くし、より多くの写真ファンがモノクロ作品に取り組むきっかけになるだろう。
それは僕の様な銀塩時代からずっとモノクロ作品に取り組んで来た者にとっても、大変喜ばしい状況である。そして、これからのカメラがPC頼りではない真の表現の道具として、表現の多様性を持ちながら次世代に進化しつつある証のひとつとも思えるのだ。
撮る前に決める。
そして感動できるトーンを狙う
銀塩派の最後の砦はモノクロだろうと考えていた。暗室作業の呪術的な魅力は、代わりの利かないものだと思っていたからだ。
それが実際には、明るい部屋でトーンカーブを自由にいじって微調整できることや、インクジェットプリンターの飛躍的な性能の向上により、ファインプリントの作家たちが、どどっとデジタル化したのには驚かされた。
ぼくはファインプリントに興味がなく、あくまでスナップ写真の流れで、デジタルのモノクロと関わっている。こだわりはふたつあって、撮影時にカラーにするかモノクロにするかで迷わないこと。必ず撮る前には決めておく。でないと構図が緩んでしまうから。もうひとつは美しいトーンに酔わないこと。
デジタルでは銀塩時代には再現しづらかったほど繊細な階調も表現できる。サイズ比でいえば、すでに表現域は超えているかもしれない。だからといって写真そのものの質が上がったと誤解してはいけないと自戒している。愛用の富士フイルムX-Pro2には銀塩のトーンを意識したACROSモードがあり、さらにそれをカスタムできる。
映画やヴィンテージプリントから刺激を受けてトーンを作ることが多く、上手にどこかに破綻を作っ てやることを目指している。感心するトーンではなく、感動できるトーン、というのは言いすぎかもしれないけれど。RAWファイルを併撮しないため、そのときどきで写真を再解釈してRAW現像し直すことができない。そのため写真の内容とトーンが乖離しないよう意識している。
見るよりも美しい世界。
デジタルが可能とした階調と粒状性の妙味
黒白写真の魅力は、色がないこと、写真を作る余地があることの2つだ。
色は情報量が多く、鑑賞者に与える影響がとても大きい。カラー写真はパッと見で内容のおおよそが理解でき、被写体のリアルを感じることができるが、黒白では理解までに分析や想像といった工程を経る必要がある。
黒白のプリントには様々なテクニックがあり、技術を凝らして思い通りのプリントができた時は「写真を作った!」という、良い撮影ができた時とはまた異なった、特別な達成感を得られる。
そして、プリントには正解がない。ファインプリントが必ずしも優れているわけではなくて、時には画像を破綻させるという手段を採ることもある。そうして悩むこともまた、とても楽しいものだ。
あと、レタッチについては肯定派だ。筆者はJPEG+RAWで撮影し、JPEGのモノクロ設定はそれなりにカスタマイズもしているが、ほとんど確認用である。
ちなみに良い撮影ができたと感じた時は、データを1カ月以上寝かせることが多い。撮影時に感じたことと、興奮から醒めて冷静に写真を見た時の感じ方の差を知りたいためだ。
最後にデジタル時代ならではのモノクロ作品制作のメリットを述べておこう。
筆者はレタッチ時にノイズを足すことがある。これはトーンの足りない部分、例えば階調の段差を埋めるためにノイズを足してスムージングをしているということ。シャープ過ぎて奥行きのないデジタルの画に、敢えてノイズというネガティブな要素を加えてやることで、なだらかな階調と立体感を得ることができる。
デジタル時代のモノクロ写真制作は、かように自由でもあるのだ。