8人を死に至らしめた爆破装置は精密かつ確実、計画は緻密かつ大胆。その手口から、独秘密警察ゲシュタポはクーデターや英国諜報部の関与を疑ったが、逮捕されたのは、田舎に暮らす平凡な家具職人、ゲオルク・エルザーと名乗る36歳の男だった。あまりにも信じがたい現実――。大物の黒幕の存在を確信したヒトラーは、決行日までに彼が歩んできた人生のすべてを徹底的に調べるように命じた。-公式サイトより-
ゲオルク・エルザーは実在の人物であり、実際にヒトラーを暗殺しようと試みて、失敗した。ヒトラーはその年に限って、いつもより早く演説を切り上げていたことで難を逃れたのである。
エルザーは、爆弾を仕掛けた夜にスイスに亡命を図ったものの、見つかって逮捕された。彼は爆弾の設計図を持っていたことで暗殺犯として拘束され、イギリスを始めとする敵国の諜報部の関与を疑うナチスによってさまざまな拷問や尋問を受けたが、結局単独犯であるという自白を翻すことはなかったという。政治犯ではなく、ナチスによって自由や人としての尊厳を奪われつつある祖国を救いたいという、シンプルな想いから、暗殺思いついた、という主張を曲げることはなかった。
彼がヒトラー暗殺を試みた理由は明確にはわかっていないが、本作の中では、本当ならば誰もが気づき、止めなければと感じていたであろうナチスの暴走を、彼だけは我が事のように受け止め、命を賭して制止しようとしていた、というように描いている。誰もが目を背け見て見ないふりをしていたことを、エルザーだけが目を見開き見ていたと。そして、見てしまったからには、誰も止めないのであれば、自分が止めなければならない、と決意したのだと、描いているのである。
ただ、哀しいことにエルザーは終戦後には、冷戦のあおりで、狂信的な共産主義者であったかのように語られたり、一方では存在そのものを無視されてきた。2014年にメルケル首相によって正式に名誉が回復されるまで、彼を知る者はそれほど多くなかったのだ。
彼は1945年4月9日、ヒトラー自殺のわずか3週間前に処刑された。ヒトラーの死を見届けることができなかったことを、彼は最後まで悔やんだだろうか。