何度も映画化された『白鯨』だが、本作は『白鯨』そのものではなく、作者のメイヴィルが着想を得た、実際に起きた”白鯨”と捕鯨船の衝撃的な闘いをベースに、『白鯨』成立の真実を描いた作品である。
『白鯨』成立の知られざる実話
19世紀。アメリカは主要エネルギー源として鯨油を利用していた。当時は東部のナンタケット島を大捕鯨基地として、多くの捕鯨船を擁していた。その中の一隻が『白鯨』に登場するエイハブ船長の船のモデルになったエセックス号だった。
実在した捕鯨船エセックス号は嵐で多くの損害を受けたが、主人公の一等航海士オーウェンを中心に捕鯨を続けた。船倉をいっぱいにするには1000-2000樽が必要だが、一頭の鯨からは数十樽分しか採れない。単純計算で20-40頭の鯨を仕留めなければならないことになる。
鯨を求めて、捕鯨船は何年もの間、大洋をさまようわけだが、やがてエセックス号は30メートルを超える、白くて巨大なマッコウクジラと遭遇する。その白鯨はまるで彼らの仲間を無残に殺戮し続ける人間たちへの激しい憎悪と敵意をたたえているかのように、エセックス号の襲撃し始めるのである・・・。
自然が遣わした悪魔との闘いを描くアクション映画の傑作
本作は凄まじい海洋アクション映画である。
捕鯨のやり方は原始的で、鯨を見つけたら小さなボートで接近して、人間の手ずから銛を投げ、鯨の体に打ちこむのだ。
捕鯨の是非はともかくとして、これらの捕鯨シーンは実に迫力があり見所満載だ。
しかし、そうした勇猛果敢な場面は長くは続かず、鯨たちの守護神であり自然界が遣わした悪魔である白鯨による、破壊が猛威を振るう。なすすべなく翻弄されていく乗組員は、狩りの対象に過ぎなかったはずの相手に図らずも反撃されて、いや、攻撃されたことに呆然としながら蹴散らされていく・・。
本作を観るならできるだけ大きな画面で見た方がいいだろう。それだけの迫力があり、巨大な白い悪魔の威容を感じるためにも、そうするべきだ。