1980年代のイギリス・サッチャー政権下、政府の廃坑命令を回避するため、ストライキを敢行する英国全土の炭鉱労働者たち。彼らを救うために募金活動をしようと立ち上がったのは、ロンドンに住むゲイの青年マークたちだった。
マークたちは、LGSM(ストライキ中の炭坑労働者をサポートするゲイとレズビアンのグループ=Lesbians and Gays Support the Miners)を立ち上げ、募金活動を開始するが、彼らの援助を受け入れる炭坑労働者はほとんどない。1980年代、ゲイへの偏見は根深いものがあったからだ。それでもくじけず連絡するうちに、ディライスというウェールズの小さな炭坑の町が、マークたちLGSMを受け入れた。
本作は、そこから始まる、ゲイとレズビアンの若者たちと、炭坑の人々の心温まる交流を描く、実話に基づく感動作だ。

恋をする相手が同性である。ゲイやレズビアンの人たちと、ストレートな性向の持ち主との違いはそこしかない。しかし、今と違って30年以上前の社会では、彼らに対する偏見や差別意識を持つ人は少なくなかった。まして炭坑の町に暮らすような人たちであれば、なおさらだったはずだ。

しかし、主人公マークたちは、自分たちを虐げたり侮蔑する社会と闘う自分たちだからこそ、政府の横暴(当時のサッチャー政権の方針に対する正否を判断する材料を、僕は持ち合わせていないので、本当に横暴であったかどうかはここでは問わないでいただきたい )や、警官からの抑圧と闘う炭坑労働者を支援する意味や意義がある、と考える。敵の敵は味方、という戦略的な判断だったが、それでも彼らは真摯に募金活動に努め、ディライスの町の人の中にも潜む侮蔑的な視線に耐え、炭坑存続のためのストライキ資金の供与を続けた。それは活動家としての判断だけでなく、同じく政府の"弾圧"に抗する者へのシンパシーがあったはずである。

マークの優れた戦略と、仲間たちの献身的な活動は、やがてディライスの町の人たちの心を動かし、LGSMと炭坑の人たちは強い信頼と友情で結ばれながら活動を続けていく。もちろん現実は全てがバラ色に変わっていくわけでもなく、根深く残る偏見や差別による妨害が、彼らの心身を傷つけ、追い詰めていくし、当時社会問題となりつつあったAIDSの恐怖がLGSMのメンバーをも蝕んでいくのだ。

そんな個人の力では如何ともしがたい分厚い社会の壁に対して、勇気とユーモアをもって立ち向かったLGSMとディライスの炭坑労働者(とその家族)たちの闘いと心模様を、本作は哀しくも温かく描いている。

最後に待っているのは、我々が生きているこの世界も捨てたものではない、という小さな希望と明るい笑顔だ。ぜひ親しい友人や恋人、家族と見て欲しい良い作品である。

画像: 『パレードへようこそ』予告編 www.youtube.com

『パレードへようこそ』予告編

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