M2クーペから探る究極のドライビングプレジャー
発表当初から「ベスト オブM」の評価がささやかれていた魅惑のM2クーペがついに日本へ上陸した。Mの真髄を超越するパフォーマンスを秘めているのか。さっそくその実力をレポートすることにしよう。(Motor Magazine 6月号 “見た。乗った。感じた。”心ひかれる「新着スポーツカー」の凄さ 第2章 BMW M2クーペ/M4クーペ 比較試乗記より)
これまでのMパフォーマスと異なるM2クーペの存在感
「サーキット走行を目的としたクルマで一般道を走る」そういうコンセプトでBMW M社がプロデュースしたMモデルは、すでにBMWのサブブランドとして定着している。
これまでのM6シリーズ、M5、M4クーペ、M3、X5M、X6Mというラインナップに加え、MパフォーマンスオートモービルとしてM135i、M235iなども用意する。Mパフォーマンスオートモービルというのは、通常のBMWモデルとMモデルとの中間に位置づけられたスポーツモデルのことをいう。
そこに新たに加わったのが、今回紹介する2シリーズクーペにチューニングを施したM2クーペである。2月に国際プレス試乗会が終わったばかりのM2クーペが、早くも日本デビューを果たした。
走りのポテンシャルを高め、究極のドライビングプレジャーを追求したM2クーペをまずはワインディングに駆り出した。今回のドライブの相棒として選んだのは、M2クーペの兄貴分になるM4クーペである。さっそくこの2台のMモデルの魅力を探りながら、インプレッションをお届けしよう。
M2クーペはエクステリアのデザインからして、いままでのMパフォーマンスモデルとは別格であることがわかる。それは、フロント245/35ZR19(93Y)XL、リア265/35ZR19(98Y)XLというファットなタイヤを包み込むために大きく張り出したフェンダーだ。これにより、全幅は1855mmにまで広げられている。
Mモデルの証となるダブル縦バーのキドニーグリル
通常のBMWは上から見ると樽型になっていてホイールベースの中央付近が一番膨らんでいる。しかし、M2クーペはリアフェンダーのホイールアーチ部分が一番広くなっている。これは見るからに迫力があるし、サーキットを走るために作られたことを主張している。
エクステリアのデザインもとても迫力のあるもので、とくにフロントバンパーのエアインテークデザインは凄みを感じる。また、タイヤの横側には空気の流れを整流するためのスリットも設けられている。ダブルになったキドニーグリルの縦バーはMモデルのアイデンティティだ。
ブレーキも強化され、前後とも対向ピストン式のブレーキキャリパーが装着されている。ドリルドベンチレーテッドディスクプレートはフローティングタイプで、ハードなブレーキングを繰り返してもジャダーを防いでくれる。
見えないところだが、走行性能を高める効力があるシャシ部分の補強を怠らないところがMモデルらしい。厚いアルミ板をエンジンの下に装着することでフロント部分のねじれを抑制している。また、フロア中央から後部にかけてのセンタートンネル開口部を跨ぐように補強材を設けている。
そこから左右のサスペンションの取り付け部までハの字型の補強材がさらに装着されている。サスペンションの取り付け部を上下から挟み込むように補強することで、サスペンションアームのボディ側取り付け部を強固にしている。これはM4クーペやM3セダンの手法と同じである。
今回試乗したM2クーペはイメージカラーのロングビーチブルーと呼ばれるボディカラーで、シャシ性能の凄さを感じさせないほど爽やかなカラーリングだ。強い筋肉を持っていても、それを隠しているアスリートのようだ。
走る楽しみを満たしてくれる“M”という誇り高き思想
インテリアは見慣れたMモデルの風景である。サイドシルに設けられたMのスカッフプレートを跨いでシートに座ると、青色のステッチがドアの内張り、シート、ダッシュボード、センターコンソール、ハンドブレーキカバーに施されている。
ステアリングリムの内側には薄い青色、濃い青色、赤色のMカラーで縫い込まれ、スポーティなインテリアに彩りが加わりラグジュアリーなイメージを演出している。
決定的にMモデルを意識させられるのはセレクトレバーだ。7速M DCTドライブロジック用のセレクターは、一般的なATシフトレバーのような「PRND」という配列のゲートではない。エンジンを始動してからセレクトレバーを右側に押すとD1という表示になり前進する。その位置でセレクトレバーを前・後に動かすとマニュアルでのシフトチェンジが可能だが、タコメーターがレッドゾーンに入っても自動的にはシフトアップしない。
マニュアルモードからDモードに戻すには、再度セレクトレバーを右側に押せばよい。Dモード、またはマニュアルモードのときにセレクトレバーを左に押すとN(ニュートラル)、さらに左上に操作するとR(リバース)に入る。ギアを入れたままエンジンを停止するとP(パーキング)になる。BMWとは少し異なる。
ブレーキペダルの大きさにこだわっているのもMモデルらしい。M DCT搭載車のブレーキペダルはまるでマニュアルトランスミッション車のような小さなブレーキペダルを装着している。これはドライバーがマニュアルトランスミッション車をドライブしているような錯覚に陥ったときに、間違って左足でブレーキペダルを踏むことを恐れ、あえて小さいサイズのブレーキペダルを採用している。
その反面、Mモデルらしくないところもある。それはステアリングホイールに「M1ボタン」と「M2ボタン」がないことだ。これはサスペンションの硬さ、エンジンのレスポンス、DSCのセッティングなどをプリセットできる装備だが、M2クーペには装備されない。
オンザレールの旋回性能と軽快なステアリングフィールエンジンの始動と同時に高音のエキゾーストノートが響き渡り、スポーティさがいっそう高まる。それは重厚な低音ではなくハイトーンによって、軽快にエンジンが回る感じを演出している。ドライブモードを「スポーツ」にして加速しているときの勇ましいエキゾーストノートはもちろんのこと、アクセルペダルを戻したときの、アフターファイアのようなサウンドも迫力がある。
“M”が掲げる究極のドライビングプレジャーはM2クーペにも着実に受け継がれている
「コンフォートモード」と「スポーツモード」のどちらを選択してもM2クーペの軽快な走りは変わらない。スポーツモードではパワートレーン系とシャシ系のセッティングが変更できる。シャシ系ではステアリングフィールが重くなるが、ダンパーの減衰力は変わらない。
M4クーペと比べると、M2クーペの身のこなしがかなり軽快に感じる。これはM2クーペのコンパクトで軽量なボディによるものだろう。
サスペンションは当然のように硬めであるが、乗り心地として悪い印象がないのが不思議だ。それはアンダーボディを強化しているために、振動が残らないからだと考える。
コーナリングはかなり頑張ってもオンザレールで走れる。ウエット路面のワインディングロードのタイトターンでは、低いギアを選んで走るとアクセルペダルの踏み方によってリアが少しずつスライドして車体の向きを変える動きを手伝う。ちょうどLSDが効いているような動きで、後輪駆動のスポーツカーをドライブしている感覚は満点だ。
実際にはロールしているのだが、コーナリング中は車体のロールをほとんど感じない。コーナーの立ち上がりでもロールの戻しがないので、これも軽快に感じる要因だろう。
クルマとの一体感が常にあり、これこそが“M”
ステアリングフィールはとくにシャープな感じはしないが、峠道では正確なラインをトレースできる。かなり機敏なドライビングができるシャープさを持っている。微小舵の遊びは小さく、ニュートラル感の手応えも締まっている。速い操舵をすると瞬時に車体は向きを変えるので、ドライバーとクルマは常に人馬一体のドライビングが堪能できる。これぞMモデルである。
このようなセッティングはクルマ自身の曲がる能力が高いからできるのだろう。BMWが前後50対50という重量バランスを重視したクルマづくりをしていることがベースとなり、Mモデルのようにシャシの補強をすると重量バランスの良さがさらに強調されるようだ。
鋭いレスポンスのエンジンがM2の楽しさを倍増させる
M2クーペの3リッター直6DOHCターボエンジンはターボチャージャーを1基搭載し、370ps/6500rpm、465Nm/1400-5560rpmを発揮する。エンジン型式のN55B30Aという呼び名はM235iと同じだが、パワーもトルクも向上している。
通常Mモデルになるとエンジン型式の最初はSから始まる。残念ながらM2クーペのエンジンはそこまで力を入れていないようだ。
それはボンネットを開けてM4クーペのエンジンと見比べるとその差がわかる。M4クーペのS55B30Aは同じ3リッター直6DOHCターボエンジンではあるが、ターボチャージャーを2基搭載し、431ps/7300rpm、550Nm/1850-5500rpmを発揮する。
同じ3リッター直列6気筒エンジンでも特性が違う
シリンダーヘッドの上には吸入空気のための水冷インタークーラーが備わる。シリンダーブロックもクローズドヘッドタイプなので、シリンダー部分の剛性は格段に高くなっている。
M4クーペの水冷インタークーラーとM2クーペの空冷インタークーラーの差は、アクセルレスポンスに表れると思われるが、M2クーペでかなりスポーティな走りをしてもレスポンスの遅れはそれほど感じない。
それは1400rpmという低回転から最大トルクを発揮できる能力があるからだろう。いわゆる「トルクの付きが良いエンジン」と言える。シフトアップしながら加速を続けてもトルクの伸びがあるので、とても気持ちがいいし、7000rpmのレッドゾーンまで余裕で回る。
ちなみにM4クーペは7000rpmからイエローゾーン、7500rpmからレッドゾーンである。同じ3リッター直列6気筒エンジンだが、特性の違いがここでもわかる。
M2クーペにしばらく乗ってからM4クーペに乗ると、さすがは兄貴分の貫禄で重厚感や身のこなしの落ち着きなどは、M2クーペとは明らかに違うことがわかる。しかし、日本の道路環境を考えるとM2クーペに魅力を感じる人は多いだろう。とくにタイトターンの多いショートサーキットでは、M4クーペと互角に戦える戦闘力は大きな魅力になるだろう。(文:こもだきよし/写真:小平 寛)