過去の記憶や歴史を封印され、色彩も音楽も芸術も禁止された超強力な管理社会。そこには冒険はなく一生の職業も「与えられ」、恋愛の自由もなかった。人々は投薬を義務付けられ、感情を抑制されている。
主人公ジョナスは、封印された人類の過去の記憶を受け継ぐレシーバーという職に任命される。

超統制管理社会を描いた近未来SF

シャイリーン・ウッドリー主演の『ダイバージェント』によく似た映画、である。

管理された社会に適合できない、というより、間違った方向へと過激に動いた社会を正す者の誕生。それはマトリックスのネオであり、ハンガーゲームのカットニスでもある。

近未来を描いた映画は多い。その中で「ギヴァー 記憶を注ぐ者」はディストピア寓話と呼ばれるジャンルに入る。ディストピアとは、ユートピアの反対を指す。ディストピア小説の代表的小説には、ジョージ・オーウェルの「1984年」、レイ・ブラッドベリの「華氏451度」などがある。原作の「ギヴァー 記憶を注ぐ者」は児童文学者ロイス・ローリーが書いた人気小説で、1994年にニューベリー賞を受賞した。世界中で1000万部も売れてベストセラーとなっている。ロイス・ローリーは1937年生まれ。ハワイ出身のアメリカ女性で、少女時代を東京で過ごしたこともあった。
映画『ギヴァー 記憶を注ぐ者』では、ジョナス(ブレントン・スウェイツ)が中心的な役割を果たしている。この少年は、理想的に見えるコミュニティーと呼ばれる社会に住んでいる。犯罪も戦争も貧困もない。住民は指定された場所に住み、感情を露わにすることもない。指定された職業に就き、欲を抱くこともない。調和がとれて安心できる社会だった。

だが、規制は厳しく、自由がない。ジョナスは職業任命の儀式でコミュニティーの主席長老(メリル・ストリープ)にレシーヴァー(記憶を受け継ぐ者)という大役に指名される。彼は、ギヴァー(記憶を伝える者=ジェフ・ブリッジス)という、すべてのコミュニティーの記憶を保持する唯一の人物と過ごし始める。すると、コミュニティーに隠された過去の、暗く最悪な真実をすぐに見つける。知識によって新しい力を得たジョナスは、この管理社会の中で自分がなさなければならないことを自覚する。極限の状況で、ジョナスは、愛する者たちを守るためにこの世界から逃亡することを決意する。その試みは、これまで誰も成功したことがなかった。

キリスト教的モチーフ。そして児童文学の映画化だからこそ大人が見るべき

主人公ジョナスは、レシーヴァーに記憶を与える者=ギヴァーによって、良くも悪くもダイナミックで生き生きと暮らしていた頃の人類の記憶を受け継いでいく。ジョナスは毎日手首を差し出すことで行われる感情抑制の投薬を、赤いリンゴに自らの血をなすりつけ、手首の代わりに用いることで回避し、知識とともに感情を取り戻す。

リンゴは知識の象徴であり、作られたエデンの園のような管理社会の偽善を見抜くためのきっかけでもある。キリスト教では、知恵の実をかじることで知恵を得たアダムとイブが神によって楽園を追い出されてしまい、そのこと自体を原罪として背負うことになるが、本作ではジョナスは過去に人間が犯した罪を知りつつも、感情を抑制して管理する社会ではなく、感情を愛や慈悲の気持ちへと昇華させることで満ち足りた社会を目指すという選択を、再度人間に取り戻すのだ。

本作は児童文学を原作としているのだというが、愛や友情などの存在を知り、そのうえで絶望を感じてしまいがちな大人にこそ、ふさわしいストーリー、といえるだろう。

画像: 映画『ギヴァー 記憶を注ぐ者』予告編 youtu.be

映画『ギヴァー 記憶を注ぐ者』予告編

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