60年代の米国で大人気を博し、かのアンディ・ウォーホルでさえ高く評価したイラスト「ビッグ・アイズ」シリーズ。
「ビッグ・アイズ」の作者であるウォルター・キーンは、ポップアートの寵児として社交界に名を轟かせ、巨万の富を築くが、彼には大きな秘密があった。それは、実は彼の作品はすべて彼の妻であるマーガレットが制作したものだということだった・・・。

多くの人を魅了した”大きな瞳の少年少女たち”を生み出した、女性クリエイターの憂鬱

10年の長きにわたり世間を欺き、富と名声を得てきた男ウォルター・キーン。しかし、我が子のように愛しく思う自身の作品「ビッグ・アイズ」を、自分が描いたということができずに、ひたすら制作を続けてきた妻 マーガレットにもついに我慢の限界が来た。

真の作者が自分であることを公表したいと願う彼女は、それを阻もうとする夫ウォルターと対立し、やがて法廷で争うようになってしまうのである。

画像: 夫婦の骨肉の争いはなぜ起きたのか。大きな瞳の涙がその切なさを物語る。 bigeyes.gaga.ne.jp

夫婦の骨肉の争いはなぜ起きたのか。大きな瞳の涙がその切なさを物語る。

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画像: 作品の真のクリエイターであるマーガレットを丸め込もうとする夫ウォルター bigeyes.gaga.ne.jp

作品の真のクリエイターであるマーガレットを丸め込もうとする夫ウォルター

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画像: 裕福にはなったが、制作に追われる生活のマーガレット。なのに誰にも自分の作品であるということができない辛さは、クリエイターの魂を蝕むほどであることは想像に難くない。 bigeyes.gaga.ne.jp

裕福にはなったが、制作に追われる生活のマーガレット。なのに誰にも自分の作品であるということができない辛さは、クリエイターの魂を蝕むほどであることは想像に難くない。

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軽率で商売人であることが、嘘で固めた 夫婦の人生をスタートさせてしまった

”悪役”ウォルターを演じるのは、『007 スペクター』でもヒールを演じた名優クリストフ・ヴァイツ。僕が大好きな俳優さんである。今回も、実にイヤらしく楽しげにワルい役を演じてくれている。
とはいえ、彼が演じるウォルターは悪人ではない。マーガレットの持つ才能を見抜き、彼女の作品を世に出すきっかけを作ったのは、ほかならぬ彼だ。そこには邪な欲望はなく、画家として身を立てたいと思っていたので、彼女の作品を売り出したいと思っただけだ。

ただ、ウォルターは、アーティストというより商売人だった。彼女になりすまそうと最初から思ったわけでなく、売るための方便として、そのほうがいいと判断した、それだけだったのだが、結果的に引っ込みつかなくなっていき、そして元々画家になりたかった彼の虚栄心がそれを加速してしまうのである。

最初から制作と販売、クリエイティブとマーケティングという役割分担をしていればそれでよかったのだが。

映画『ビッグ・アイズ』海外予告日本語字幕版

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絵を描く才能しかない女と、商売人としての才能しかない男の悲喜劇

ある意味、ウォルターは初期のAppleにおけるスティーブ・ジョブズに近い立ち回りだ。
ウォズニアックが作り、ジョブズが売る。しかしアーティストでありクリエイターになりたいジョブズは、Apple IIを作ったのはウォズニアックだけではなく自分も創作者の一人であるはずだと思い、それを狂信的に信じていくことで、周囲との不協和音を作っていく。

しかしジョブズはウォズニアックの才能を愛し、彼が生み出したものだけでなく、生み出したウォズニアック自身をリスペクトしていた。ジョブズは自分の功績を過大評価する癖があったかもしれないが、ウォズニアックの功績を過小評価することはなかった。

そこがウォルターとジョブズの違いだ。
ウォルターは自分に向けられた名声を、自分の才能に向けられたものと勘違いしていく。自分でついた嘘を自分で盲信していってしまう。ジョブズはプログラミングもデザインワークもできなかったが、本物のクリエイターだった。ウォルターは売ることしかできない商売人だったのだ。

ところで、創造の才と販促の才をほどよく同時に持つことができた同時代の天才に、アンディー・ウォーホルがいる。
ウォーホルは知っての通りポップアートの天才で、自分の作品を大量生産し、マネタイズする術を知っていた。そのウォーホルがビッグ・アイズを絶賛した言葉を紹介して本作は始まる。
ウォーホルが、キーンの秘密を知っていたのかどうかは僕は知らない。しかし、彼がこの事実を知っていたとしたら、むしろその偽善的でキッチュな事実に対して、いっそう面白いと言うだろう。いや、むしろ、それでこそビッグ・アイズの価値、キーンの天才を評価しただろう。

キッチュ、といえば、本作の監督 ティム・バートンもまた、同じような才分を持つアーティストだ。バートン監督の本領発揮、というところだ。

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