2000年代初期の作品だと思うのですが、新谷先生お得意のラリーを題材にした傑作です。ただし、主人公はドライバーではなくナビゲーター。つまり運転はせずに、ドライバーをアシストする役です。
前にご紹介した『ガッデム』はドライバーが主役で、バイプレイヤーとしてナビゲーターのロブが出てましたが、その時代設定の10年後くらいのWRC(ワールド・ラリー・チャンピオンシップ)で活躍する、超一流のナビゲーター 日下龍介の活躍と彼の人生を描いた意欲作が、この『NAVI』なんです。
競技車両を運転しないラリーのプロにスポットライト
ラリーは基本的に二人のパッセンジャーによる自動車競技です。
ラリー (英: Rally) とは、指定されたコースを一定の条件のもとで長時間走る、自動車競技の一種。運転手(ドライバー)と案内人(ナビゲーターもしくはコ・ドライバー)の2名1組が競技車両(ラリーカー)に同乗し、公道上を1台ずつ走行して、区間タイムの速さや運転の正確性を競う。
舗装されたサーキットを走る一般的な競技と違って、未舗装の公道コースを走るラリーでは、まずコースを覚えるのが大変。レース前に実際に何度も走ってレッキと呼ばれるペースノートを作って、道順や路面の状況などを記録してから本番に臨むのですが、ドライバーはそれを見ながら走るわけにはいかないし、いちいち考えながら走っていたら危なくてしょうがないです。
だからナビゲーター(もしくはコ・ドライバー。しかし龍介はこの呼び方が大嫌いですw)がドライバーをアシストし、的確に指示することで、ドライバーには車の操作に専念させるのです。
龍介はAppleのPowerBookベースと思われるノートパソコンを自分で改造し、超強力なナビゲーションシステムを作り上げています。彼はこのスペシャルノートパソコンをセイント(聖人)と名付け、相棒と呼んでいます。龍介は紙のレッキ帳を作らず、このセイントにすべての情報を記録し、分析するのです。
いつまでも古びない”先進性”を持つ新谷作品の素晴らしさ
本作は短編、と言っていいでしょう。
いくつかのエピソードをまとめて、1巻で収まっています。最初から短編としてリリースされたのか、それとも?
それはともあれ、相棒のセイントしか頼りにする者はなく、誰も信じない、ある意味ゴルゴ13みたいなプロフェッショナル・ナビゲーターの龍介ですが、ひょんなことから同居人となった美しい女性との間に静かに信頼と愛を育んでいきます。
人生をラリーに例えるのが好き、というか上手な新谷先生は、自分自身がドライバーなのかナビゲーターなのかはさておき、一人では人生というラリーを完走することはできない。誰か信頼すべきパートナーが必要なのだ、というオチで本作を終わらせています。
前述したように短い作品ですが、ラリーという特殊な環境と、セイントという特殊な相棒への偏愛、そして美しいパートナーとの出会いなど、印象深い作品です。
ちなみに、エピソードの一つに、アクシデントを受けて、よく目が見えなくなった龍介がセイントの自動ナビシステムを起動させて完走するシーンがあります。
新谷先生の作品には、こうした自動運転技術や「ふたり鷹」に登場する二輪駆動のバイクなど、さまざまな未来的技術に関する記述がよくでてきます。
人間関係やレースそのものだけでなく、テクノロジーへの造詣が深く、業界自体の将来にまで目を向けていることは、新谷作品を さらに特別な存在にしている、重要なエッセンスの一つだといえるでしょう。