自動車の世界では非常にメジャーなモノコック応力外皮構造は、そもそも飛行機から発展してきた技術です。クルマや電車などの乗り物ではモノコックの採用例が多いですが、モーターサイクルなどの2輪車では鉄やアルミのチューブを用いたフレームが主で、モノコックの採用例はそれらに比べるとかなり少ないと言えるでしょう。

戦前に登場した前衛的なアスコット・プリン。

そもそも20世紀前後の時代から発展したモーターサイクルの車体は、黎明期には自転車の車体の考え方を取り入れて作られていました。そして生産性や整備性やコスト面など、いろんな点でチューブラー・フレームが都合が良くて、これが主流のまま今に至る、と考えていいでしょう。

画像: クルマのモノコックの一例、1981年型ホンダ・アコードのモノコック。車体の外皮である鋼板が主要な骨格となっています。チューブラーのフレームを脊椎動物の骨格に例えるなら、モノコックはカブトムシなどの甲虫類みたいなカラダ・・・と言えるでしょうかね? www.honda.co.jp

クルマのモノコックの一例、1981年型ホンダ・アコードのモノコック。車体の外皮である鋼板が主要な骨格となっています。チューブラーのフレームを脊椎動物の骨格に例えるなら、モノコックはカブトムシなどの甲虫類みたいなカラダ・・・と言えるでしょうかね?

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しかし歴史の本の中を探してみると、意外と多くのメーカー、コンストラクター、そして個人が、モノコックの概念をモーターサイクルに取り入れることにトライしてきたことがわかります。その全てをあげていくのは枚挙にいとまがないので、ユニークな代表例の幾つかをご紹介したいと思います。

画像: アスコット・プリン500。プレス鋼板を主骨格としたユニークなモーターサイクルです。 www.yesterdays.nl

アスコット・プリン500。プレス鋼板を主骨格としたユニークなモーターサイクルです。

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大恐慌前の1928年に英国で作られたアスコット・プリンは、モノコックの考え方を最初に採用したモーターサイクルのひとつ、と言えるでしょう。500ccの4ストローク水平単気筒を、プレス鋼板の車体に搭載。フロントフォークもプレス鋼板製でした。そのほか油圧式のドラムブレーキを採用するなど、実に前衛的な作りのモデルです。

プレス鋼板のフレーム・・・は後に英国車のアリエル・リーダーや、日本のホンダ・スーパーカブなどの実用車でも実現されましたが、これらに比べるとアスコット・プリンは「応力外皮構造」と呼ぶにふさわしいカタチと言えるでしょう。

Linked Braking On A Ascot-Pullin Motorcycle

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最も成功したモノコック採用例はやはりベスパ!

2輪の世界で、モノコックを採用したモデルで最も商業的に成功したのはイタリアのピアッジオでしょう。1948年に生まれたベスパスクーターは、航空機製造で名を馳せたピアッジオならではのモノコックが与えられておりました。

画像: 1946年のベスパ(98cc)。女性がスカート姿でも気軽に乗れるステップスルーのデザインを持ち、女性に移動の自由=社会進出へのきっかけを与えた乗り物としても、歴史にその名を残しています。 kaneban.txt-nifty.com

1946年のベスパ(98cc)。女性がスカート姿でも気軽に乗れるステップスルーのデザインを持ち、女性に移動の自由=社会進出へのきっかけを与えた乗り物としても、歴史にその名を残しています。

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のちにスクーター・エンジニアリングの主流は、イタリアのイノチェンティ・ランブレッタ風のフレームタイプに移行することになりましたが、レッグシールド、ユニットスイング、ステップスルーなどのベスパが打ち出したスクーターデザインの多くは、多大な影響を今日にも及ぼしています。

ロードレースにおけるモノコックの成功例。

生産性、コスト、整備性よりも、何より「速さ」が優先されるロードレースの世界では、実は結構いろいろなモノコックが誕生しています。ライバルたちに対するアドバンテージを得るために、オルタナティブな車体にトライしよう! という試みでした。

スペインのオッサ創業者、マニュエルの息子であるエドアルド・ヒロが設計した250モノコック。ロータリーディスクバルブ式の2ストローク単気筒エンジンを、燃料タンクを兼ねたアルミ製モノコックに搭載。出力的にはライバルの2気筒、4気筒に負けてましたが、その軽量さを高い戦闘力に結び付けていました。

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1968〜1970年の世界ロードレースGP250ccクラスに参戦したサンチャゴ・ヘレーロは、オッサの250モノコックで4勝をあげるという活躍をしました。1969年はランキング3位獲得。残念なことに、ヘレーロは1970年のマン島TT250ccクラスで事故死してしまい、以降オッサは参戦を停止。この250モノコックはその後の発展の機会を失ってしまいました。

1973年型のジョン・プレーヤー・ノートン750モノコック。開発者でありチームのエースライダーであるピーター・ウイリアムスが、ライバルよりはるかに非力(74bhp)な古典的OHV750ccツインで勝つために作った意欲作です。

www.motorcycleclassics.com

モノコックの材質は初期はスチール鋼板でしたが、ステンレスになりました。キャブレターの位置がパニアタイプと呼ばれる左右振り分けの燃料タンクより高いため、スイングアームの上下動で作動する燃料ポンプを採用しています。

image.motorcyclistonline.com

1973年のマン島TT F750クラスを制覇したジョン・プレーヤー・ノートン750は、モノコックのロードレースにおける成功例のひとつです。100馬力以上の大パワーを誇るカワサキH2RやスズキTR750などのライバルに対抗するため、徹底的に軽量さ、低重心、そしてエアロダイナミクスを追求。その回答として生まれたのが、このモノコックでした。なおこの骨格は、今日的なツインスパー形状のフレームの元祖とも評されています。

かつて世界ロードレースGPで開催されていた80ccクラスで活躍した、クラウザー80。そもそもは一般的なチューブラー・スペースフレームでしたが、ファクトリーモデルでの採用以降、アルミ鋼板をリベット止めしたモノコックを使用。この車体はサイドカーレースの分野で活躍した、スイスのLCRが製作したものです。

www.motorradonline.de

コンパクトな車体を追求して生まれたモノコックのロードレースの成功例は、かつて世界ロードレースGPで開催されていた50cc・80ccクラスにもあります。その代表例がクラウザー80でしょう。スイス人チャンピオン、ステファン・ドルフリンガーの愛機として知られているマシンです。

モノコックに挑戦した日本製ロードレーサー。

日本のメーカーもロードレースの分野では、モノコックに挑戦しております。ただ、いずれも成功したというためのひとつの目安・・・勝ち星をひとつもあげることはできませんでした。

1979年型ホンダNR500(0X)。フェアリングを兼ねる完全なモノコック構造が特徴でした。モノコックのほか、オーバルビストンの32バルブ4ストロークV4エンジン、16インチホイール、サイドラジエターなど、数々の技術的な挑戦が盛り込まれていましたが、実戦では一度も完走することがありませんでした。

world.honda.com

カワサキのKR500は、1980〜1982年の間、世界ロードレースGP500ccクラスに参戦。ロータリーディスクバルブ式2ストロークのスクエア4エンジンを、独特のアルミ・モノコックに搭載。エースのコーク・バリントンが1981年に2度3位に入賞(ダッチTT、フィンランドGP)しましたが、残念ながら勝利には届きませんでした。

www.rapidbikes.com.au
画像: ヤマハが1974〜1975年に試作した、世界ロードレースGP350ccクラス用0W24(水冷2ストローク並列4気筒)も、スパインフレーム的なモノコックフレームを採用。そもそもはフレーム内にモノクロス用のショックユニットを押されるために考案された形でしたが、結局燃料タンクを兼ねる構造に変更。通常のスチール・チューブラー・フレームより軽量で低重心だった。結局0W24は実戦に使用されずに終わった悲劇のGPマシンとなりましたが、このモノコックの改良版での試みが、のちのアルミ合金製デルタボックスフレーム開発に繋がっていったとのことです(イラストは開発者の証言をもとに構成した0W24フレームの想像図)。 www.facebook.com

ヤマハが1974〜1975年に試作した、世界ロードレースGP350ccクラス用0W24(水冷2ストローク並列4気筒)も、スパインフレーム的なモノコックフレームを採用。そもそもはフレーム内にモノクロス用のショックユニットを押されるために考案された形でしたが、結局燃料タンクを兼ねる構造に変更。通常のスチール・チューブラー・フレームより軽量で低重心だった。結局0W24は実戦に使用されずに終わった悲劇のGPマシンとなりましたが、このモノコックの改良版での試みが、のちのアルミ合金製デルタボックスフレーム開発に繋がっていったとのことです(イラストは開発者の証言をもとに構成した0W24フレームの想像図)。

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これからも技術者たちの挑戦は続いていく・・・。

スペインのJJコバスが生み出したアルミ合金製ツインスパーを、世界中のメーカーがこぞって採用するようになった1980年代以降、ロードレーサー及び量産ロードスポーツのフレームでモノコックが試される例はかなり少なくなりました。しかし、新しいモノコック開発の試みが、全くなくなったわけではありません。

カワサキのフラッグシップモデル、ZX-14Rのアルミ・モノコック。2000年モデルとしてデビューしたZX-12Rから採用された骨格ですが、そもそもは1993年のZZR1100のモデルチェンジ時にも、テストされていたそうです。

www.kawasaki-cp.khi.co.jp

2014年のドゥカティ・パニガーレのアルミ・モノコック。ドゥカティはモトGP用デスモセディチGP9でカーボン・モノコックフレームにトライ。その技術をパニガーレにフィードバックさせています。

www.ducati.co.jp

2014年に発表された、英国のブラフ・シューペリアのモト2マシン。フェアリングを兼ねる完全なモノコック構造を採用。材質はカーボン製。

www.motorcycle.com

今後、どのようなモノコック採用例が登場するのか、そしてその乗り味とポテンシャルは・・・興味が尽きることはありませんね。

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