今年60周年となるヤマハ発動機には、バイクメーカーとしての元気を感じるね。鈴鹿8耐でのぶっちぎり優勝も記憶に新しいし、MotoGPでも5年ぶりのチームタイトルをすでに獲得している。東京モーターショーでのヤマハのテーマは「響け」。楽器メーカーでもあるヤマハらしいテーマだし、バイクという乗り物を楽しむには、感性が大切だと考えていることがうかがえるのも好感を持てる。
そのヤマハブースで最も目立っていたのは、この「MWT-9」だ。ホンダブースで発表されていたコンセプトマシン「NEOWING」もフロント2輪のビッグバイクだが、トリシティでこの分野に先進しているヤマハの「MWT-9」に、より実現性を感じるのはいなめない。
エンジンはおそらくMT-09の850ccエンジンが搭載されているのであろう。そのエンジンを取り囲むパイプフレームも2重になっていて、フロントの2輪ステアリングを力強く支えている。トリシティの高いコーナーリング性能は私も体験しているが、スポーツバイク然としたMWT-9は、これからのスポーツバイクの未来を感じさせるものだ。
私の世代だとかつて、F1グランプリでフロント4輪の6輪タイレルにワクワクさせられたものだが、その後クルマもバイクにもそんなイノベーションはあまり実現していない。このフロント2輪のスポーツバイクは、実現可能なイノベーションであろうし、あるいは未来のスポーツバイクの標準になっているかもしれないなと思わされるほどだった。
私が体験した34年前の東京モーターショーは、まさにモータリゼーションの夢の時代であった。クルマはもちろん、バイクも21世紀の未来を感じさせるコンセプトマシンを各社が競うように発表していた。そういう意味で、東京モーターショーらしいバイクの未来を提示していたのは、唯一ヤマハだけだったかもしれない。
この電動バイクの「PED2」と「PES2」は、バイクの電動化をリアルに考えさせられるモデルなのだ。単にエンジンを電気モーターにするだけではなく、MotpGPやスーパースポーツで培われた、トラクションコントロールは電動モーターでより最適化されるだろうし、スマートグラスというゴーグルやスマートウォッチで様々な情報を得ることができるようになるらしい。
しかもロードモデルの「PES2」は、フロントタイヤも駆動する2輪駆動となっているようだ。モーター駆動ならではの発想で、電動バイクの未来は私たちの想像を超えるものとなるのかもしれない。
さらに必見なのはロボットがバイクに乗るという「MOTOBOT Ver.1」だ。これはだいぶ驚きですよ。クルマの世界では自動操縦って技術が実用化に向けて研究されているけど、このMOTOBOTはロボットがフツウにR1を走らせるっていう研究なんだから。将来はこのロボットくんが、バレンティーノ・ロッシをサーキットで抜くことを目標にしているらしい。ヤマハの技術者ならやるかもしれないね。この研究で得られる成果は計り知れないものがあるのではないかな。
そして最後にご紹介するのは、今回のヤマハブースのコンセプトである「響け」に最も合っているのではないかという1台「Resonator 125」。よくあるSR400のカスタムのようにみえるけど、オーセンティックな造形と、丹念に造り込まれたパーツはまさに“音楽”を感じさせるものだ。
バイクも楽器も機能だけを追求したら、表面的な美しさや造形は実はあまり関係ない。しかしピアノやバイオリンやギターといった楽器の価値は、造った人や造形の美しさがその音色とともに大切にされているのは事実だ。「Resonator 125」はそうした楽器がもつ不変の価値が、バイクにもこれからは必要になるのではないかという提案なのだろう。
東京モーターショーにおけるヤマハの提案は、今回の東京モーターショー全体を見渡してみても、バイクの未来をしっかりと見せてくれた唯一のブースといえるかもしれない。