天才レーサー日系英国人の赤馬研(ケン・アカバ)と妹の雪(ユキ)。
世界に数人しかいないボンベイ・ブラッドという血液型の持ち主ながら、命がけのF1レースに挑む兄妹の戦いを描いた、時代を先駆けた最高傑作です。
激闘編と愛憎編で、解説します!
日本製のF1マシンが世界に挑戦〜時代を先駆けしたストーリー
観客を巻き込む事故を起こしたことでレースを引退していた天才レーサーのケン・アカバ。その彼に白羽を立てたのは、日本の自動車メーカー、サンダーボルトです。
サンダーボルトは自社のF1チームSVEを設立。日本製F1レーシングカー SV01を作り上げました。そのSV01の二人目のドライバーとして、ケンを口説き落とすことに成功します。
ケン・アカバは当時世界でも数名しか発見されていない希少な血液型”ボンベイ・ブラッド”の持ち主であり、レースのような危険な職業に就くことは本当にリスキーでした。ちょっとした怪我でも輸血が困難なため、致死的な状況に陥りかねないからです。まして、1970年代のF1レースは今のように保安環境が整っておらず、レーサーが持つカードは52枚中26枚が死神のカードと呼ばれるくらい、危険なものでした。
彼の妹 ユキは、ケンのレーサー復帰に反対しますが、ケンの決意の固さを知り、仕事をやめてケンに同行します。彼女もまたボンベイ・ブラッドの持ち主であり、有事の際の”血液バンク”を買って出るのです。
命がけの挑戦とリアルな設定
本作では、ケンたちSVEチームのメンバー以外の主要登場人物のほとんどが、実在のレーサーたちであり、語られるエピソードも実際に起きた事件を下地にしていることが多いことが、そのリアルさを増しています。
ボンベイ・ブラッドという、擦り傷でさえ致命傷になりかねないレーサーという、非常に特殊な設定でありながら、安全基準が今と比べればとても低く、実際にしょっちゅう大事故で死者や再起不能者を出していた当時のF1のリスキー極まりない世界を忠実に描くことで、ケンの存在もまたリアルになっていくのです。
ケンが重傷を負って、ユキの輸血だけでは足りない状態に陥った時には、F1レーサーたちが協力して輸血用の血液を運ぶシーンが出てきます。絶対ありえないことですが、実在のレーサーたちの騎士道精神のような鮮やかな覚悟と勇気が描かれていることで、荒唐無稽なものにはならない。村上もとか先生の力量ならではの展開です。
多くの歴戦のベテランや天才たちとの激闘経て、世界を制するケンとSVE
この作品は、前述のように、1970年台後半のリアルなF1事情をレポートしてくれる、資料的にもありがたい作品です。
例えばブリヂストンが、実際に本格的にF1に関わるのは1997年ですが、1976年にスポット的にF1用のタイヤを供給したことがあり、それをモチーフに国産F1と国産タイヤという劇的なストーリーをつないでいるのです。
さらに、モナコGPでのニキ・ラウダとの激戦や、同僚の若き天才ぺぺ、さらに大ベテランのマリオ・アンドレッティらとの激闘を経て、ケンとSVEは世界を制し、初参戦でF1グランプリの年間チャンピオンの栄冠を勝ち取るのです。
どのレースシーンを見ても、リアルで緻密で、F1の面白さを遺憾なく発揮してくれます。本当にエキサイティングなんです。
このように、とにかくこの作品のレースシーンは非常にリアルであり、絵も完成されていて、今みても現代の一流コミックとして価値を減じていません。
純粋にレースの世界を描ききった、大傑作だと思います。
愛憎編に続きます。