2015年9月5日(土)清里・八ヶ岳少年自然の家で開催された、YAMAHA MT-01の全国オーナーズミーティング「The MT Firstborn」。日本全国から集まった63台のMT-01は、どれもオーナーごとの個性が光るマシンだった。
「黒いバイク」。この言葉になんだか特別な響きを持っていると感じるのは私だけじゃないだろう。クレージーケンバンドにも「黒いオートバイ」って名曲があったね。溝口 真弘さん(41)のMT-01は、まさしく黒いバイクだ。この日のオーナーズミーティングの中でも異彩を放つほどの存在感を持っていた。
小学生の頃からバイクが好きで、同級生たちが少年ジャンプやファミコンに夢中になっている時期に、月刊オートバイを読みあさっていたという早熟なライダー溝口さん。MT-01に至るバイクライフは、マシンと同様にユニークなものだったようだ。「バイクというよりレースが好きだったんです」。高校生でTZR50を手に入れるとミニバイクコースに通うようになり、1994年に10年ぶりに発売されたTZ125でロードレース選手権にデビューするとすぐに頭角をあらわす。そして1997年には磐田の名門「モトスポーツ アベ」から鈴鹿4時間耐久レースに出場し見事優勝する。
1997年の鈴鹿は、タイヤメーカーの広告のお仕事で初めて鈴鹿8耐に行った年なので私もよく覚えている。この日は台風が直撃して4耐のあった土曜日は大荒れのコンディションだった。その時に表彰台に立った人物が目の前にいると思うと、なかなか感慨深いものがある。
アマチュアレースの頂点に立った経験のある溝口さんは、MT-01の魅力を一言で答えた。「懐が深いところですね。2000rpmというゆったりとした回転数で流すのも心地いいし、その気になれば自分のようなレース経験者を満足させるスポーツ性能もある。R1のようなスーパースポーツは、確かに高性能ですが誰でもそこそこ走らせられる。MT-01はその点ではなかなか手強いんです。車重もあるしクセもあるので乗りこなしがいのあるバイクですね」。
ロードレースでは中野真矢選手や当時中学生だった酒井大作選手と闘っていたという溝口さん。「ロードレースをやっている以上、その先に世界グランプリを目指すのは当然のことでした」バリバリ伝説の巨摩 郡のような青春時代を送った溝口さんは、全日本選手権に上がるとなかなか勝てないようになってゆく。
「ロードレースをやっていたのは7年間です。意外と短いものですね。やめてからしばらくバイクと遠ざかっていました。燃え尽き症候群といってもいいかもしれません。それから十数年経ちまたバイクに乗りたくなったんです。レーサーに近いスーパースポーツははなから考えていませんでした。なのでハーレーを購入したのですが、乗っているうちにやはり運動性能や操作性に不満がでてきました。それで出会ったのがMT-01だったんです。大らかなVツインエンジンとスポーツ性能を両立したマシンに、とても満足しています。一度はレースとバイクから離れてしまいましたが、またバイクライフでボクの人生を受け止めてくれたという意味でも、懐の深いバイクなんです」。
和歌山からやってきた根田 龍二さん(44)のMT-01。こちらもレーシーにカスタムされていた。「これは輸入元だったプレストによりフルチューンされた広報車だったんです。当時、ヤマハEUから発売されていたMT-01専用のアクラポヴィッチ・エキゾーストシステムを中心に、ハイカムとECU(エンジン コントロール ユニット)、強化クラッチというステージ3が組み込まれたマシンです」。
根田さんもリターンライダーだ。17年ぶりに選んだバイクは、ロードゴーイングレーサーというのにふさわしいスズキGS1200SSだったという。「GS1200SSも強烈な印象でしたが、その後に乗ることになったMT-01も負けないくらい強烈なマシンでした。ノーマルのMTには乗ったことがないので比較はできませんが、最高速度で250km/hというのはステージ3のおかげじゃないかと思います」。
偶然なのか根田さんも若い頃にロードレースに熱中していたという。私の友人であるMT-01オーナーのヒロシも元レーサーだ。レースブームだった彼らの時代背景もあると思うが、レース経験者を満足させるというのも、MT-01のキャラクターを物語るひとつの側面なのかもしれない。
名古屋で大きな病院の院長をされている三輪 高也さん(55)のMT-01は、ヨーロピアンな仕上がりだ。完成度の高いフェアリングはヤマハEUの純正品。「このカウルを手に入れるのにはずいぶん苦労しました」。2005年に発表されたMT-01のコンセプトモデルであったMT-0Sの、カウルが装着されたスタイリングに惚れた三輪さん。「このカウルはそもそも数が少ないので、Eベイなどで辛抱強く探し続けてようやく手にしました。時間もかかりましたがお金もかかりました(笑)」もともと高価だったMT-01の純正カウルは、MT-01オーナーにとって垂涎の逸品なのだ。
V-MAXとRZ350も所有しているという三輪さんは、バイクはエンジンありきだと言い切る。「なによりこのバイクは飽きないですね。1700ccのVツインエンジンは他のバイクでは味わえない魅力があります。そしてMTでツーリングに出かけると、まれに出会うMTのオーナーさんと仲良くなり特別な仲間意識がうまれるのも楽しいですね」。この日もそんなツーリング先で出会った方との再会を喜んでいた。
楽器メーカーらしい「鼓動」をテーマに、2005年に誕生したMT-01のコンセプトは“ソウルビートVツインスポーツ” だった。このあまり類をみないビッグスポーツに続いたMTシリーズは、“マスターオブトルク(MT)”としてヤマハのスポーツバイクにおける主流の一翼となっている。その最初のマシンとなったMT-01をこよなく愛するライダーたち。マイナーな存在ではあるが、バイクの面白さや魅力を凝縮したようなマシンに魅せられ所有することとなった彼らは、同じライダーからみてもだいぶ羨ましいものであった。
このYAMAHA MT-01 10th Aniversarry 全国オーナーズミーティング「The MT Firstborn」の模様はこちらをご覧下さい。