キンキーとは、Kinky。奇妙とか変態、といった意味だ。だから英語圏の人がKinki Kids と聞けば”変態兄弟”と聞こえるw
キンキーブーツとは、変態さんのブーツ、という意味になる。この場合はその通りの意味で、ドラッグクイーンが履く膝丈の長いブーツのことを指している。
ニッチマーケットにもほどがある、と誰もが思った決断
本作『キンキーブーツ』は、突然死した父親の後を継ぎ、倒産寸前の靴工場の経営再建を目指す若者が、起死回生の秘策として、ドラッグクイーン用のブーツを開発することを思い立つ、という作品だ。
片田舎の紳士靴工場プライス社は、大口の契約を打ち切られて瀕死の状態だ。不良在庫を抱えたまま、二進も三進も行かない状況に追い込まれていたのだ。
そんな会社を引き継いだチャーリーは、古くからの従業員をクビにせざるを得ないと決意する。一人一人に解雇通知を告げていくが、その中の若い女性従業員ローレンに「社長なら何もできないと嘆く前にニッチマーケットを見つけてピボットしろ!」と叱咤される。その瞬間、チャーリーの頭の中で、ロンドンで出会ったドラッグクイーンのローラのことが浮かんだ。
彼女は、大柄で、舞台で履くブーツのかかとがすぐ折れてしまうことに悩んでいた。チャーリーは、彼女たちをターゲットにした新しい、セクシーなブーツを作り出すことを思いつくのだ。
ローラの協力をとりつけたチャーリーたちは、ミラノの見本市に出展するため急ピッチで開発に取り組む・・・。
実話に基づく、靴工場のピボットの物語
本作は実話に基づいたストーリーだ。
経営危機に陥った紳士靴工場がピボットする場合、
1) 靴を作る技術や設備を使って別の製品開発に取り組む
2) より高級な、あるいは逆に安価な紳士靴を開発する
3) 全く違う靴を作る
の、3つがあると思うが、チャーリーが選んだのは3だった。リーンスタートアップ流にいえば、顧客ニーズ型ピボット(Customer Need Pivot)というべきか。
チャーリーは、ミラノの見本市での成功に賭け、自分を理解してくれない婚約者と別れ、自宅を抵当に入れ、死ぬ気でこのピボットに挑戦しているのに、なかなか従業員には理解してもらえない。そうした悲哀に耐えながら、それでも彼は従業員と会社を守るために奮闘する。最初は単なる優柔不断のボンボンだった彼が、苦闘の中で大きく成長していくのである。
これはまさに起業家の物語だ。起業家こそ、見るべき映画なのである。
(関係ないが、皆の心が一つになる良いシーンに、流れる名曲は、誰あろうジェームズ・ブラウン の「It's A Man's Man's Man's World」なのだよ)