原付一種市場の衰退からの協業開始
2016年の原付一種領域におけるヤマハとホンダの協業検討開始のニュースは、当時2輪業界のみならず経済界の大きな話題となりました。すでに日本独自の規格となってしまった50ccの原付一種は、世界市場で原付の主流である110〜125ccよりはるかに生産数が少なくなってしまい、1980年代のバイクブームを支えた原付一種を作り続けることは、メーカーにとっては大きな負担となっていたのが実情でした。
そして2016年に始まった平成28年排出ガス規制は、ほぼ日本専用でコストがかけられない原付一種にとっては対策がじつに難しく、非常に酷な制度といえました。その影響で、長年多くの人に愛された50ccのホンダ モンキーが廃盤となったことをご記憶の方も多いでしょう。
また原付一種の売り上げ減を加速させたのは、皮肉にもヤマハの電動アシスト自転車の存在でした。1993年に発売されたヤマハPASは、電動モーターの駆動力をアシストに使う乗り物ながら、免許とヘルメット不要という手軽さと利便性の高さが評価され、2008年には累計出荷台数100万台を達成。その後も世界各国にマーケットを拡大し、2019年にはPASのドライブユニットは累計生産500万台に到達しました。
ヤマハとホンダの「協業」は、原付一種という「ほぼ日本専用品」を維持することからスタートしたといえるでしょう。2018年にはホンダ タクトをベースとする、ホンダ生産のヤマハ ジョグが発売され、1980年前後の時代の熾烈なホンダとヤマハの販売競争である「HY戦争」を知るベテランたちを、大いに驚かせたものでした・・・。
電動の原付一種分野の協業は、既定路線の実行!?
ちなみに2016年の協業に関する発表には、ICE(内燃機関)50ccの原付一種に限らず、電動2輪の原付一種も含むことが記されていました。ICE50ccの原付一種のOEM供給については、2018年中の開始を目標と明記されておりそれが実現に移行しましたが、電動の原付一種については具体的な開始年の記載はありませんでした。
すでに完成していたICE50ccに対し、当時電動の原付一種はまだ発展途上だったわけであります。今回の電動分野の協業発表は、機が熟したと両社が判断したことのあらわれでしょう。なお新たにホンダからヤマハへOEM供給されるのは、EM1 e:(イーエムワン イー)」とBENLY e: Ⅰ(ベンリィ イー ワン)をベースとする、日本市場向けモデルです。
昔を知る者として感慨深いのは、1994年のデビュー以降にホンダ スーパーカブ(およびその類似モデル)から、ビジネスバイク市場のシェアを急速に奪った「ヤマハ ギア」の対抗策として登場した「ホンダ トピック」の流れをくむBENLY e: Ⅰが、近い将来にヤマハへのOEM供給のベースになるということです。1950年代から長年ライバルとして様々なジャンルで競ってきた両社ですが、2050カーボンニュートラルに向かう今の時代を、共闘して乗り越えるということになったわけですね・・・。
EM1 e:、BENLY e:Ⅰの両機種はともに、ホンダが製造販売している交換式バッテリーであるHonda Mobile Power Pack e:(モバイルパワーパック イー)を採用しており、同製品の技術は日本国内の交換式バッテリーコンソーシアムにも採用されています。
ホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキ、そしてエネルギー企業のENEOS HDが協業して生まれた交換式バッテリーシェアリングサービスのGachaco(ガチャコ)のステーションは、まだ東京、埼玉、大阪にしか展開されていません。今回のホンダとヤマハの原付一種の電動2輪車OEM供給合意によって、国内における電動車および交換ステーションの普及が加速することを期待したいです。