1960年代に磨き上げられた技術・・・ホンダ4ストローク50ccツイン!!
現在のMotoGPが世界ロードレースGPという名称だった時代・・・1962年から1983年の間には、歴代最小排気量となる50ccクラスがありました。その初年度の1962年から1966年の期間、第一期GP活動期だったホンダは4ストローク単気筒、そして1963〜1966年は2気筒のマシンで戦いました。
このクラスにおける当時のホンダ最大のライバルは、2ストロークのスズキでした。1962〜1964年の3年間、ライダー/メーカータイトルともにスズキ勢の独占を許したホンダでしたが、1965年はRC115を駆るラルフ・ブライアンズが王者に輝き、メーカータイトルをホンダが獲得。
そして1966年は最終戦日本GP(富士)を、安全性を理由にホンダがボイコットしたため、RC116に乗るルイジ・タベリは悲願の50ccクラスライダータイトル獲得を諦める残念な結果になりましたが、最終戦を前にホンダはメーカータイトル防衛を確定させており、このシーズンのソロ部門5クラス(50、125、250、350、500cc)のメーカータイトル全獲得という偉業を成し遂げることができたのです。
GPを統括するFIM(国際モーターサイクリズム連盟)のレギュレーション変更により、1969年シーズンから50ccクラスは単気筒のみ参戦が許されることになりました。それゆえに2輪用4ストローク50ccツインは、実質的に1960年代を最後に封印されることになった技術・・・になったわけです。
設計者の、少年時代の2つの夢を搭載した50ccツインエンジン!
CKデザイン代表の佐々木和夫さんは、1960年代・・・ホンダ50ccツインの世界GPでの活躍に胸を躍らせていた多くの少年のひとりでした。1970年、ホンダに入社した佐々木さんは、4輪車体設計、そして2輪車体設計やプロジェクトリーダーを歴任。そして退社後の1980年からは、商品開発プランナーや開発を主業務とするCKデザインを開業し、今日に至っています。
CKデザインは1991年に、西ドイツ(当時)のホレックスとのコラボレーションによりホンダ4ストロークRFVC4バルブ単気筒を搭載するスポーツモデル「644OSCA」を発売。そして2003年からは小型汎用エンジンを搭載した「仔猿」シリーズを2003年から発売し、世界的にミニバイクファンたちから注目されることになりました。
そもそもCHデザインの仔猿は、中学〜高校生時代に多摩テックでエンジンを搭載する乗り物を楽しんだ佐々木さんが、その当時の記憶をベースに生み出した「小さい4ストロークエンジンの楽しさを伝える」乗り物として誕生しました。
今ではご存知ない方も少なくないかもしれませんが、当時ホンダは全国各地に「◯◯テック」を開設していました。これら施設はバイクユーザーに走る場所を提供し、ルールとテクニックを学んでもらう場を作ることを目的に企画されたもので、奈良県の生駒テック、東京の多摩テックなどが展開されていたのです。
Uコン飛行機などでエンジンの魅力に目覚めた佐々木少年に、エンジン付きの乗り物に魅了されるようになる契機を与えたのが多摩テックでの体験だったわけですが、佐々木さんのその時代のホンダへのオマージュと恩返し的な想いで誕生したのが、仔猿ということなのです。
そしてこの度プロトタイプが完成した仔猿50TTは、佐々木さんが1960年代に憧れたホンダ50ccツインレーサー・・・当時世界のメディアから「時計のように精密」と驚嘆された技術へのオマージュを、仔猿の小さな車体のなかに搭載したモデルといえるでしょう。つまり仔猿50TTは、佐々木さんの少年時代の2つの夢を、融合させ具現化したのが、ツインエンジンなのです。
エンジン1機でも、2機でも走ることができる仔猿50TTプロトタイプ!
そもそも佐々木さんが仔猿50TTの設計・試作を始めたのは、仔猿の販売を開始してから数年後にあたる2007年ころからとのことで、実は結構前からその構想を温め続けていたそうです。
仔猿にも採用されているホンダ製汎用エンジンのGX35同様、360°自在傾斜4ストロークという技術を採用している「GX25」という25cc汎用エンジンが発売されたのは、今から20年前の2002年のこと。そして佐々木さんは、少年のころから欲しい!! と思っていたホンダ製50cc2気筒GPレーサーのような、最小の4ストローク技術のコンポーネンツを使ってものづくりができる!! と思い、夢の1台として仔猿50TTの開発を進めていったのです。
1つの車体に複数のエンジンを搭載するのは、ノートンツインを2機搭載するT.C.クリステンソンの「ホグスレイヤー」や、ホンダCB750エンジンを3機搭載するRCエンジニアリングの「AT&SF=アッチソン・トピカ・アンド・サンタフェ」など、1970年代ドラッグレース業界のトレンドを思い出させますが、仔猿50TTはGX25をタンデムに積んでドライブ側を自動車のタイミングベルトなどに使われる、コグドベルトで連結させています。
仔猿50TTの始動方式はリコイルスターターですが、ツインエンジンという構造からエンジンは1機のみ、または2機同時に始動させることを選べます。1機あたり25ccという極小の排気量ゆえのフライホイールマスの小ささ、そして2機のエンジンをベルトで連結するという構成ゆえ、2機運転しているときの燃焼間隔の差異に由来する振動などの問題を発生させることはなく、単気筒よりもマイルドというマルチシリンダーのメリットだけを乗り手は享受できるのがとても印象的です。
2機のエンジンのキルスイッチは現状ではそれぞれ独立しているので、前後どちらかのエンジン25ccのパワーだけで走行をすることも可能です。フロントブレーキは右手、リアブレーキは左手のレバー操作で両足は左右のステップ上にのせるだけ。25cc X 1、または25cc X 2という小さな排気量ではありますが、遠心クラッチなので右手のスロットルを捻るだけで何の問題もなく仔猿50TTは走り出してくれます。
さすがに急な坂道を25ccのみで上がるのはキツイと思いますが、平坦路では25ccでも問題なく走れてしまうのには驚かされました。そして25cc X 2の50ccで走ったときは、ツインサウンドの心地良さとともに、クルージングを楽しむことができます。
販売予定価格は99万9,000円!! キット販売なので、組み立てることも楽しめます!!
25cc X 2の50ccで走っているときは、ツインエンジンならではの伸びやかな加速感も楽しめます。公称出力は2.2psという控えめな数値ですが、これは元のGX25の1.1ps/7,000rpmを「かける2」したものであり、仔猿50TT用として吸気系、排気系を新作したことによって、もう少し実際にはパワーが出ているのでは・・・? と思わせる走りっぷりでした。
しかし佐々木さんとしては、1960年代に最速を追求したホンダ製50ccGPレーサーたちとは異なり、安全で快適に走れるツアラーとして仔猿50TTをまとめ上げたと語ります。思えばその創業以来、ホンダは高度な速さなど技術の粋を追求するだけでなく、常に安全や人の暮らしに役立つ製品作りを心がけてきた企業でした。
そんなホンダマンとしての薫陶を授かって、今もエンジニアとして活躍する佐々木さんとしては、振動や騒音が少ないから疲れることなく、疲れないから安全に長時間乗ることができるところに、仔猿50TTがツインエンジンを採用することの、最大の価値を見出しているのでしょう。
400〜500kmほどの走行テストの途中では、タンデムというレイアウトゆえのシリンダー間にこもる熱による、キャブレターのパーコレーションの問題なども経験しましたが、それら諸問題は佐々木さんが試行錯誤して対策を施して解決。そして晴れて、受注生産販売の受付を開始する運びとなりました。
仔猿50TTは既存の仔猿シリーズ同様に完成車ではなく「キット」として販売され、販売価格は99万9,000円〜(税別)を予定。組み立ては機械いじりの好きな方ならば問題なく行うことができるでしょう・・・と佐々木さんはコメントしており、もし組み立て中に困ったときは、遠慮なく電話などで相談してくださいとも語ってました。
なお公道走行するための登録に関しては、ボア・ストローク値35×26mmのGX25を2機・・・つまり総排気量が50ccをちょっと超えるため(50.028cc)、いわゆる「黄色ナンバー」の原付二種になります。
購入者自身がキットから組み立てた仔猿50TTは、その人だけの、世界でひとつの作品になるわけです。ありふれたレディメイドの製品では飽き足らない方の目には、仔猿50TTはとても魅力的に映る1台なのではないでしょうか? シリアスオファーオンリーではありますが、興味のある方はぜひCKデザインに連絡してみてください!
仔猿50TTプロトタイプ 主要諸元
■エンジン: 空冷4ストローク タンデムツイン 2バルブ/シリンダー 総排気量: 50cc ボア×ストローク: 35x26mm 圧縮比: 8.0:1 最高出力:2.2ps/7,000rpm 始動方式:リコイル
■車体 全長×全幅×全高:860×430×625mm ホイールベース:599mm シート高: 450mm フレーム:チューブラーバックボーン フロントサスペンション:USDテレスコピックフォーク リアサスペンション:スイングアーム+ツインショック ブレーキ(フロント/リア): ドラム タイヤ(フロント/リア): 90/70-4 乾燥重量:23.5kg
■容量 燃料タンク:0.75リッター
■価格 99万9,000円〜(予定価格、キット販売)