電動化以外にも、顧客の選択肢を増やす!
この共同発表は、11月13日と14日に行われるスーパー耐久最終戦「スーパー耐久レースin岡山」の舞台、岡山国際サーキットにて行われました。2021年度のスーパー耐久ST-Qクラスには、トヨタが水素エンジン車「カローラH2コンセプト」を走らせて話題になっていますが、マツダも最終戦に同クラスに次世代バイオディーゼル燃料を使うICE車「バイオコンセプトデミオ」で参戦しています。
5社の共同発表では、3つの取り組みに挑戦することが明らかにされましたが、そのうちのひとつが"カーボンニュートラル燃料を活用したレースへの参戦"です。またスバルとトヨタは、バイオマス由来の合成燃料を使用し、2022年のスーパー耐久シリーズに挑戦する予定とのことです。なお参戦車は、スバルはBRZをベースにした車両、そしてトヨタはGR86をベースにした車両になる予定です。
エコ燃料をモータースポーツの場で使うというアイデアは、昨年はじめにも4輪F1界隈で話題になったことが記憶に新しいですが、それが実際に日本のモータースポーツの場で行われるということは、とてもワクワクさせてくれる話題に違いありません。
2輪車向けの水素技術分野では、カワサキ、ヤマハ、スズキ、ホンダが協力!?
"3つの取り組み"の2つ目は、"2輪車などでの水素エンジン活用の検討"です。
川崎重工は、2010年から次世代エネルギーとして水素に着目し、社会生活に必要なサプライチェーン全体(「つくる」「はこぶ」「つかう」)にわたる技術開発を進めてきました。現在、オーストラリアの褐炭からつくった大量かつ安価な水素を日本へ「はこぶ」ための実証試験を開始し、2021年度中には川崎重工が建造した世界初の液化水素運搬船「すいそふろんてぃあ」による水素の輸送を予定しています。また「つかう」では、2018年に世界で初めて成功した市街地での水素100%を燃料とするガスタービン発電技術で培った水素燃焼技術をベースに、航空機用、船舶用、二輪車用といった陸・海・空のモビリティ向け水素燃料エンジンの開発を進めています。
ヤマハ発動機は、二輪車やROV(四輪バギー)等、自社製品への搭載を視野に入れた水素エンジンの技術開発を行っています。そして、これらの開発を加速させるために、新規の設備導入の準備と、社内における開発体制の強化を進めています。
このたび、川崎重工とヤマハ発動機は、二輪車への搭載を視野に入れた水素エンジンの共同研究について検討を開始しました。さらに今後は、本田技研工業株式会社、スズキ株式会社が加わり、4社で二輪車における内燃機関を活用したカーボンニュートラル実現への可能性を探っていく予定です。協調と競争を分けるべく、協調領域と協働研究の枠組みを明確にした上で推進していきます。
こちらの引用にあるとおり、まずはカワサキとヤマハが2輪用水素エンジンの共同研究についての検討を開始・・・そして、ホンダとスズキもこれに加わり、日本が世界に誇る4大2輪メーカーが強調しつつ競争することで、この分野を発展させていく意思があることをうかがわせます。
そして"3つの取り組み"の3つ目は、"水素エンジンでのレース参戦継続"です。先述のトヨタがスーパー耐久に投入している水素エンジン車「カローラH2コンセプト」は、2016年からヤマハとデンソーが開発した技術を盛り込んでいます。トヨタの代表取締役である豊田章男が、ドライバー「モリゾウ」として「カローラH2コンセプト」のハンドルを握り、レースへの参戦をするということは、言うまでもなくトヨタにとって水素エンジンが「肝煎り」のプロジェクトであることの証です。
国家プロジェクトまで昇華できるかが、この取り組みのゴールかもしれません?
来るカーボンニュートラル時代に生き残れるのはEVだけ・・・という見方をする専門家も多い現在、将来も各種ICE車を生き残らせるためには、エコ燃料や水素燃料を使った優れた2&4製品とそのためのインフラ普及が必要です。この度の5社の共同発表は、EV開発も進めつつ、同時にその可能性を追求するという、強い決意がうかがえます。
内燃機関と組み合わせた燃料の「つくる」「はこぶ」「つかう」の更なる連携を進めることで、今後5社は、カーボンニュートラル実現に向けて、電動化への取り組みに加え、お客様により多くの選択肢を提供することを目指し、一体となって以下の取り組みに挑戦していきます。
日本が世界と勝負できる大きな分野のひとつであるICE技術ですが、将来EVが市場を支配することになると、需要が減るであろう日本のICE技術のノウハウは一気に陳腐化し、ひいては日本の国力低下に直結することになるでしょう。残念ながら、現在の混沌ののちにEV時代が到来したとき、日本がICE時代同様に盟主国のひとつとして君臨できる保証は、今のところありません。
カーボンニュートラル時代のICE活用としては、エコ燃料と水素燃料が切り札となるのでしょうが、エコ燃料はさておき水素燃料に関しては、過去記事で紹介したとおり、現状の技術や日本の状況では、水素はエコとは呼べない・・・という現実があります。
日本政府は2050年カーボンニュートラルに向け、冷却材にヘリウムガスを用いた原子炉である高温ガス炉による水素製造技術開発を2030年めどに注力していますが、2011年の東日本大地震による原発事故などの影響もあり、原子炉を使った水素製造が広く国民の支持を得られるかは不透明です。
水素の製造法としては、化石燃料(天然ガス、石油、石炭など)のガス化・改質、そして電力による水の電気分解があります。ゆえに化石燃料が豊富な国、そして太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーによる余剰電力がある国では、貯蔵できるエネルギーである水素を活用するインフラは、将来性があると言えるでしょう。
仮定の話ではありますが、豊富な化石燃料や余剰電力を活用するために、将来海外諸国がそれぞれの国に水素インフラ網を作ってくれれば、輸出産業化することを前提に、水素燃料ICE技術を日本勢が開発することのメリットは極大になるでしょう。
また日本がこれまでのエネルギー政策を転換し、再生可能エネルギー大国を目指しそれになることができれば、"核"の問題に悩まされることがない、エネルギー自給型の「水素社会」を作るという、夢のある未来像を描くこともできます。
水素を使った大規模発電所網構築、そして航空機や大型船舶の輸送網構築など、革新的なエネルギー国策として「水素社会」を日本に作ることができれば、水素燃料を使った2&4で私たちが楽しんだりする未来もおとずれるのかもしれません。
ICEから切り離すことができないプロセスである"燃焼"により、NOx(窒素酸化物)が発生することをどう抑えるかという課題などが水素エンジンにはありますが、燃料電池による電気モーター駆動のFCV以外の「水素」の乗り物の可能性が、日本のメーカー各社によって追求されることが明らかになった今回の"共同発表"は、私たちICEファンにとって頼もしく、喜ばしい話に違いないでしょう。今後も各メーカーの動向に、注視しましょう!